AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

先住民族の権利に関する国連宣言における遺骨・副葬品返還問題

 大方の人は、先住民族の権利に関する国連宣言(以下、「権利宣言」)が遺骨・副葬品の問題と関係しているのは、それが返還に直接言及している第12条だけと考えているように思える。実際のところ、自決権のような包括的な権利の条項を除いてざっと拾い上げるだけでも、第11、12、18、19、25、26、28、31、32、36、38、39、40、41条が関係している。そこで、「権利宣言」を用いてアイヌの遺骨・副葬品返還問題を考えるというか、「権利宣言」が遺骨・副葬品返還とどのように関係しているのかを見てみたい。(宣言の訳文の大部分は、市民外交センターによる仮訳を利用させて戴く。)

第11条:
 遺骨や副葬品が「自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利」と密接に関係していることは、もはや説明を要すまい。アイヌ政策有識者懇談会が先住民族としてのアイヌ民族の文化を大切にし、活性化させようと考えているのであれば、遺骨や副葬品の問題をないがしろにはできない。そのような権利には、「考古学的および歴史的な遺跡、加工品、意匠、儀式」などを「維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれ」ている。北大をはじめ、他の大学や博物館に保有されている遺骨や副葬品の多くは、アイヌ民族の「自由で事前の情報に基づく合意なしに、また彼/女らの法律、伝統および慣習に違反して奪取された[アイヌ民族の]文化的、知的、宗教的およびスピリチュアル(霊的、超自然的)な財産」であり、従って、日本政府は、アイヌ民族と「連携して」「効果的な仕組み」を作成し、それによって「原状回復を含む救済を与え」なければならない。

第12条:
 ここには、既に周知のように、「遺骨の返還」が明記されている。アイヌ民族は、「自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し」ており、その実現には遺骨や副葬品の返還が必要とされる。さらに、「その宗教的および文化的な遺跡を維持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し」てもいるが、先祖の墓も「遺跡」に含まれるとは、墓を盗掘したり、遺骨を保管している大学の当局者が述べていることでもある。ここで「私的に」と訳されているのは"in privacy"であって、ここには、墓地などの聖なる場所に誰にも許可を求めたり届けたりすることなしに、密かに自分の信仰を実践するために立ち入ることができるべきであるという意味が込められている。副葬品を「儀式用具」として「管理する権利を有し」、遺骸や「遺骨の返還に対する権利」を有している。
 ここでも、日本政府は、アイヌ民族とともに、「公平で透明性のある効果的措置」を講じて、それによって保管されている「儀式用具と遺骨」にアクセスしたり、その上で返還を得る権利を有しているのである。つまり、遺骨を保管している大学その他の機関は、先住民族に遺骨や副葬品を開示するようにも努めなければならない。

第18 条・第19条:
 上で出てきた「効果的な仕組み」や「措置」を作成するにあたって、アイヌ民族は、政府や有識者がピックアップした「代表」ではなく、「自身の手続きに従い自ら選んだ代表を通じて参加」する権利を有している。さらに、遺骨返還のためのガイドラインアイヌ民族に「影響を及ぼし得る・・・行政的措置」であり、それを「採択し実施する前に」、アイヌ民族の「自由で事前の情報に基づく合意を得るため、その代表機関を通じて」「誠実に協議し協力」しなければならない。

第25条:
 遺骨や副葬品が掘り出された墓地は、アイヌ民族が「伝統的に所有もしくはその他の方法で占有または使用してきた土地」であり、遺骨や副葬品は文化的な資源・財産でもあり、「自らの独特な精神的つながり」を有しており、その「独特な精神的つながりを維持し、強化する権利を有し」ており、現在の世代がその「精神的なつながり」を強くして持ち続けることに関して「未来の世代に対するその責任を」請け負う権利が認められており、それを果そうとする努力が妨害されてはならない。

