AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

ジェノグラフィック・プロジェクト

 2011年6月6日の「ペルーの先住民族、DNA試料採取を阻止」(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20110606/1307288769)で言及したジェノグラフィック プロジェクト(Genographic Project)には、恐らく『ナショナル ジオグラフィック』の日本人読者も自分の試料を送って参加しているのかもしれない(http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/genographic/project.shtml)。

 過去に採られたアイヌ民族の血液サンプルや遺骨からDNAを採取して日本人のルーツを探ろうとしている日本の遺伝人類学者たちがこのプロジェクトに参加しているのかどうか、わが輩は現段階ではまだ情報を得ていないが(「ジェノグラフィック・プロジェクト」の全貌が明かされていないようであることも問題視されている)、協同関係にあっても、競争関係にあっても、両者の研究目的と方法は共通しているようである。

 「ジェノグラフィック・プロジェクト」に対しては、北米を皮切りに、初期段階から強い反対の声と抗議の活動が展開されてきた。途中経過は省くが(今後、時間の取れる時に少しずつ取り上げたいという気持ちはある)、「先住民族問題に関する国連常設フォーラム」の第5回会合(2006年5月)の報告書には、経済社会理事会の関心事として次のような勧告が収められている。

常設フォーラムは、WHOと人権理事会が、歴史的なヒトの移動に関する理論を定式化するために世界の先住民族から10万のDNA標本を収集することを提案しているジェノグラフィック・プロジェクトの目的の調査を行うこと、ジェノグラフィック・プロジェクトが直ちに一時停止されること、そして両機関が同研究の活動が実行および計画されているすべての共同体の先住民族の自由で事前の、情報に基づく同意に関して先住民族に報告することを勧告する。
The Permanent Forum recommends that WHO and the Human Rights Council conduct an investigation of the objectives of the Genographic Project which proposes to collect 100,000 DNA samples from the indigenous peoples of the world in order to formulate theories on historic human migrations, that the Genographic Project should be immediately suspended and that they report to indigenous peoples on the free, prior and informed consent of indigenous peoples in all communities where activities are conducted and planned.


United Nations Permanent Forum on Indigenous Issues, "Report on the fifth session (15-26 May 2006), Economic and Social Council, Official Records, Supplement No. 23" (E/2006/43; E/C.19/2006/11), p. 15, para. 88(http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N06/384/35/PDF/N0638435.pdf?OpenElement

 同会期中に、世界先住民族代表者会議(Global Indigenous Caucus)、国際インディアン条約評議会(International Indian Treaty Council)、バイオコロニアリズムに関する先住民族評議会(Indigenous Peoples Council on Biocolonialism: IPCB)などの先住民族諸団体が、ジェノグラフィック・プロジェクトに反対する共同声明を提出した。さらに、会期中の5月20日に、それまでに集約されていた868名分のオンライン署名が、IPCBによって同プロジェクトの責任者に送付された。

 この年の12月には、北米でのプロジェクトが一時停止された。ペンシルヴェニア大学の社会・行動科学機関評価委員会(Social and Behavioral Sciences Institutional Review Board)が、アラスカ ネイティヴ医療センター機関評価委員会による正式な苦情申し立てに応じて、同プロジェクトを一時的に停止した。アラスカ ネイティヴ医療センターは、ジェノグラフィック・プロジェクトがアラスカ先住民族から血液標本を採取する前に適切な許可を得ることに失敗しているということで、すべての血液標本が直ちにアラスカに戻されることを要求した。さらに、同プロジェクトのインフォームド コンセントの書式が不充分であり、潜在的な参加者に対して、プロジェクトに関連するすべての危険性について情報を提供することができていないと主張していた。この件は、「DNA採取者、障害に衝突:トライブは彼らを信用しない」というニューヨーク タイムズの記事でも論じられた。Amy Harmon, "DNA Gatherers Hit a Snag: The Tribes Don't Trust Them" (December 10, 2006): http://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=FB0D11FC3F550C738DDDAB0994DE404482&oref=login&pagewanted=1

 しかしながら、冒頭で紹介したように、このプロジェクトは今も継続されている。

 今日はここまでにしたいが、わが輩が、投稿を休んでいられないばかりか、背中に冷たいものを感じるのは、政府のアイヌ政策有識者懇談会や推進会議の部会でアイヌ民族の盗まれた遺骨の継続的研究(DNA研究も含まれる)が提案されているにも拘らず、このような問題を把握しているはずの有識者や会議メンバー、政府関係省庁からの傍聴者、そして当事者であるアイヌのメンバーから、議事概要を見る限り、一度も話題とされずに事が進んでいることである。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110614/1308062652