AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

イギリスの「人体組織法(2004年)」と遺体・遺骨の移管

 一つ前の記事で、アイヌ政策有識者懇談会の第3回会合で「諸外国の主な先住民族政策」として参考にされた外国の中で、遺骨や遺跡に関連するのはアメリカ、カナダ、オーストラリアの3カ国だけであったと述べておいた。今日は、有識者懇談会がまったく関心を向けなかった(?)イギリスのHuman Tissue Act 2004(人体組織法 2004年)を参考資料として提示しておきたい。

 同法の第3部第47条が、博物館などに収蔵されている人間の遺体や遺骨などを「帰還」させる(返還する)移管する権限について規定している。
第1項で、同法が遺骨返還の権限を付与する9つの機関(大英博物館や自然史博物館)の理事会などの決定機関がリストアップされている。
第2項は、これらの機関が、博物館などの他の機能とは関係なくいかなる理由においても、そうすることが適切であると判断すれば、その収蔵物から遺体や遺骨をはずすことができるとしている。この場合、対象となる遺体や遺骨は、同法発効の日より遡って1,000年以内に死んだ人のものであると合理的に信じられるものに限定されている。
第3項は、(a)遺体や遺骨が人間の物ではない他の物と混じり合ったり、結び付けられていたりする場合、そして(b)それらを別々にすることが望ましくなかったり、できなかったりする場合には、第2項の権限には、その関連物を一緒に返還移管する権限が含まれることを規定している。これによってミイラのような人工遺物をそのままに返還移管することを可能にしているが、墓の中に一緒に埋められていても遺骨や遺体と離れている物は対象外となっている。
第4項と5項は、第2項の権限は追加の権限であって、当該機関に適用される信託や他の条件に影響を及ぼすものではないとしている。

47 Power to de-accession human remains

(1)This section applies to the following bodies—
The Board of Trustees of the Armouries
The Trustees of the British Museum
The Trustees of the Imperial War Museum
The Board of Governors of the Museum of London
The Trustees of the National Maritime Museum
The Board of Trustees of the National Museums and Galleries on Merseyside
The Trustees of the Natural History Museum
The Board of Trustees of the Science Museum
The Board of Trustees of the Victoria and Albert Museum.

(2)Any body to which this section applies may transfer from their collection any human remains which they reasonably believe to be remains of a person who died less than one thousand years before the day on which this section comes into force if it appears to them to be appropriate to do so for any reason, whether or not relating to their other functions.

(3)If, in relation to any human remains in their collection, it appears to a body to which this section applies—
(a)that the human remains are mixed or bound up with something other than human remains, and
(b)that it is undesirable, or impracticable, to separate them,
the power conferred by subsection (2) includes power to transfer the thing with which the human remains are mixed or bound up.

(4)The power conferred by subsection (2) does not affect any trust or condition subject to which a body to which this section applies holds anything in relation to which the power is exercisable.

(5)The power conferred by subsection (2) is an additional power.

http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2004/30/section/47
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2004/30/notes/division/5/3/2/2

 いわゆる「傘」となるこの法律があって、その下で各博物館などはそれぞれの方針を定めている。それは、また後ほど見ていくことにして、今日は最後に、この法律と博物館、先住民族の遺骨返還問題との関係を考える上で、ネット上に公開されている非常に興味深い論文を紹介しておくことにする。著者が「まとめ・展望」で述べていることは、言葉を多少変えれば(例えば、「人体」を「遺体・遺骨」に、「個々人」を「遺族」などに)、現在進行中のアイヌの遺骨の取り扱いの議論にも当てはまると考える。

日本では死体の検査や献体、病理組織の名目で、遺体や人体部分が多く保管されており、これらの利用をめぐる議論について個別的な対応がなされてきた。しかし、これらの保管される人体の実態に関する情報があまりにも稀少であることもさることながら、人体を直接対象とする研究とそれによる人体の理解の深化が進む時代において、個々人の自由意志にもとづく決定の以前に定められているべき、土台としての人体の位置付けとこれらの利用に関する制限が設定されていない状況は、甚だ不釣合いであると言わざるを得ない。(井上悠輔「『展示・陳列される人体』の返還をめぐる議論の意味するもの―人体組織の管理に関するイギリスでの議論から―」(http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/OJ3-2/inoue.doc)、87-88ページ)⇒新URL=http://ir.library.osaka-u.ac.jp/metadb/up/LIBMETHK01/3205inoue.pdf、88ページ

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20101027/1288116810

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