AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

参加同意撤回の権利―ヘルシンキ宣言/尾本惠市「先住民族と人権」

ヘルシンキ宣言
B.すべての医学研究のための基本原則


19. 医学研究は、研究が行われる対象集団が、その研究の結果から利益を得られる相当な可能性がある場合にのみ正当とされる。


20. 被験者はボランティアであり、かつ十分説明を受けた上でその研究プロジェクトに参加するものであることを要する。


21. 被験者の完全無欠性を守る権利は常に尊重されることを要する。被験者のプライバシー、患者情報の機密性に対する注意及び被験者の身体的、精神的完全無欠性及びその人格に関する研究の影響を最小限に留めるために、あらゆる予防手段が講じられなければならない。


22. ヒトを対象とする研究はすべて、それぞれの被験予定者に対して、目的、方法、資金源、起こり得る利害の衝突、研究者の関連組織との関わり、研究に参加することにより期待される利益及び起こり得る危険並びに必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなければならない。対象者はいつでも不利益なしに、この研究への参加を取りやめ、または参加の同意を撤回する権利を有することを知らされなければならない。対象者がこの情報を理解したことを確認した上で、医師は対象者の自由意志によるインフォームド・コンセントを、望ましくは文書で得なければならない。文書による同意を得ることができない場合には、その同意は正式な文書に記録され、証人によって証明されることを要する。


23. 医師は、研究プロジェクトに関してインフォームド・コンセントを得る場合には、被験者が医師に依存した関係にあるか否か、または強制の下に同意するおそれがあるか否かについて、特に注意を払わなければならない。もしそのようなことがある場合には、インフォームド・コンセントは、よく内容を知り、その研究に従事しておらず、かつそうした関係からまったく独立した医師によって取得されなければならない。


24. 法的行為能力のない者、身体的もしくは精神的に同意ができない者、または法的行為能力のない未成年者を研究対象とするときには、研究者は適用法の下で法的な資格のある代理人からインフォームド・コンセントを取得することを要する。これらのグループは、研究がグループ全体の健康を増進させるのに必要であり、かつこの研究が法的能力者では代替して行うことが不可能である場合に限って、研究対象に含めることができる。


25. 未成年者のように法的行為能力がないとみられる被験者が、研究参加についての決定に賛意を表することができる場合には、研究者は、法的な資格のある代理人からの同意のほかさらに未成年者の賛意を得ることを要する


26. 代理人の同意または事前の同意を含めて、同意を得ることができない個人被験者を対象とした研究は、インフォームド・コンセントの取得を妨げる身体的/精神的情況がその対象集団の必然的な特徴であるとすれば、その場合に限って行わなければならない。 実験計画書の中には、審査委員会の検討と承認を得るために、インフォームド・コンセントを与えることができない状態にある被験者を対象にする明確な理由が述べられていなければならない。その計画書には、本人あるいは法的な資格のある代理人から、引き続き研究に参加する同意をできるだけ早く得ることが明示されていなければならない。


27. 著者及び発行者は倫理的な義務を負っている。研究結果の刊行に際し、研究者は結果の正確さを保つよう義務づけられている。ネガティブな結果もポジティブな結果と同様に、刊行または他の方法で公表利用されなければならない。この刊行物中には、資金提供の財源、関連組織との関わり及び可能性のあるすべての利害関係の衝突が明示されていなければならない。 この宣言が策定した原則に沿わない実験報告書は、公刊のために受理されてはならない。


日本医師会訳)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/gijiroku/04090601/010.pdf

 北大のみならず、東大その他の研究所の「開示文書研究会」が必要なのかもしれない。

 ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則):http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AD%E5%AE%A3%E8%A8%80

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◎追記1: 別記事にしてもよいのだが・・・。

 東京大学在職中の1960年代後半から、筆者は、北海道のアイヌフィリッピンネグリト、オーストラリアのアボリジニ、さらに中国の少数民族など東アジア・太平洋地域の先住・少数民族集団の集団遺伝学的調査を行った。(略)
 具体的方法論としては、現地調査で医学検査等の際に採取された血液試料を用い(略)様々なタンパク質の多型(個体差)を検出し、得られた遺伝子頻度のデータをもとに集団間の遺伝距離(genetic distance)を推定し、それに基づいて特定の集団の遺伝的起源を究明した。(略)実験室で直接DNAを検査することが可能となった1980年代後半からは、筆者らが集めた血液試料を用いて、ミトコンドリアDNA多型等のデータによって同様の研究が行われて現在に至っている。


