AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告における遺骨問題の取り扱い

 7月1日の記事でも引用したが、北海道新聞は、アイヌ政策推進会議の報告書が「アイヌ民族側が求めてきた内容をほぼ盛り込んで」いると評した。時間がなくて重箱の隅を穿ることはひとまず控えたのだが、「ほぼ」というのはどういう意味なのか、社説はいくつかの注文をつけているが、わが輩にはよく理解できない。

 6月22日の記事で取り上げた「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」という超党派議員の会で、加藤理事長はまたも「涙を流し、声を詰まらせながら」何を訴えたのであろう。「すべて」から「ほぼ」を引いた残りの部分の実現であろうか。では、それは何か。分らない。

 10を求めて9が実現したとしても、残りの1が絶対に譲れないものであれば、推進会議の中でもっと抵抗を示したはずである。一方、10のうち5しか盛り込まれていないとしても、そこに本当に目指すものが含まれていれば、妥協もあり得よう。知恵を出さねば助けないよというより、この案を呑まねば「象徴空間」も、その先もないよと、どこかの筋から迫られたのであろうか。

 いずれにしても、今回の「報告書」で「利益の一致」を見たわけであろうが、国家に土地を管理され、経済を管理され、文化をも管理されるアイヌ文化振興法レジームが、いよいよ確立に向けて動いている。

 北海道新聞の社説は、「拠点とはいっても、一カ所集中では多様なアイヌ文化を守ることにはならない」と論じている。これももっと詳しく聞きたいところだが、遺骨を1ヶ所の施設に集約することが「十分に尊厳が守られる形」につながったり、「先祖の名誉、尊厳を返して」もらうことになるのだろうか。まぁ、アイヌの皆さんがそう言われるのなら、わが輩があれこれ言うことでもないが。だけど、それをするかしないかで「北海道の発展」が左右されることでもなかろうとも思わなくもないが、どうしても「アイヌ民族の発展」より先に出してしまわざるを得ないのだろう。(この段落の引用は、http://ameblo.jp/asanotakahiro/entry-10925181544.htmlより。)

 今般の「報告書」では、会議の中で誰が言ったのか知らないが、「人骨問題は、アイヌが置かれている問題を全て集約していると言えるかもしれない。歴史的経緯を踏まえた問題をどう解決するかは、共生空間をどう作るかそのもの。」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/shuchou-kukan/dai4/gijigaiyou.pdf)と特徴付けられた問題は、解決どころか、十分な議論もされずに先送りされてしまっている。否、単なる先送りではない。

 「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告の「(4)アイヌ精神文化を尊重する機能」の8ページには、次のようにある。

 また、同様にアイヌ精神文化の尊重という観点から、各大学等に保管されているアイヌの人骨について、遺族等への返還が可能なものについては、各大学等において返還するとともに、遺族等への返還の目途が立たないものについては、国が主導してアイヌの人々の心のよりどころとなる象徴空間に集約し、尊厳ある慰霊が可能となるよう配慮する。
 集約の対象となる人骨を特定し、人骨の返還や集約の進め方に関する検討を行うため、各大学等の協力を得て、アイヌの人骨の保管状況等を把握する。
 なお、集約に際しては、施設の設置場所に留意するとともに、地元の理解を得るよう努めるほか、集約した人骨については、アイヌの人々の理解を得つつ、アイヌの歴史を解明するための研究に寄与することを可能とする。

 「各大学等において返還」することは当然のことではあるが、この過程に関して「国が主導」したり、国が歴史的責任を明らかにすることは巧妙に含まれていない。現状で、「象徴空間」が「アイヌの人々の心のよりどころとなる」ことができるのかどうかも甚だ疑問ではあるが、遺骨の「集約」だけは「国が主導」するようである。集約の過程、集約された後の管理も国の主導か。そこにアイヌ民族は、どういう権限を持つのだろうか。また次の作業部会を設けて「返還や集約の進め方」を検討するようであるが、次の作業部会が到達しようとしている目標点は、「アイヌの人骨の保管状況等を把握する」ところまでのようである。

 そして何よりも、「人骨研究」推進派が「してやったり」と思っているであろうことは、「集約した人骨については、アイヌの人々の理解を得つつ、アイヌの歴史を解明するための研究に寄与することを可能とする」という文言を首尾よく押し込むことに成功していることである。「アイヌの歴史を解明するための研究」とは言うまでもなく、これまでの形質人類学的研究に加え、アイヌの遺骨からDNAを取り出して「日本人」のルーツを探るという自然人類学者の研究である。こうした「調査研究」については、「報告書」の6ページに、次のように記されている。

②調査研究
 未解明な分野が多いアイヌの社会や文化の形成・発展過程、内容等を明らかにしていくため、文化施設や自然空間を研究フィールドとした実践的な調査研究を行う。このほか、アイヌの歴史を解明するための人類学等の調査研究については、後述するアイヌの人骨の集約等の状況に応じて行うことを可能とする
 また、各研究機関におけるアイヌ関連の研究成果発表等の機会を積極的に提供する等により、研究者間の交流を促進する。
 研究成果は、文化施設における展示等を通じて、アイヌの人々を含めた国民に広く還元するものとする。

 恐らく、篠田氏の著書にあるような、世界地図に人類の移動ルートが記された図やDNAのハプログループを示す図や表などが大きなパネルとなって博物館に展示されるのであろう。あくまでも、「アイヌの人々を含めた国民に広く還元」されるものである。

 同じく6ページの最終段落には、次のように記されている。

 象徴空間が、上記の展示、調査研究及び人材育成に関する中心的な拠点として機能するためには、それにふさわしいアイヌ文化資料や人材の確保が必要となる。このため、国内外のアイヌ文化資料、人材等の実態把握を行う必要がある。

 これについては、6月9日に「2つの点は、線でつながるのだろうか」という「単なる憶測」記事を書いているので、ここでは改めて書かないことにするが、文言上は、まだ「実態把握を行う必要がある」という段階に止めているようだ。まぁ、来年度は(あるいは今年度の補正で)、ここに予算をということであろう。

 ここのところ、物理的に、インターネットにアクセスする時間が限られているため確かなことは言えないが、わが輩が定期的に訪問しているいくつかのアイヌ民族関係の諸団体のサイトには、今のところ何も「報告書」について論評がなされていないようである。この「沈黙」は何を意味しているのだろう。どうせ有識者懇談会の延長だろうとシラケきっているのだろうか。まぁ、そのうち出てくることを期待して待っていよう。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110707/1309968755