AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

ヤノマミ人の血液試料(その2)

 2011/06/16の「ヤノマミ人から採取された血液試料」(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20110616/1308155234)の補足である。このようなサイト(1)もあるので、もしかしたら日本の人類学関係の本や論文でまとめられているのかもしれないが、そこまでまだ辿り着いていない。夕べ下書きしたところまでアップロードしておく。

 2002年4月5日〜7日にニューヨーク州イサカにあるコーネル大学で科学研究の倫理と先住民族の遺伝的遺産の保護を議論する「アマゾンの悲劇:ヤノマミの発言、学界論争、研究倫理」("Tragedy in the Amazon: Yanomami Voices, Academic Controversy and the Ethics of Research")と題されたセミナーが開かれた。ブラジルとヴェネズエラから3名のヤノマミ人とPro-Yanomami Commission(親ヤノマミ委員会)の事務局長が参加して、ブラジルの司法次官補による公式の要請という支持を得て、ヤノマミ人たちが米国全土から集まった著名な人類学者たちを前に、将来の学術研究のためにとおよそ25年前に採取された血液試料の返還を要求するとともに、「ヤノマミ人が将来、研究者に欺かれないように教育と保健の支援が必要」と訴えた。

 このセミナーの開催に至る大きな事件―150年の人類学史上最大のスキャンダル塗れの論争とも形容される事件―が、アメリカで2000年に起きていた。その年の11月にイギリスのジャーナリスト、パトリック ティアニー(Patrick Tierney)によるDarkness in El Doradoが出版され、その中で、著名な遺伝学者のジェームズ ニール(James Neel)(2)と人類学者のナポレオン シャグノン(Napoleon Chagnon)が1967年から68年にブラジルとヴェネズエラの国境地域のヤノマミ人の村で製造品との交換で血液試料を採取していたことが書かれていた。(3)

 Pro-Yanomami Commissionによれば、セミナーで議論される中心課題は、1947年に人間に対して行われる研究調査に関する倫理的側面に関する国際的行動綱領を確立したニュールンベルグ綱領の違反と、血液試料がヤノマミ人の知識と同意がないままに再処理され、新たな研究で利用され続けているという疑惑であった。
 セミナー参加者のヤノマミ人の一人、ダヴィ コペナワ(Davi Kopenawa)は、2001年にワシントンD.C.で行われたアメリカ人類学会の年次会合で参加者に対して、血液試料の返還を求める宣言を行っている。
 ブラジルでは、決議196/6が先住民族に対するこのような研究や血液試料などの国外への持ち出しを広く制限している。(4)

 セミナーの発表者の発言要約(5)からいくつかを紹介しておく。約3,000本という最多の血液試料が収集されているペンシルヴァニア州立大学(Pennsylvania State University)―こちらの大学であった―のケネス ワイス(Kenneth Weiss)教授(6)の手紙が代読され、その中で、ニールが血液試料が失われないようにいくつかの研究機関(ペンシルヴァニア州立大学、エモリィ大学、国立ガン研究所、ミシガン大学)に配分していたこと、彼は、それらが「ユニークでかけがえのない」ものであり、ヤノマミ人への尊敬から受け入れに同意したが、ヤノマミ人がこの問題に関する決定を下すまで、血液試料を使ういかなる研究も停止(モラトリアム)することにしたことが述べられていた。ワイス教授は、血液試料のヤノマミ人の健康への直接的応用はされていないと主張し、彼が知る限り、血液の売買やそれからの収益はないとも語っている。

 手紙を代読したジェフリー シー氏(フリーの研究者・作家)は、血液試料の取り扱いに関して、次のような選択肢を概括した:ヤノマミ人への返還、貯蔵している現在の研究機関による廃棄、ヤノマミ人の望みに応じた他の研究機関への移管。試料ビンには番号が付されており、採取された村を特定することは可能だろうが、個人を特定することは、万一可能であっても、村の特定以上に難しいであろうとのことであった。

 先住民族の権利擁護団体、Cultural Survivalのディヴィッド メイベリー-ルイス(David Maybury-Lewis)は、「ヤノマミ人の人間性抹殺は衝撃的だが、アメリカ人類学会がそれについて何もできないことも同じく衝撃的である」として、調査対象者に対する研究者の責任にこだわらねばならないと発言している。そして、ヤノマミ人に対する侮辱的学説(doctrine of contempt)は、ニールとシャグノンだけに限られているのではなく「科学の中ではるかにもっと広く存在し」ており、「さらに、それは人種差別主義、自民族中心主義、そして民族浄化の本質である」とも指摘した。

