AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

北海道新聞社説「アイヌ遺骨 親族への返還最優先に」を読んで

 北海道新聞アイヌ民族の遺骨の取り扱い問題に関して、どのような立場を取るのか非常に興味深い課題である。以下、先日言及した4月30日の『北海道新聞』の社説<http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/04/30/134201>を読みながらコメントをつけてみる。社説の原文は黒字のまま、筆者のコメントは<青字>で記すことにする。


アイヌ遺骨 親族への返還最優先に

<後で紹介する論文にもあるように、1980年代の返還は「要求のある地域に」ということで北大と北海道ウタリ協会は合意していた。今回、親族最優先というのは、その是非は別としても、第10回政策推進作業部会で文部科学省が提案した政府見解の写しのように見受けられる。以下で繰り返し「親族」や「遺族」だけへの言及が出てくる。それ以外の可能性は、考慮にないといったところか。>

 研究目的で道内外の墓地から集められたアイヌ民族の遺骨が、北大など全国11大学に合わせて1633体保管されていることが政府の調査で判明した。

 骨の比較研究はかつて、諸民族の系統を割り出すため、日本や欧米で盛んに行われた。

 しかし、国内では保管実態も分からぬまま、数十年間も放置されてきた。あまりのずさんな管理に驚く。到底許されることではない。

<1980年代初期に大きな扱いの記事を載せていたにもかかわらず、それから今日までの同紙の遺骨問題の「あまりにずさんな」取り扱いに驚く。「到底許されることではない」のではないか。80年代以降、社内でどのように対応がなされてきたのか、内部調査の必要があるのではないかとさえ思いたくなる。>

 この実態は、文部科学省が全国の大学に報告を求めて初めて明らかになった。北大が1027体と突出して多く、札医大249体、東大198体、京大94体、大阪大39体、東北大20体などとなっている。

<他に、「個体として特定できる遺骨は・・・大阪市立大1体、金沢医大4体、南山大1体。新潟大と天理大は個体として特定できない骨の一部を保管している。個人名を特定できそうな遺骨は北大19体と札医大の4体のみ。(『北海道新聞』4月23日朝刊)
 不思議である。筆者が昨年暮れにある人から聞いていたT大学(1体)が、このリストには含まれていない。どこでどうなったのか?>

  保管状況から個人が特定できるのはわずか23体だった。これは全体の1%強にすぎない。研究後は遺族に速やかに返還するのが当然だ。

文科省や各大学の調査結果を完全に鵜呑みにしているわけだ。
 かつても「研究が終わったら返還する」という約束も報じられていたのに。

 「誰の遺骨か不明」で済む問題ではない。政府の助成を受け、国立大学を中心に研究が行われた以上、遺族や親族への返還義務を負うのは、なおさらである。

<最初にこの社説を知らせてくれた方は、この部分が分かり難いと指摘していた。確かに分り難い。「政府の助成を受け」と入れることで、政府の関与を印象付けたかったのではないかとも思う。政府の責任への言及などが最初の草稿にはもっと明確に書かれていたのだが、そこに修正の手が加えられたということがあるのだろうか? いずれにせよ、政府の助成を受けていようがいまいが、国立大学が中心であろうがなかろうが、返還義務を負うのは当然であり、また、遺骨の取得の経緯が明らかにされなければなるまい。>

 各大学はすべての特定を目指して鑑定に全力を挙げ、一刻も早く親族の元に返さねばならない。今回の調査はその一歩ととらえるべきだ。

<「鑑定」が気になるところである。判明しているものは「一刻も早く」だろうが、謝罪や賠償も含めて、それまでの手続きをきっちりと整えて合意する必要がある。他の遺骨に関しても、返還する側、受ける側の態勢をしっかり整える必要があるし、遺骨の「鑑定」方法についても、当事者を交えた話し合いで合意に達する必要がある。文書等の資料調査をもっと徹底的に行なうことで判明するものもあるはず。何よりも、出土地方のアイヌが「鑑定」に対してどう考えるかが大事であろう。「今回の調査は第一歩」ということには同意する。>