第26 条:
 アイヌ民族が墓地としていた/いる土地や「遺跡」、そこに存在していた/いる文化的な「資源」は、本条に言及されている土地・領域・資源に含まれ、アイヌ民族にはそれらを「所有し、使用し、開発し、管理する権利」が存在している。日本政府は、そのような地を、アイヌ民族の「慣習、伝統、および土地保有制度を十分に尊重して」法的に承認し、保護しなければならない。

第28条:
 上述の土地・領域・資源がアイヌ民族の「自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収、収奪、占有、使用され」たり、「損害を与えられた」場合には、まず第一に「原状回復」による救済に対する権利が承認されており、それが可能でない場合は公正で公平な補償を受ける権利が明記されている。この補償は、他の仕方にアイヌ民族が「自由に同意」しなければ、元々の土地・領域・資源と同質・同規模で同じ法的地位を有する土地などによるか、賠償金、その他の適切な方法によって行なわれなければならない。
 この条項によれば、アイヌ民族は、元の墓地の復元や、それが不可能な場合には、代替地での墓地の提供や金銭的な補償によって被害を受けたコタンに墓地や慰霊施設の建設を要求する権利が存在している。

第31条:
 アイヌ民族の墓地・遺跡、遺骨や副葬品はアイヌ独自の「人的・遺伝的資源」であり「文化遺産」である(http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/20110208/1297147865)。また、死生観や埋葬法の背景には「伝統的知識と伝統的な文化表現」が関係しており、それらに対する管理や保護などの権利を有するだけでなく、知的財産権を確立する権利も有している。政府は、アイヌ民族と「連携して」、効果的な施策によって「これらの権利の行使を承認しかつ保護する」こととなっている。
(注:市民外交センターによる本条1項の第1文の訳には「伝統知識」が抜けている。)

32条
 開発計画がアイヌ民族の墓地や遺跡などに影響を及ぼす場合には、国家の政府は、開発計画の承認の前に、アイヌ民族の「代表機関を通じ、その自由で情報に基づく合意を得るため、当該先住民族と誠実に協議かつ協力する」こととなっている。そしてここでも、そうした計画から生じる影響に関して、公正で公平な救済の仕組みを提供し、また、環境、社会、文化、あるいはスピリチュアルな面での負の影響を緩和するために適切な対策を取らねばならない。
 一方、第18・19条においてもそうであるが、アイヌ民族を代表する制度(representative institutions)とは何かについて、アイヌ民族の間でもっと真剣に議論されなければならないであろう。

第36条:
 アイヌ民族は、サハリンその他の近接する地域のアイヌや他の先住民族と、遺骨や副葬品の返還に関しても、国境を越えて関係を築き、協力し合う権利を有している。アイヌ民族によるこの権利の行使を、政府は奨励し、促進するための対策を講じなければならない。

第38条:
 以上のように、遺骨や副葬品の返還を進めることは、「権利宣言」の目的とするところと合致しており、政府は、この目的の遂行に、アイヌ民族との協議および協力を通じて、「立法措置を含む適切な措置をとる」こととなっている。

第39条:
 アイヌ民族は、遺骨や副葬品の返還を受けて、たとえばコタンに再埋葬すると決定すれば、その返還を得る権利の実現に、政府からの「資金的および技術的な援助」を受ける権利を有してもいる。

第40条:
 アイヌ民族は、国家や大学などを含む他の当事者との紛争において迅速な解決を得る権利を有しており、さらに、個人および集団の権利のいかなる侵害に対しても、「効果的な救済を受ける権利」を持っている。例えば裁判所は、そのような解決のための決定を下す際には、アイヌ民族の「慣習、伝統、規則、法制度」と国際的な人権を正当に考慮した上で行なわなければならない。

第41条:
 遺骨や副葬品の返還という「権利宣言」に明記された条項の「完全実現」を求めてアイヌ民族が活動する場合には、「国際連合システムの機関および専門機関ならびにその他の政府間機関」に「資金協力および技術援助」を要請することが可能である。国際的な場で遺骨や副葬品の返還が議題となる時には、参加を保証するための資金が確立されることになっている。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/06/01/020000

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