 モンタナ大学のレダ マーティンズ(Leda Martins)は、「血液試料の問題は、1960年代末だけに限られてはおらず、1970年代、1980年代、1990年代にも起こっている」にもかかわらず、エル ドラドに関するアメリカ人類学会の調査チームがその問題をまったく無視しているように見えると述べた。「ヤノマミ人たちは誤った情報を与えられ、血液は科学のために利用されたが、彼らの健康ケアのためには利用されなかった。」

 Pro-Yanomami Commissionのマリア J. de オリヴェイラ(Maria Josefine de Oliveira)は、同委員会のブルース アルバート(Bruce Albert)の声明の一部を読み上げた。

 亡くなったヤノマミ人の血液を外国人が外国の土地に貯蔵していることは、ヤノマミ人に対する道義的かつ文化的な侮辱である。さらに、ヤノマミの血液がヒトゲノム プロジェクトをはじめ、何らかの現在の研究で使用されているのかどうかはっきりしていない。生命倫理に関する独立の国際委員会が原子力エネルギー委員会とのつながりも含めて、そのような問題を調査するべきである。

 ヤノマミ人が多くの健康問題に苦しんできた最近の30年間に、一度たりともジェームズ ニールとナポレオン シャグノンの双方が、あるいはどちらかが医療支援のための何らかのプロジェクトを展開したということはないということが強調された。

(1) http://www.hiratsuka1.juntak.net/2007/0607/0607.html
http://www.hiratsuka1.juntak.net/2007/0614/slide_0614-2.pdf
なお、わが輩は、英語表記/発音に従っているが、「ヤノマモ」とも表記される。言うまでもなく、「矢野真美」さんのことではない。

(2) 彼は、日本の被爆者に対する原爆の生物学的影響の研究でも知られている。次のURLのpp. 72-75。ついでながら、p. 76から「原子力発電」の記事が始まる。
http://books.google.co.jp/books?id=uwYAAAAAMBAJ&pg=PA72&lpg=PA72&dq=James+Neel,+Hiroshima&source=bl&ots=697aXYsgrc&sig=N52mwaXeyCVERKJMr3QFf2BVFlg&hl=ja&ei=v8f8TfjNEIisugPwpuzJAw&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=2&ved=0CCsQ6AEwAQ#v=onepage&q=
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&lr=&id=KAqotXZLUeUC&oi=fnd&pg=PR1&dq=James+Neel,+Hiroshima&ots=dlHawEYDuU&sig=yo0kPKYbB9EBxnRjBxY9AfHEsCk#v=onepage&q=
http://www.amazonia.org.br/english/noticias/noticia.cfm?id=9019
(3) http://books.google.com/books/about/Darkness_in_El_Dorado.html?id=1HGvt72lAG0C
この書籍は、出版される前から大きな反響を呼び、アメリカ人類学会なども調査委員会を設置して報告書を出したりしている。これに関する電子メールなどによる通信文書や報告者、論争と騒ぎが一段落ついてからの考察などは膨大な量に及ぶので、ここでは省くことにする。こちらのサイトで今日までの動きを知ることができる。いや、素晴らしいサイトである。http://www.nku.edu/~humed1/index.php/darkness-in-el-dorado
 また、こちらの日本語サイト(http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/b/anthrop_yano.html)にも2003年くらいまでの資料が集められているようである。元の文書を日本語で読めるわけではないが、自動翻訳サイトのリンクがついているのと、タイトルなどの部分訳もあるので大まかな雰囲気はつかめると思う。
 同書の中では、問題の研究者がヤノマミ人に放射性同位体を実験的に注射したという疑惑やヤノマミ人を「獰猛な人々」として正当化を図る行為など、血液試料採取以外の大きな問題も取り上げられていて、それぞれがセミナーでも言及されたようであるが、これらもここでは取り上げない。

(4) http://chronicle.com/article/Blood-Feud/13242
http://www.culturalsurvival.org/ourpublications/news/article/stolen-spirit-the-issue-yanomami-blood

(5) http://www.nku.edu/~humed1/darkness_in_el_dorado/documents/0156.htm

(6)http://www.anthro.psu.edu/faculty_staff/weiss.shtml


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110620/1308553444

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