AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

殺虫剤汚染された文化財の返還

 昨日の記事の続きではなく、単独の記事として投稿することにした。こちらは、「クリーニング」を要する問題である。

 博物館等の文化財保護施設における殺虫剤使用については、Google検索でも簡単に挙がってくる。例えば、杉山真紀子・佐藤仁彦「博物館で使用される殺虫剤に関する一考察 : バイオアッセイによるジクロルボスの拡散と美術材料などへの吸着(化学物質)」、『家屋害虫』 15(2), 99-103, 1993-12-20や吉田直人・佐野千絵「〔報告〕文化財保存施設におけるジクロロボス蒸散殺虫剤の使用について」、『保存科学』、No.47などである。http://ci.nii.ac.jp/naid/110007724033
http://ci.nii.ac.jp/els/110007724033.pdf?id=ART0009526565&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1328720039&cp=
http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/47/4720.pdf
 また、そのための商品もある。博物館の収蔵物や図書館の書庫などで発生する害虫用の防虫プレート http://store.shopping.yahoo.co.jp/cococre/ya-0430.html

 20XX年、日本各地に存在しているであろうアイヌ墓地から持ち去られた埋葬品が、あるいは海外に流出している文化財アイヌ民族へ返還されることとなる。その時のために参考となる活動が、アメリカで行われている。

 2000年3月16日〜18日の3日間、アリゾナ大学のアリゾナ州立博物館(ASM)で“Contaminated Cultural Materials in Museum Collections(博物館収蔵品における汚染された文化財)”と題されたワークショップが開催された。このワークショップは、NAGPRAの助成で企画・実施されたものであり、2人の主催者は、同年の4月4日にアラスカで行われたNAGPRA評価委員会でワークショップの報告を行った。その報告の中に、次のようなことが挙げられている。(注:以下の概要は、わが輩が注目した点を中心に作成しているため、すべての要点を網羅しているわけではない。全文は、こちら⇒http://cool.conservation-us.org/waac/wn/wn22/wn22-2/wn22-207.html

 1990年のNAGPRA制定後、インディアントライブは、博物館に収蔵されていた文化財の返還を受けるようになった。こうした文化財の多くには、保存のために化学的な毒物が使用されてきた。返還プロセスの一部として、インディアントライブは、返還された文化財の取り扱いに関わる人の健康への潜在的な危険性を減らすために、文化財に関する情報を求めていた。

 ASMの収集物管理スタッフは、長い間、同博物館の殺虫剤使用の歴史が曖昧で不完全であることを懸念していた。

 ホピ トライブがASMの保存・修復ラボもアリゾナ大学の学際研究に参加するように求めた。この研究には、アリゾナ毒物コントロールセンター、ASM、化学学科が参加していた。この研究は、ホピ トライブに返還された汚染文化財を扱ったり、それに晒されたりすることの潜在的な健康への影響を調査した。

 ワークショップがターゲットとしたのは、アリゾナ州の21のインディアン トライブの代表であった。ASMの主催者は、ワークショップの企画段階で、トライブがワークショップの議題に載せて欲しいと考える課題が何かを決めるためにトライブを訪問した。こうしたトライブと協議を持ったのは、ASMが彼らの加工品を多数収蔵しているからであった。

 トライブの関心事項には、次のような事が含まれていた。
・返還された文化財の取り扱い方は、トライブ毎に大きく異なる場合がある。従って、人間の健康に対する危険性の影響も、かなり違ったものとなり得る。健康への潜在的な危険性を論じる際には、文化的使用の問題と環境汚染の可能性も考慮されるべきである。

 主催者は、ワークショップの計画と準備段階で、次の2点が教訓として得られたとしている。一つは、返還文化財の取り扱い方(儀式での使用、保管、配置、処分など)によって、人と環境に対する危険の度合いが大きく異なるということ。2つ目として、殺虫剤汚染の可能性のある収蔵品を取り扱う際に個人が考慮した方がよいであろうと思われる複数のタイプの文化的保護が存在しうるということ。