尾本惠市「先住民族と人権(1)――アイヌと先住アメリカ人――」『桃山学院大学総合研究所紀要』第29巻第3号、pp. 101-102.太字による強調はD.X.による。
http://ci.nii.ac.jp/els/110000036250.pdf?id=ART0000365296&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1352217670&cp=

 なかなか興味深い論文なのだが、なんだか、皮肉だなーと感じる。アイヌの関係者/団体や先住民族の権利推進の立場の人々が先住民族の血液・DNA採取の問題に距離をおいている理由が、なんとなく分った気もする。

 しかし、「医学検査等の際に採取された血液試料を用い」たというのは、問題ありなのでは? それに対してきちんと同意を得ていたと仰るのであれば別だが。

 ついでだが、この論文の中では、「先住民族の権利に関する国連宣言」の採択に関する国際的なプロセスに言及している部分には不正確な箇所がある。例えば、「国連では1993年、先住民族の団体である世界先住民族協議会(World Council on Indigenous Peoples)が提言した「先住民族の権利に関する世界宣言」が採択され・・・運動が始められた」(p. 106)以下の部分である。

 他にもいくつかの論文で明らかにされているが、相当数の人体組織試料が採取されている。それがどのような手続きで得られたのかについては、個々の論文には記されていなかった。あるいは、記されている論文を、わが輩がまだ見つけきれていないと言うべきなのだろうか。

◎追記2
 周知のごとく、現行国内法では無資格者は、採血を行うことはできない。医師が行うか、医師の具体的な指示の下に限って看護師や臨床検査技師が採血を行うことができる。
 「筆者らが集めた血液試料」ということだが、尾本氏は医師免許を持っているのだろうか。略歴を見る限り、記されてはいないが。きっと、「ら」の中に医師が入っていたか、現地の医師の協力を受けたか、あるいは、どこかで医師を雇って採血したか、なのだろう。<P.S.(2016.06.20):このことについては、「医師として採血を担当されたのは、当時まだ大学院生だった三沢章吾現筑波大学教授でした」と、尾本氏自身が公言している。>
 あるいはまた、人類遺伝学(遺伝人類学とも称しているようであるが)の研究調査であれば、文部科学省/文部省あたりから、医師でなくとも、特別に採血が許可されているのだろうか。それはないと思うが。
 いずれにしても、一流大学の高名な先生が来られるということで、遺骨問題に見られるのと同じように、現地の有力者からも特段の配慮が得られたのであろう。「先住民族と人権」を語るのであれば、その辺の経緯を明らかにして戴けないものであろうか。


◎追記3:

 海外のある論文からの翻訳である。

かくして、研究のための匿名試料の使用は、2つの厳重な基準が満たされる限り免除される。第1に、試料が研究開始時に既に存在していなければならない。第2に、ワークショップ参加者によって解釈されたように、識別子(identifiers)が研究対象とされる情報または試料から復元不能状態で完全に除去されていなければならない。ワークショップ参加者は、試料が匿名化されていると言えるのは、いかなる状況の下でもその個人の出所を特定することができない場合、そして唯一その場合のみであると合意した。現在、大きな集団に関するような環境においては、例えば、民族的出自、性、年齢層、限定的臨床データなどのような個人的出所に関する一部の情報を試料とともに保持しながら匿名性を確保することは可能であるかもしれない。例えば、具体的な病気の危険性のある個人の小さな集団から取得されたDNA試料のような別の環境下では、追加情報の保持は、匿名性を損なうかもしれないいかなる人でも、もし誰かがその試料をその出所と結びつけることができる場合は、試料は匿名化されていることにはならない。たとえ研究者が[人体]組織の出所を特定することができない場合でも、もし他の個人や機関がそれをすることができる場合、その試料は匿名化されてはいないのである。<<


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20121106/1352213951

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