 とりわけ北大では、全身の骨がそろっているのは一部で、分類しきれない四肢骨などが多数あるという。

 骨は言うまでもなく人体の一部である。こうした扱い方には、人間の尊厳を尊重する姿勢も、民族に対する敬意も全く感じられない。

<それでも、北海道新聞社は、人骨の「集約施設」における「人骨研究」を支持するのであろうか。そのことを盛り込んでいる「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告の方針と同調するのであろうか。>

 祖先の遺骨を持ち去られ、粗末に扱われてきたアイヌ民族の憤り、苦しみは想像するに余りある。北大を相手取って返還訴訟を起こしたのも当然の権利行使と言える。

<昨年9月19日の社説では、原告の主張に対して「事実とすれば」という留保を付けていた。「事実」と納得したということであろうか。
 北大開示文書研究会が「当然の権利行使」を行なっているアイヌの原告たちと「再調査」を提案しているが、それについてはどう考えるのだろう。>

 国は返還を進める方針だ。そのためのガイドラインを早急に作る必要がある。もちろんアイヌ民族の意向を反映する仕組みが不可欠だ。

<「意向を反映」も曖昧である。どの段階で「反映」するのか。2月の第10回政策推進作業部会では、ガイドライン文部科学省だけでほとんど出来上がっているような報告がなされていたし、作業部会もその流れを黙認しているかのような議事概要であった。4月の第11回会合の議事次第に遺骨問題が挙がっているが、返還ガイドラインについてはそこで結論が出されたのかもしれない――毎度のことながら、未だに議事概要は公開されていない。
 国連の「権利宣言」を尊重するならば、さっさと片付けようとしているかのような今の作業部会とは別に、真に返還を願っているアイヌが参加する仕組みの下でガイドラインを作成するべきではないだろうか。>

 北大を含む各大学の研究者が、遺族の承諾を得たうえで適切に調査を行ったのか。その詳細な実態解明も強く求めたい。

<遺骨取得の方法も含めてのことだと思うが、「適切[な]調査」は、ここでやっと問題とされている。次段落で「先住民族の権利保障の観点から」と言うならば、「遺族の承諾」とだけ、それほどスンナリ言えるのか?
 「詳細な実態解明」についてはその通りだが、誰が行なうのかには踏み込まないのだろうか。やはり、文部科学省に「お任せ」ですか?>

 欧米では、過去の研究への反省とともに、先住民族の権利保障の観点から、大学や博物館が主体となって返還作業を進めている。

 2007年には国連先住民族の権利宣言に、遺骨の返還を求める権利が明記された。国会が、アイヌ民族先住民族とすることを求める決議をしたのはその翌年だ。取り組みがあまりに遅すぎる。

<はい、遅すぎます、道新も。国会決議以前に、政府は宣言採択に賛成することで、国際的に宣言履行にコミットしているのである。「権利宣言」には「遺族の承諾」とか、「親族への返還最優先」とは書かれていない。また、以前紹介した論文も指摘しているが、現在返還できない遺骨を返還できるようになるまでの間、研究対象物として保管しておいて良いと、国際的人権法のどこかに書いているのか?>

 返還できなかった遺骨については、政府が胆振管内白老町に慰霊施設を建設し、安置する計画がある。

 それは手を尽くしたうえでの最後の選択であることを、関係者は認識しなければならない。

白老町一カ所での「慰霊施設」の建設には疑問がなさそうにも受け取れる書き方である。この前提を再考すれば、遺骨返還の可能性について、また違ったことも見えてこよう。これについては、またいつか、別に論じたい。>

 

 以上を書くにあたり、1980年代の深尾記者の記事が見つからないから検索していたら、こういう論文が一番に挙がってきた。後でゆっくり読もうと思う。
東村岳史「アイヌの頭蓋骨写真報道が意味するもの―過去の「露頭」の発見と発掘―」『国際開発研究フォーラム』43(2013. 3)<http://www.gsid.nagoya-u.ac.jp/bpub/research/public/forum/43/01.pdf

 

 アイヌ政策推進会議のウェブサイトのトップ画面に新しい会議風景の写真が掲載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/index.html

 

                                             (13:15 加筆修正)

 

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/05/04/011201