 ワークショップでは、問題の重要性と適切性を紹介するためにトライブの視点が提出された。企画者の一人のサドンゲイさんが汚染に関する文化に対する危険性とトライブの見解を取り上げた。クワニウィスゥマさんは、「ホピ殺虫剤プロジェクト」について発表した。

 ワークショップの成果として、次のような課題が確認された。
 一般的に、トライブの人々も博物館スタッフも現在、博物館コレクションの殺虫剤汚染の潜在的危険性に気づいていない。

 文化財返還後にトライブがどのように取り扱うかに幅広い違い(利用、埋葬、保管所、保存、焼却)があるために、人の健康への悪影響の意味合いは、個人と環境のレベルでの影響に関係している。

 問題の複雑性に対処するには協力的なチームが必要であるが、対策チームは地域レベルで組織されるのが良く、また議論の過程に害虫防除に対するインディアントライブの慣行を取り上げたり、取り入れる必要がある。

 NAGPRA評価委員会への勧告には、次のようなポイントが含まれた。
 気づいている人は非常に少ないが、すべての博物館が殺虫剤使用歴を作成するべきである。博物館は、内部の返還委員会に収集物管理者を入れるべきであり、もし博物館スタッフに保存担当者がいない場合は、この目的のために保存担当者と契約するべきである。

 博物館の保存・修復担当者は、文化財のサンプリングを含むすべての試験には、トライブの人々との協議と彼等の直接参加を含めなければならないということを知っておくべきである。

 殺虫剤汚染を論じるには、多彩な専門家集団の間での協力が不可欠である。チームには、トライブの人々、医療毒物研究者、保存・修復担当者、化学者、そして/あるいは、産業衛生管理者や公衆衛生の専門家を含めるべきである。

 NAGPRAの規則には、次のように指摘している。
 NAGPRAの規則には殺虫剤の話題は一ヶ所しかない。博物館職員や連邦政府機関職員は、返還される文化財の受け取り者に対して、対象物またはそれを取り扱う人々に害を及ぼす可能性のある殺虫剤、保存料、あるいは他の物質が付着した遺骨、埋葬品、神聖な物品、その他の文化的承継品の現在知られているいかなる取り扱い方についても情報提供しなければならないというものである。

 しかし、この規則に従うには、次のような問題がある。ほとんどの博物館は現在のところ、使用されている殺虫剤やそれが収蔵品またはそれを取り扱う人間に対して持ちうる潜在的な害について、ほとんど知らないでいる。ほとんどのトライブが、現在知られているものだけでなく、返還された収蔵品に対する博物館の過去の殺虫剤の使用歴に関するすべての情報に関心をもっている。そして、ほとんどの博物館は、歴史的な殺虫剤使用を決定する方法を有していない。

 さらに、物や人に対する潜在的な有害性の決定には医学的な意味合いがあり、そのような決定は、試験とサンプリングなしには行えない。サンプリングは分析の一方法であり、NAGPRAの下では、その過程におけるトライブとの協議、情報を提供された上でのトライブの同意と直接関与が不可欠となる。

 最後に、4点の結論に一つとして、現在のNAGPRA規則は、この問題に関する無知の継続を促進していると指摘している。

アイヌ政策推進会議で、アメリカの方法には問題があると言うのであれば、最後の点のような指摘をすると良いのだろうに。返す気がないから関係ないというところだろうか。返す気があるのなら、こういう問題まできちんと手当てすべきであるということ。ただ返せば良いということではない。

 この情報が、いつの日か――本当は今日の問題でもあるのだが――役に立つことを願う。殺虫剤情報のデータベースを含めて、このワークショップの後の展開については、こちらを参照されたし。http://www.statemuseum.arizona.edu/


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20120209/1328719973