AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

アイヌ民族の遺骨=文化財――しかし、誰の?

(直前記事より続く)

文化財」としての遺骨
 現在問題となっているアイヌ民族の遺骨は「古人骨」とは別物であることを前回指摘したが、人類学・民族学研究連絡委員会の報告をもう少し見ていくことにする。

 2.同報告によれば、「古人骨」の発掘件数は、30年前には年に数百件であったが、現在では約1万件にのぼるそうである(p. 330)。連絡委員会は、そうした「古人骨」がもつ価値や意義を次の3つに分類している。

a.「人類進化あるいは日本人の起源や変遷の証拠となる生物資料」、あるいは「過去の人間の身体が持っていた生物情報の証拠資料」の「ほぼ全て」であり、「替え難い物的証拠」
b.「日本人の歴史を知るための」埋蔵文化財
c.「私たちの祖先の遺骨」

 そして委員会は、こうした価値や意義を理解する専門家によって、古人骨の「処置・採取・整理・記載・登録・保管がなされ、現在および将来の研究に役立てられなければならない」と述べている。(pp. 327-28)

 直前の記事で述べたように、この報告はアイヌ民族の遺骨を主眼においているわけではないのだが、アイヌ政策推進会議では、それも含まれるという観点で議論が進んでいるようであるから、次の点を指摘しておきたい。有識者懇談会でもそうであったが、特に「人骨研究者」の立場からは、aの研究のための「資料」という側面のみが強調されているように思える。

 埋蔵文化財としての古人骨について、報告は、次のように提言している。

 古人骨は単に生物資料としてだけでなく、過去の日本文化を知るための貴重な埋蔵文化財でもある。しかし、そのような認識は、必ずしも広く一般に受け入れられているわけではない。そこで、学問的・学史的に特に貴重な古人骨を重要文化財に指定することによって、古人骨が文化財であるとの認識を専門家だけでなく広く国民に持ってもらうことが望ましい。なお、重要文化財に指定された古人骨は、中央にだけ保管されるのではなく、日本各地に保管され、適切な機関で公開展示されるなどの配慮も必要であろう。(p. 334)

 発掘された人骨が文化財であるとすれば、19世紀後半以降に発掘され、現在保管されているアイヌ民族の遺骨も文化財である。しかし、それは、アイヌ民族文化財である。アイヌ政策有識者懇談会は、先住民族としてのアイヌ文化政策を推進することを結論として打ち出しているが、今回は、「文化財」をも含む「先住民族の遺産」という観点から遺骨問題を考える一つの指針を提示しておきたい。

 「古人骨研究体制の整備について」の報告が出されたのは平成9年、すなわち1997年であるが、遺骨や埋葬品に関する近年の国際規範における考え方の変化を探る上で有益な国連文書が1993年に公表されている。国連の「先住民に関する作業部会」の元議長、エリカ-イレーヌ ダイス(Erica-Irene Daes)による"Study on the Protection of the Cultural and Intellectual Property of Indigenous Peoples"(U.N. Doc. E/CN.4/Sub.2/1993/28)である。この研究において、先住民族の「文化」を構成する数多くのさまざまな要素の中に、芸術作品や科学的知識などと並んで、遺骨や埋葬品が含まれている。

 「文化的・知的財産」という概念は、その後、「遺産」に置き換えられたが、「古人骨研究体制の整備」報告の2年前の1995年に、ダイスは、「先住民族の遺産保護」に関する最終報告を提出し、付録(Annex)に収められた「指針」の部分で、遺骨・遺体や埋葬地を「先住民族の遺産」の中に含まれると定義している。("Protection of the heritage of indigenous people"(E/CN.4/Sub.2/1995/26), p. 10, para. 12.)

