AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

常本部会長報告:「慰霊施設」から「集約施設」へ

 昨日か今日(10日)か、第4回「アイヌ政策推進会議」(7月6日)の「議事次第」と「配布資料」が公開されている。「議事概要」は、まだである。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai4/gijisidai.html
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai4/haifu_siryou.html

 熱心にメディア報道を集めておられる方のこちらのブログによれば、「『慰霊施設』に関しては、朝日新聞のみが」報じているとのことである。メディアの反応も寒々としているということか。

北大をはじめ全国の大学などが研究目的で収集したアイヌ民族の遺骨については、文科省が各大学などに調査とその回答を求めているが、政府として調査後の返還の進め方や、「尊厳ある慰霊」が可能となるような象徴空間での集約施設や配慮のあり方などについて、速やかな検討を進めるとした。
(「象徴空間」構想早期策定へ 朝日新聞7月7日朝刊)
http://pub.ne.jp/ORORON/?entry_id=4418697

参考までにこちらも⇒http://blog.goo.ne.jp/ivelove/e/a83110bdce9759f58574cb32b2c6bac8?fm=entry_awc

 「政策推進会議」の「資料2−2『民族共生の象徴となる空間』の更なる具体化について」には、次のように記載されており、内容は、既に「第8回『政策推進作業部会』議事概要」(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20120706/1341586000)で引用しているものとほとんど変わらない。

(3)アイヌの人骨に係る検討
・大学等におけるアイヌの人骨の保管状況等の調査と並行しつつ、調査後の人骨の返還に向けた進め方等に関する検討を速やかに進めるとともに、関係者の理解を得ながら、尊厳ある慰霊が可能となるよう、象徴空間での集約施設の在り方、慰霊への配慮の在り方、研究との関係等を検討・整理。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai4/siryou2_2.pdf

 記事としてまとめているということもあろうが、朝日の「調査後の返還の進め方」と報告の「調査後の人骨の返還に向けた進め方等」という表現に若干の意味合いの違いが感じられる。今後、この件に言及する場合は、当然のことながら、新聞記事ではなく、報告の文言を使用するべきである。

 もっと重要であろうとわが輩が気になることは、これまでの有識者懇談会や政策推進作業部会において当該施設に言及する際は「慰霊施設」と称されていたものが、上に太字で示すように、「集約施設」とすり替えられていることである。朝日新聞記事も、それをそのまま使用している。「集約施設」で慰霊にも配慮するということが、言葉の上からも固定されつつあると言えるのではないだろうか。因みに、左上の検索窓に「慰霊施設」と入力して「日記」をクリックして戴ければ、その言葉を含む発言などを引用している過去の記事が5本挙がってくるはずであるので、そこで確認して戴きたい。会議の議事概要を遡って「集約施設」で検索していないので、過去にまったくそれが使用されていなかったかどうかは確言できないが、このブログの他の記事を含めて、「集約施設」で挙がってくる記事は、この記事以外にはないはずである。


◎追記

 『「民族共生の象徴となる空間」作業部会 報告書』には、「慰霊施設」も「集約施設」も出ていない。(その代わり、たくさんの「施設」計画が述べられている。)文科省調査後の返還へ向けた進め方の「検討」についても、1年前の「報告書」の既定路線である。

 集約の対象となる人骨を特定し、人骨の返還や集約の進め方に関する検討を行うため、各大学等の協力を得て、アイヌの人骨の保管状況等を把握する。
 なお、集約に際しては、施設の設置場所に留意するとともに、地元の理解を得るよう努めるほか、集約した人骨については、アイヌの人々の理解を得つつ、アイヌの歴史を解明するための研究に寄与することを可能とする。
『「民族共生の象徴となる空間」作業部会 報告書』、8ページ。


◎追記2(2012/07/11, 23:07):

 今日の北海道新聞社説が「政策推進作業部会」報告を取り上げている。「共生空間 アイヌ民族理解の場に」http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/386625.html

 「一歩前進と評価したい」――お決まりの文句である。

 ほぼ1年前、「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告に関する同紙の社説に若干の言及をしておいた。

