AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

遺骨の詳細目録の作成・提示を

(直前記事より続く)

 人類学・民族学研究連絡委員会の報告は、古人骨研究の意義や専門家とその活動を支える資金と設備の不足を訴えることで研究体制の整備と支援を求めることを目的としている。そこで資金と設備の不足解消に9項目の提言を行っているが、次の第4項目がおもしろい。

4 全国数カ所に、人類学の博物館あるいは研究所を新設し、古人骨の研究を行うことが望ましい。同時に、そこで、発掘現場担当者に対し人骨の取り上げから保管までの指導を行う。(p. 327)

 報告が出た1997年6月と言えば、「アイヌ文化振興法」の施行直後であるが、現在の「民族共生の象徴となる空間」における博物館や研究施設の構想は、まさにこの提言を実現に移すことになるものであり、ここで表明されている形質人類学者の利害関心に沿うものである。新設する博物館や研究所は、「少なくとも全国で5カ所は必要」と主張している(p. 333)。

 事実かどうか自らの眼で確認したことはないが、過去に盗掘されたアイヌの遺骨には、研究資料として必要な基礎的データが保管されていないものがあると関係者から聞いたことがある。報告によれば、「人骨」研究者の間では、「発掘、整理、同定、登録、保管、記載研究(=報告書作成)」といった基礎的記載研究を行う者が「大幅に不足している」と指摘している(pp. 331-332)。基礎的記載研究者の確保策の一つとして、記載研究の評価システムの改善に言及している。

研究者の評価システムの中に、標本の管理業務の評価を認め、業績として発掘報告書や基礎的記載研究の評価を高める配慮を行う。同時に、分析的研究への指向性の強い研究者も、記載的研究を尊重する努力を行うべきである。(p. 327)

これなどは、学界の体質そのものを変えていかないといけない問題のようにも見えるが、いずれにしても、基礎的な仕事が評価されない、そのような仕事をする人材がいないということと、アイヌの遺骨の一部に基礎的な資料データがなく、実際の「生物資料」としての価値が低いとみなされることで放置されてしまっているのではないかと思える事態とも関係しているのではないのだろうか。

 アメリカの「先住民族墳墓保護・返還法(NAGPRA)」には長所短所、賛否両論があるが、評価される点の一つは、同法が大学や博物館に保管されている先住民族の遺骨の詳細目録の作成を義務付けたことである。これは、先に紹介したダイス指針でも、保管している「文化的財産の包括的な詳細目録と先住民族の遺産の文書資料を先住民族とその共同体に提供すること」(p. 12, para. 32)が、「すべての研究者や学術機関が迅速に取るべき対策」の一つとして挙げられていた。

 アイヌ「人骨」の研究者は、「研究、研究」と主張する前に、過去に発掘・盗掘収集されたアイヌ民族の遺骨の詳細目録を作成し、アイヌ民族のみならず、日本社会に公表してはどうだろうか。そして、学界は、この「業務の評価を認め、業績として・・・評価を高める配慮を行う」ことにしては、いかがであろうか。過去の謝罪や清算もクリアせねばならないであろうし、アイヌ民族に研究をさせて欲しいと請うのは、まだまだそこから先のことではなかろうか。

(昨年10月に開かれた日本人類学会では、大学で保管されている「人骨」の数や保管状況を調べて北海道アイヌ協会に報告することが約束されたそうであるが、どこまで詳細な調査と報告がなされるのか、要注目である。)

遺骨問題の研究はまだまだ未完であるが、「人類学・民族学研究連絡委員会報告 古人骨研究体制の整備について」を読んでの感想は、一応、これで終了とする。

※転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110209/1297185899