AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

研究者の義理と関係のネットワーク

 昨晩読んだある論文にこういう件があった。概要を訳すと、先住民族から取得された血液は、これまで貴重な科学的商品であった。それは、別々のプロジェクトのために実験室や研究者たちの間でやり取りされ、それがまた彼ら/彼女らの間の関係、義理、共著者としての繋がりのネットワークを築いている、というものである。

 その出典を辿ると、元の著者は近年、この書を出している。長文の解説を読むと非常に面白そうである。もしかしたら翻訳版も出ているかもしれないが、まだ探していない。400ページ近いハードカバーで2,000円以下!(本当にハードカバー?)

 まあ、今回の「日本列島3人類集団の遺伝的近縁性」の論文でも多くの共著者が並んでいたが、最近の科学分野の論文の特徴でもあるようだ。誰か一人の親分の業績にならずに、平等に評価を分け合うというのは良い慣行であろう。

 共著関係というところで、古い話を思い出した。ある分野のアメリカの学界でコンピュータ分析を用いて一世を風靡した研究の方法論的欠陥を指摘した論文を全国学会誌に発表して名を知られるようになった某教授が語ってくれた大学院生の時の就職のための戦略に関するエピソードである。5人の仲間で、それぞれが書く論文に関わって、論文を5人の共著として出すという「盟約」を交わしたそうである。今日では、5人で1本の場合は5分の1のポイント換算になるが、レジュメ(履歴書)には5本の論文を掲載できるから見栄えはよくなるし、学会誌に登場すれば名前も知られるようになるというわけである。これが実際にどこまで実行されたのか、他の4人が誰だったのか、等々の話はなかった。

 話は変わるが、北米先住民族の力量も関係していようが、それ以上に、非主流派で少数派であるかもしれないが、医学者や人類学者の人体組織試料を利用した研究のあり方について、北米では学界の内部から批判的研究がいくつも出てきている。それに比べて、日本では、わが輩が畑違いの分野の人間であるから無知なだけかもしれないが、結局のところ、「単一民族」的発想が制度の基礎にあるからではないかと思うのだが、先住民族の人体組織試料を利用した研究への学界内部からの批判がほとんどないのではないかという印象がある。しかし、問題が認識されていないわけではなさそうだ。でも、外に向かって言えないわけがあるようである。つまるところ、師弟や仲間内の「関係、義理、共著者としての繋がりのネットワーク」から外されたくないのだろう。

 こういう話を聞いたことがある。親の代からのアイヌに関するある分野の研究者の研究が大いに問題があるのは認識しているのだが、その人に対する批判論文などを書こうものなら、その人から「資料」を見せてもらえなくなるから沈黙を通しているのだと。

 まあ、似たようなことが生体組織試料についても言えるのかもしれない。ピラミッド状の師弟関係や恩と義理の網の目が張り巡らされている世界のようでもあるらしい。従順にしていれば、権威主義的な親方ほど面倒見が良いから職にもありつけるし、引き上げてももらえる。しかし、そのお返しに、皆で結束して親方の名誉を守りにかかるのかもしれない。

 ところで、また話は変わるが、篠田氏はアイヌ政策有識者懇談会で、過去の遺骨研究のあり方について人類学者は反省しなければならないと仰っている。同氏は「日本列島3人類集団の遺伝的近縁性」研究には名を連ねていないが、氏にしても、齋藤氏にしても、K氏やO氏やH氏とは世代が異なる。過去の血液その他の生体組織試料採取のやり方に問題がなかったとは思っていないだろうと考えるのだが、わが輩がナイーヴ過ぎるのであろうか。過去の負の遺産をスッキリと精算した上でそれぞれの研究を続ける方が、気持ちの上でもスッキリするのではないだろうかとよけいな心配もするのだが、それとも負の遺産を遺伝のように受け継いで背負ったまま生きねばならない遺伝人類学者の悲しい性というか、業のようなものなのであろうか。

 負の遺産といえば、昨日のニュースでは、国の借金が今年度末までに1,000兆円を超えるとか・・・。

◎追記(23:59):
 アイヌ政策推進会議はどうなっているのかと久しぶりに訪ねてみると、リニューアルされている。写真つきである! もう新しいものが出ないから、整理整頓したのかな。

 リンク先がおもしろい。「大学・研究機関」は3つだけ。なぜ? これに、東大、総研大国立遺伝学研究所も付け加えられるのかな。そうそう、札幌大学も。その他、アイヌ関係の研究機関は、まだまだある。Selectiveであるのは、優遇措置だというクレームが来るのでは?

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/index.html


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20121110/1352556628

広告を非表示にする