AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

アイヌ政策推進会議の「政策」とは何?

 ほんの少し前までは「ウタリ対策」と呼んでいたように「対策」であったものが、「アイヌ政策に関する有識者懇談会」、「アイヌ政策推進室」、「アイヌ政策推進会議」、「アイヌ総合政策室」というように、「政策」が使用されるようになった(新たな作業部会でも)。メディアでも、ごく日常的に「政策」が使われている。「対策」から「政策」に変わって、なんとなくそれが意味する対象や範囲が広く、大がかりになったような印象を受けてはいないだろうか。そして、それに賛成する者も、反対する者も、「政策、政策」と言っている。しかし、わが輩には、「政策って何?」、今進められているものを正しく「政策」と呼べるのか?という疑問が付きまとっている。「有識者」たちは「政策」を非常に狭く限定された意味で用いているという印象を拭いきれない。

 あるフランス人政治学者がイギリス人政治学者に「政策」と「政治」を分けるなんて無意味だと語ったというエピソードを聞いたことがあるが、現在アイヌ政策推進会議で中心的役割を担っており、そしてその推進会議の活動の土台となるアイヌ政策に関する有識者懇談会の報告書作成でも中心となった人物は、先に紹介した秋山元審議官(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/searchdiary?word=%BD%A9%BB%B3)の他に、現在は北海道大学で教授職にある二人(常本照樹、佐々木利和)であることから、ここは北海道大学の研究成果にお出まし戴こう。

 本当に都合の良いことに、北海道大学公共政策大学院開設記念シリーズ論説に「公共政策とは何か」『PHP 政策研究レポート』Vol.8, No.91(2005年4月)というものがある(http://research.php.co.jp/seisaku/report/05-91ronsetsu1.pdf)。冒頭で、「政策の定義づけ」(1-2ページ)を行っている。短いから直接読んで戴いてもよいのだが、少々長めに引用しながら見て行きたい。

 ①まず、「政策」の定義は「極めて多彩」であり、「定義づけの違いによって政策の主体から客体に至るまで対象とする領域や内容に大きな違いが生じる」ということ。「政策」とは、「極めて抽象的」で、「柔軟性」をもつ概念である。
 ゆえに、為政者は、大したことをしていないにもかかわらず、それを「政策」と称することで何か大そうなことをやっているかの如く見せかけることもある。一方、それに釣られる人々には、ありもしない「政策」に大きなエネルギーを浪費させられる者もいる。(もちろん、とんでもないことをやっていながら、何もしていない振りをする為政者もいる。)

 ②そこで、同研究では、「政策」を「理想と現実の関係を繋げる手段」と定義する。これによって、次の事項を踏まえる。

 ③「第1に重要なことは、政策は『理想と現実の関係』において形成されるものであり、『理想』がなければ現実を評価し現実との関係を認識することもできないことである。『行動を指導する原理たる理想』、『将来構想や基本姿勢を支える理想』がまず必要となる」ということで、理想と現実の間の関係を二つに分ける。

 ④「「理想と現実が不一致」の場合」:「理想と現実の乖離を埋めることが政策の目的となる」。

 ⑤「「理想と現実が一致」している場合」:「政策の目的は、理想たる現実を変えようとする要因を取り除くこととなる」。
 この⑤は、除外して考えてよかろう。

 ⑥そこで大切なことは、「政策といっても、その前提として位置づけられている理想によって、大きく方向性を変えることになる」。

 なるほど。そこで疑問として浮かぶのは、今の「推進会議」なり政府(行政府)が位置づけている「理想」というのが何なのかということである。果たして、「アイヌ政策」に理想なり理念はあるのか。あるとすれば、それは何か。有識者懇談会の報告書には、次のように書いてある。しかし、これだけで理解できるか?

( 1 ) 今後のアイヌ政策の基本的考え方先住民族という認識に基づく政策展開
先住民族であることから導き出される政策の展開


③ 政策展開に当たっての基本的な理念
今後のアイヌ政策は、アイヌの人々が先住民族であり、その文化の復興に配慮すべき強い責任が国にあるという認識に基づき、先住民族に係る政策のあり方の一般的な国際指針としての国連宣言の意義や我が国の最高法規である憲法等を踏まえ、以下の基本的な理念に基づいて展開していくべきである。
アイヌアイデンティティの尊重
イ 多様な文化と民族の共生の尊重
ウ 国が主体となった政策の全国的実施

 「理念」と書かれてはいるが、「手段」のようでもある。

 ⑦「第2に重要なことは、政策は手段と位置づけることである。政策は、一定の理想を実現するための手段であり、目的ではない。政策の執行自体が目的となってしまう現象を、『目的の転移』という。こうした転移現象は、理想が明確でない場合、あるいは『理想と現実が一致している』にも関わらず、『理想と現実が一致していない』場合に発動される政策を表面的に選択しているケース等で生じやすい。」

 有識者懇談会報告書で「具体的政策」として挙げられている以下の項目は、ここでいう「手段」ということになろうか。(しかし、「目的の転移」となってはいないか?)
 それに、上の引用での「政策の展開」の「政策」は、「理念」と区別されているようでもある。

( 2 ) 具体的政策

① 国民の理解の促進
教育と啓発

② 広義の文化に係る政策
ア 民族共生の象徴となる空間の整備
これらの施設及び空間は、本報告書のコンセプト全体を体現する扇の要となるものであり、我が国が、将来へ向けて、先住民族の尊厳を尊重し差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴としての意味を持つものである。
イ 研究の推進
アイヌ語をはじめとするアイヌ文化の振興
エ 土地・資源の利活用の促進
オ 産業振興
カ 生活向上関連施策

③ 推進体制等の整備
このため、今後は、全国的見地から国が主体となって総合的に政策を推進するとともに、アイヌの人々の意見等を政策に反映する体制や仕組みを構築する必要がある。具体的には、アイヌ政策を総合的に企画・立案・推進する国の体制の整備やアイヌの人々の意見等を踏まえつつアイヌ政策を推進し、施策の実施状況等をモニタリングしていく協議の場等の設置が必要である。これらにより、アイヌの人々の意見をも踏まえた効果的な政策の推進や実施状況の検証等が図られていくものと期待される。

 ⑧「第3に重要なことは、政策にはいろいろなレベルが存在し、それにより内部要因、外部要因が変化することである。一般的に「政策−施策−事務事業」の各レベルを一括して「政策」と称する場合が多い。

 あー、これかな? しかし、そうすると、ますますわかり難くなる。一番左のレベルとしての「政策」と、一括総称としての「政策」が混同されてしまう。今の政策推進会議も、まさにその使い方をしているようだ。

 ⑨そこで、「政策議論を展開する場合には、自らの立ち位置を明確にして議論する必要がある。たとえば、政策議論における立ち位置の違いによって、自ら選択し行動する主体性がもてる内部要因としての課題と、自ら選択し行動する主体性がもてない外部要因としての課題とを明確にし、議論することなどが必要となる。」

 そうなのだ。「有識者」という中立性を醸し出すお化粧はもう剥げているのだから、そこを明確にして議論することがよかろう。

 いずれにしても、「アイヌ政策推進」の「政策」の受け取り方、それから生じる期待の度合い、等々、語る人それぞれに異なるイメージのレベルで語っているのではないだろうか。政策・施策・事務事業をごちゃまぜにして語るのではなく、また「手段」だけの議論に引き込まれるのではなく、「理想」や「理念」をきちんと議論することがまだ重要ではないのだろうか。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110906/1315243399

広告を非表示にする