AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

「『血』の政治学」から「DNAの政治学」へ?

国際シンポジウム「人種神話を解体する―Dismantling the Race Myth」

会期:12月15日(土)・16(日)
会場:国立京都国際会館 Room D


「人種」は、生物学的概念としての有効性が否定されて久しいが、今日でも社会的には根強く存在する。本シンポジウムでは、国内外からさまざまな分野の研究者を招いて、「見えない人種」のInvisibility, 科学と社会の共生産によるKnowledge, 「血」の政治学を越えてのHybridityの三つの角度から人種神話の解体を試みる。これまでの人種研究は環大西洋地域の経験に偏重するものであったが、本シンポジウムは日本・アジアの経験を重視しながら「見えないもの」「曖昧な存在」「はざまの領域」に光を当てることにより、人種研究の新たな地平を拓くことを目指す。
http://race.zinbun.kyoto-u.ac.jp/news/racesympo2012.html

 非常に面白そうではあるのだが、「日本・アジアの経験を重視しながら」と謳っているにもかかわらず、「若手リレートーク/ポスターセッション」が「日本で人種・エスニシティを研究すること」と題されてはいるものの、そして「混血」というテーマが当てはまるとはいえ、どこにもアイヌに対する「人種差別」を直接的に取り上げる研究者がいないようなのは不思議である。

 同研究所の10年くらい前のシンポジウムでは、昨年3月の法政大学でのシンポジウム(http://race.zinbun.kyoto-u.ac.jp/event_report/20110306.html)で開会挨拶をした、そして最近の「日本列島3人類集団の遺伝的近縁性」研究の中心的メンバーでもある斉藤成也氏が、「人種よさらば」という持論を展開していた――残念ながら、人類学者はまだ「さらば」できていないようでもある――が、「人種研究の新たな地平を拓くことを目指す」というのは、何とも気になる表現である。

 個人的には、竹沢泰子(京都大学)/加藤和人(大阪大学)/太田博樹(北里大学) 「遺伝学と生物医学における集団のラベリング」などは、是非聴いてみたいものであるが、行けそうにもない。

 「『血』の政治学」とは、"politics of blood"なのか、"politics of blood-quantum"なのか、それとも"bloody politics"(笑)なのだろうか。「『血』の政治学を超えて」、「口内粘膜と尿の政治学へ」となるのかもしれないな。そんなつまらぬ冗談を言いたくなるのは、このシンポジウムが、現在のアイヌ政策形成を「学術」の名において推進している人々によって開催された昨年3月のシンポジウムと切り離して見ることができないからである(http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20110126/1296028614)。今回のシンポジウムの発表テーマからなぜ「アイヌ」が抜け落ちているのか。この1年半ほどのアイヌ政策をめぐる展開を反映して、研究者たちがその政治課題を避けるという政治的選択を行った結果なのだろうか。元来、「科学」研究者は、政治的課題を避けたがる。しかし、昨年3月のシンポジウムの政治的意味を考えれば、「政治課題」から中立的に距離を置くのが「科学」であるという弁は成り立たないであろう。今まさに、遺骨や血液からのDNA抽出による「人類集団」研究がアイヌ民族を対象として行われつつあるのに、この国の第一線の研究者たちは、何も発言しないのであろうか。「『血』の政治学を超えて」行き着くのは、「除外の政治学」であろうか。


◎追記(2012/11/27, 23:09):
 本ブログの長期の読者から、主催者とすれば、アイヌの話は昨年3月にまとめてやったという感じかも、というご指摘を戴いた。確かにそうかもしれない。長く続いている研究の企画を見ても、そう言えそうである(http://race.zinbun.kyoto-u.ac.jp/event_report/er2010)。むしろ今回の企画の方が研究テーマの流れに沿ったもので、昨年3月のは「おまけ」か「逸脱」だったのかもしれないというふうにも見える。
 いずれにしても、主催者がどう考えているのか分からないが、生命倫理の研究者も登場するようであるから、是非とも、アイヌの遺骨や血液からDNAを抽出して行う遺伝人類学研究のあり方も取り上げて論じて欲しいものである。 "Invisibility, Knowledge, Hybridity"のどれもアイヌ人に関係しているわけだから、突拍子もない提案ではないと思うのである。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20121127/1353942682