 北海道新聞の社説は、「拠点とはいっても、一カ所集中では多様なアイヌ文化を守ることにはならない」と論じている。これももっと詳しく聞きたいところだが、遺骨を1ヶ所の施設に集約することが「十分に尊厳が守られる形」につながったり、「先祖の名誉、尊厳を返して」もらうことになるのだろうか。
http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20110707/1309968755

 「一カ所集中」に対する批判は、どうなったのであろうか。降ろしたのか? 11日の社説には、「集約施設」という言葉は引用されておらず、「納骨・慰霊施設など」としている。毎度のことながら、この「など」が曲者であるが、「人骨研究」への言及はまったくない。ただ、「大事なのは、慰霊施設を造るにしても、その前に道内外の大学に研究目的で集められた遺骨の返還を進めることだ」と明言しており、この辺は、ここ1年間の地元での動きに対応しているようにも見える。

 「本来、返すべきものなのに放置を続ければ、慰霊の場を設けるといっても、アイヌ民族の理解は得られまい」と述べる一方で、直後に、「とはいえ」と「バランス」を取ろうとする。「返還手続きは短期間では難しい。慰霊施設の設置と同時並行で取り組むのも致し方ない」と。さらに続けて、「その場合でも、遺骨をめぐる問題には最後まで誠意ある対応をするという一線を見失ってはならない」と念を押してはいるのだが、理解が得られないままに「慰霊施設[=集約施設]の設置と同時並行で取り組む」という前提は、問い直すことのできないアンタッチャブルなものなのか。


◎追記3(23:42):

 3つ前の記事で「返還に向けた推定が可能となる」ような、「あくまでアイヌの方々のための研究」という「政策推進作業部会」での発言を取り上げた。

 「古人骨標本」の返還問題について取り上げた主張(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20120626/1340639423)の中で表明されている――片山氏が現在問題となっている遺骨の返還に関しても同じ主張をしているのかどうかは定かではないことを断わっておく――「返還されるべき場所に、安置するにふさわしい十分な設備があって、保管能力をもった担当者が存在する」という「望ましい条件」が整ってからの返還なら賛成であるという意見はよく耳にする。
 返還先で「研究に供されるべき適切な便宜」をはかるべきかどうかについては、返還先の人々によって決められるべきことである。返還されようがされまいが、遺骨は自由に研究材料として提供されるべきであるという研究者にとって都合の良い提案に関する反論はここでは措くとして、「望ましい条件」を付している研究者たちは、その「条件」を実現するためにこれまで何をしてきたのかが問われなければならないのではないか。例えば、片山氏の主張が著書の中で表明されてから既に20年以上が経過している。いまだにその「条件」が整えられていないという現実を、どう解釈すればよいのだろうか。
 「あくまでアイヌの方々のための研究」というのであれば、その「条件」が整うまで研究は停止するという「条件」を「人骨研究者」は、自らに課してはどうなのか。「アイヌの方々のため」であれば、研究者の「業績」も、先を越した越されたという競争も関係ないのであろうから。

 もう一点は、遺骨の返還のためにどうしてもDNA鑑定などの遺骨を損傷する方法が必要だと判断されれば――これもアイヌ民族が決めることである――これまでの歴史的経緯に直接・間接に何らかの関係をもつ研究者および機関を除外したり、鑑定を外国の研究者や研究機関――海外には先住民族の科学者もいる――に依頼するという方法も考えられよう。もちろんこの場合にも、鑑定の方法や結果の扱いについて事前に綿密な取り決めを行うべきである。この際の費用負担は、政府の責任で行えばよい。

 シッティング ブルの子孫のラポイントさんがDNA鑑定に踏み切った際、シッティング ブルについて知り、彼を尊敬していて、かつラポイントさんが信頼のおけるコペンハーゲン大学の研究者に依頼したということであった。http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20101018/1287382547

 以上は外野席からの意見であるが、重要なのは、遺骨に対するコントロール、決定権をアイヌ民族が持つということである。そのための議論や準備が政府の会議ではまったくなされていないのではないか。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20120711/1341934084