12. The heritage of indigenous peoples includes all moveable cultural property as defined by the relevant conventions of UNESCO; all kinds of literary and artistic works such as music, dance, song, ceremonies, symbols and designs, narratives and poetry; all kinds of scientific, agricultural,
technical and ecological knowledge, including cultigens, medicines and the rational use of flora and fauna; human remains; immoveable cultural property such as sacred sites, sites of historical significance, and burials; and documentation of indigenous peoples’ heritage on film, photographs, videotape, or audiotape.

 その上で、「人間の遺体や遺骨、および関連する埋葬品は、文化的に適切な様態でその子孫や領域に返還されなければならない」とし、この場合の返還と方法は、「当該先住民族による決定」に準じるものとされている。遺骨や埋葬品に関する文書資料は、保管、展示、その他の方法で使用可能ではあるが、それは「当該先住民族と合意された形態や様態でのみ可能」とされる。(p. 11, para. 21)

21. Human remains and associated funeral objects must be returned to their descendants and territories in a culturally appropriate manner, as determined by the indigenous peoples concerned. Documentation may be retained, displayed or otherwise used only in such form and manner as may be agreed upon with the peoples concerned.

 また、「政府は当該先住民族と協力して聖地や儀式の地を確定する迅速な措置を取るべきである」として、このような場所には埋葬地も含まれ、先住民族による許可のない立ち入りや使用から守るためにも迅速な対策を講じるべきであると論じている。(p. 12, para. 31)

31. Governments should take immediate steps, in cooperation with the indigenous peoples concerned, to identify sacred and ceremonial sites, including burials, healing places, and traditional places of teaching, and to protect them from unauthorized entry or use.

 一方、特に遺骨や埋葬品の研究に関してすべての研究者や学術機関が迅速に取るべき対策として、次の項目を挙げている。

1)保管している「文化的財産の包括的な詳細目録と先住民族の遺産の文書資料を先住民族とその共同体に提供すること」(p. 12, para. 32)
2)「先住民族の遺産のすべての要素を要求があり次第、伝統的所有者に返還する」か、あるいは「遺産の共同の保管、使用、解釈のために伝統的所有者との正式な合意を得る」こと(p. 12, para. 33)
3)先住民族の遺産の寄付や売却の申し出があった場合、直接関係のある先住民族や共同体に最初に連絡を取って、その元々の所有者の意思を確認した上でなければ、「いかなる申し出も断わるべきである」こと(p. 12. para. 34)

Researchers and scholarly institutions
32. All researchers and scholarly institutions should take immediate steps to provide indigenous peoples and communities with comprehensive inventories of the cultural property, and documentation of indigenous peoples’ heritage, which they may have in their custody.
33. Researchers and scholarly institutions should return all elements of indigenous peoples’ heritage to the traditional owners upon demand, or obtain formal agreements with the traditional owners for the shared custody, use and interpretation of their heritage.
34. Researchers and scholarly institutions should decline any offers for the donation or sale of elements of indigenous peoples’ heritage, without first contacting the peoples or communities directly concerned and ascertaining the wishes of the traditional owners.

 この他にも、次のようなことを指針として提示している。
4)先住民族が「平均的、科学的、技術的教育」を受けられる機会を増やすとともに、「先住民族に影響を及ぼしたり、恩恵をもたらしたりしそうなすべての研究活動への参加を増大するためのあらゆる可能な努力を行うこと」(p. 13, para. 38)
5)科学者や研究者たちの学会は、「先住民族と協同して」セミナーの開催、出版物の刊行を通して、ここに記されている指針と矛盾しない倫理的行動を推進し、これに違反する会員に対しては厳しく規律すること。(p. 13, para. 39)

38. Researchers and scholarly institutions should make every possible effort to increase indigenous peoples’ access to all forms of medial, scientific and technical education, and participation in all research activities which may affect them or be of benefit to them.
39. Professional associations of scientists, engineers and scholars, in collaboration with indigenous peoples, should sponsor seminars and disseminate publications to promote ethical conduct in conformity with these guidelines and discipline members who act in contravention.

続く。

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110208/1297147865

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