AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

第10回「政策推進作業部会」に提示された文部科学省の遺骨返還方針に現われたる問題のいくつか

 2013年2月22日に開催されたアイヌ政策推進作業部会の第10回会合で「大学等に保管されているアイヌ人骨について」文部科学省からの出席者を交えて意見交換が行なわれている。公開された「議事概要」には4ページにわたってその内容が記録されており(こちらに貼り込みあり⇒http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20130328/1364447030)、その冒頭で遺骨の取り扱いに関する政府の方針が示された。ここでは、最初の2点のみに関してアイヌ側が詰めるべき問題の一部を述べてみる。


4 大学等に保管されているアイヌ人骨について

 

 一点目は、人骨の返還・集約を進めるに当たっては、アイヌの人々の意向を最大限尊重するということ。国はアイヌの多数の人々の意に反して、無理に象徴空間へ集約したり研究利用を強行するというつもりでこのプロジェクトを進めているわけではない。人骨問題については、アイヌの方々の中にも多様な意見が存在するように思われる状況があるが、可能な限り多くの方々に御納得いただけるよう、丁寧に説明していく必要があると考えている。
 二点目は、アイヌの人々が返還を求める人骨については、象徴空間への集約後も含めて、最大限返還するということ。返還は、十分な情報提供のもと、アイヌの方々からの申請によることが基本になると思っている。手続には十分時間をかけるとともに、象徴空間への集約後であっても、求めがあれば返還に対応できるようにする必要がある。象徴空間への集約後の人骨について、当分の間、返還手続に備えて適切に保管しておく必要がある。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai10/gijigaiyou.pdf

 北海道アイヌ協会が遺骨を集約して「慰霊」を求めていることが土台にあり、文部科学省(およびアイヌ総合政策室)は強気であることが発言から見て取れる。「国はアイヌの多数の人々の意に反して、無理に象徴空間へ集約したり研究利用を強行するというつもりでこのプロジェクトを進めているわけではない。」国と(その他の「利益共有集団」)としては、遺骨よりも「民族共生の象徴となる空間」計画に期待する経済的効果の方が重要であり、遺骨問題でその計画を頓挫させるわけにはいかないのであろう。それだけでなく、形質人類学者や遺伝人類学者が「無理に・・・研究利用を強行」したくとも、現在の研究倫理規範の下でそれは許されないことである。しかし、「最大限」という修飾が注意するべきところである。当然のことながら、どこまでが「最大限」なのかで見解は分かれることになる。「プロジェクト」を進めている側が無条件に「尊重」するわけではない。

 これまでの政府や北海道大学の対応を参考にする限り、「丁寧に説明していく」ことも北海道アイヌ協会に対してか、同協会を通してということであり、その手続きによって「可能な限り多くの」――これも曖昧なのである――人々の納得を得られると、既に踏んでいるのであろう。要するに、政府、「和人」の有識者、そしてアイヌのメンバー合わせて、多数の「納得」を得られると考えているのであろう。アイヌ民族が足元を見られていると言ってもよい。そして現状では確かに、沈黙を押し通している多くのアイヌの人々を含めて「多数」の支持を集められるのだろうとも思える。しかし、時間をかけて「丁寧に説明」した後で、アイヌ民族による意思の表明を行なわせよと、アイヌの誰かが提案しないものかと期待を寄せている。そもそも、文部科学省が独自でガイドラインを作成する権限は、何に依拠しているのか。アイヌ民族は、それを認めたのか。

 「象徴空間への集約後も含めて、最大限返還する」とのことであるが、ここでも「最大限」は不要な修飾語である。誰が「ここまでが最大限」と判断する権限を有することになるのであろうか。それは、今のままでは当然、文部科学省ということになるのであろう。まだ政策推進作業部会への口頭による説明であるとはいえ、「返還手続き」を行なえる期間は、これも曖昧な「当分の間」であって、一定の期間を経ての打ち切りが想定されていると思われる。

 さらに、この2点目に関して、私は別の危惧も持つ。アイヌ共有財産裁判が良い教訓となろう。返還手続きは、誰が、どのように定めるのか。一旦、現在の流れで文部科学省なり国土交通省なりに決定権を認めてしまえば、アイヌの人々、すなわちアイヌの個々人による返還申請ということになるのであろう。政府が1ヶ所の「慰霊施設」に遺骨を集約することや返還手続きそのものに異議を申し立てて訴えたとしても、申請すれば返還すると言っているのだから、それには「訴えの利益」はないとされるかもしれない。

 「求めがあれば」とのことであるが、求めるまでの負担が大変なものとなろう。「十分な情報提供」を誰が行なうのか。北海道大学を被告として現在進んでいる事件において、北大は「返還する」と言いながらも、これまで率先して情報提供を行なってきてはいない。常に、状況的に追い込まれてからの情報の小出しである。「適切な保管」に関しても、これまでの各大学での遺骨の保管が杜撰であったことは、北大の会見からも想像がつく。どういう体制で「適切に保管」するのかも問われなければならない。

 上述の打ち切りと関係するが、遺骨の返還要求は、現世代だけから起こるとは限らない。政府が一定期間での打ち切りを念頭に置いていないのであれば、返還手続きは、将来の請求に対応できる内容でなければならない。

 現状のままで遺骨の「集約施設」への移動を認めてはならないであろう。それに関する提案もあるが、この場ではここまでにしておく。

 前にも触れたように、既に第11回「政策推進作業部会」が4月19日に開催され、議事次第には「大学等に保管されているアイヌ人骨について」が記載されているので論じられたことと思う。議事概要は、早くて来週末、通常だと再来週末くらいの公開となるのであろうか。だが、『毎日新聞』で4月20日に報道された会議の結果からは、政府は「遺骨集約」路線を変更する考えはまったくなさそうであり、それに対して作業部会のメンバーが異議を唱えることもなかったように見受けられ、規定路線通りに進んでいると受け取れる。多くの詰めるべき問題が残っているにもかかわらず、どのような議事進行が行なわれたのか、第11回の議事概要公開を楽しみにして、公開されたら、誰が何を言っているのか想像しながら精査することにしよう。

 

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/05/10/013000

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