AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

「人権問題」としての遺骨の扱い

 そろそろ今週あたりだろうか、先月14日に開かれた第12回「政策推進作業部会」の「議事概要」が公開されるのは。既に公開されている「議事次第」の最初の議事に「アイヌの遺骨について」と記されているので、それが出る前にもう一度、おさらいの意味で取り上げておきたいことがある。

 北大開示文書研究会の「北海道大学・山口佳三総長あての申し入れ書」や他の情報筋でも明らかにされていることであるが、北大は、遺骨の扱いに関係する申し入れなどをすべて北海道アイヌ協会を通すようにという姿勢を崩していないようである。(http://hokudai-monjyo.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-635f.html

 前にも引用したことがあり、長いので引用するのはあまり気が進まないが、2月22日開催の第10回「政策推進作業部会」の「議事概要」(pp. 7-8)に次のような意見交換が記録されている。

★ 団体に返還して果たしてよいのか。これはよくないと思っているけれども、ただ、1,600体もあるものをいつまでも放っておいてよいのか。大きな人権問題だと思う。何もしていないまま5年が経っている。先住民族と認められて5年が経っているが何もできていない。言葉を躍らせても物事はできない。そうではなくて、実際にやることだと思う。何もせずに議論していても始まらない。
○ 過去に、北大がアイヌ協会の5支部に返還をした。これは、返還を受ける意向があるかどうか、末永くその地域で慰霊ができるかということを踏まえたものだったが、今思うに、アイヌ協会が御遺族に成り代わっていろいろと対応していたが、協会員以外の遺族、関係者もいる。
 当時は、地域、コタンに戻すという発想で、そういう経験もなかったのでよかれと思ったが、コタンなのか遺族なのかということを突き詰めていけば、個人ということにならざるを得ないのではないか。
 地元がよいということであれば、むしろ象徴空間に集約していくことが、今後に遺恨を残すようなことにならないのではないかと考えている。
☆ 諸外国の例を見れば、地域や団体に返還するのが原則で、個人に返還するほうが例外というか、ほとんど例を見ないくらいである。団体なり地域に返還することができれば、返還できる御遺骨数もふえるということは確かである。
 一方で、地域のアイヌの方々を適正に代表するような組織なり団体をどう構成するのか。アイヌ協会の支部が地域を代表しているといえるか、それなりに地域を代表しているといえるような組織、団体ができたとしても、複数の考え方に基づく競合的請求が出る可能性もある。競合的請求の扱いは非常に難しい。
○ 先般、アイヌ協会八雲支部の総会に出席した。八雲支部は過去にもアイヌ碑を建てているが、今回、寄付を募って、再度、大きな地震が来ても大丈夫なような碑を建てた。八雲町の皆さんの理解度がすごいと思ったのは、場所が共同墓地の正面であること。北海道のどこに行ってもそんなところはない。そこに13名のアイヌの名前が刻まれている。
 そういったことからいくと、博物館などに保管されているアイヌの人骨についても、国の責任で調査して、懇ろに弔っていただきたい。そういった感情は、民族を問わない。お盆になったら墓参りに行くのと同じこと。早急にできるところから進めていただきたいと思う。
○ 現実問題として、かつてあったように、アイヌ協会の支部が大学等に返還を要求することが今後もあり得るだろうか。もしそういうことがあった場合には、その支部が果たして遺骨の返還を受ける適格を有するかどうかを考えなければいけないことになるわけで、おそらく個人以外の返還対象者を考える場合の具体的論点の第一はそれではないかという気がする。
★ 今までそういう議論をしたことがなく、そういう支部があるかどうかは何とも言えないが、支部として受けるか受けないかは微妙な話である。重大な話になってくる。
○ 現在、協会として、そういう動きがあるとは認識しておられないということか。
★ 遺族に成り代わってという形にはなっていない。地域の代表としてその地域を包含しているかといった、先ほど述べられていたことにつながっていく話で、結論を導き出すことはなかなか難しい。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai10/gijigaiyou.pdf

 冒頭に★を付けた発言は、ほぼ間違いなく北海道アイヌ協会関係者によるものであると考えられる。加藤氏、阿部氏、菊地氏の誰の発言であっても、協会の理事長と副理事長である。(佐藤幸雄氏の肩書が「主任」に変わっているのを先ほど知ったが、アイヌ総合政策室は、任命時の肩書も記しておくべきではないか。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai1/haifu_siryou.pdf
 これらアイヌ協会の重要な地位にある人たちが、「遺族に成り代わってという形にはなっていない」と述べ、「地域の代表としてその地域を包含しているかといった、先ほど述べられていたことにつながっていく話で、結論を導き出すことはなかなか難しい。」と消極的な立場を明かしている。それにも拘らず、北大が北海道アイヌ協会だけしか正当な話し合いの相手としないというのは、どういう理由からであろうか。そうしなければならない理由とは何なのか。

 上で冒頭に☆を付けた発言は、おそらく北大の常本部会長のものであろう。その後段の内容と北大の態度は、整合性をもっているのだろうか。

 上に引用した最初の発言には「大きな人権問題」と、理事長または副理事長によって述べられている。「1,600体もあるものをいつまでも放っておいてよいのか」と、数に囚われすぎている印象は否めない。1体であっても、「人権問題」としては同じことではないのか。(かつて、80年代から90年代にかけて、構成員が何人いれば「民族」となるのかという議論があった。国連のダイス議長が、「私は、野村さん一人しか存在しないとしても、アイヌ民族が存在すると認める」という主旨の発言をしたことを思い出して欲しい。)
 加藤理事長は、NZヘラルド紙記者の取材にも「深刻な人権問題("serious human rights issue")」と述べていたことは前に紹介した通りである。

Tadashi believes that the taking of the Ainu remains is a "serious human rights issue" and he wants to see all the bones returned as soon as possible.
忠は、アイヌ遺骨の奪取は「深刻な人権問題」であると信じており、彼はすべての骨を出来る限り早く返して欲しいと思っている。

それが、どうして理事長自身もしくは副理事長のこのような発言になるのか理解できない。

○ 一緒に埋葬された副葬品については、きちんとやってもらえると思うが、1,600体程もある骨を人間として早く慰霊施設に入れてもらいたい。その上で研究者も入れながら返還に向けて調べていけばよいわけで、慰霊の関係を1日でも早く進めてもらいたい。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai11/gijigaiyou.pdf

 遺骨の「慰霊施設」への集約は、北海道アイヌ協会の提言に「満額回答」を与えたものであるとの見方が、第11回作業部会で示されていた。

○ 前回の部会でも話があったが、遺骨の返還・集約を進めるにあたって、「アイヌの多数の人々の意に反して象徴空間への集約や研究利用を強行するつもりはない」とあえてここで記述する理由がわかりにくい。アイヌの人々の意に反して強行するつもりはないというのは、慰霊施設以外のほかの施策にも共通することではないのか。そもそも慰霊施設は、有識者懇談会において北海道ウタリ協会が機関決定を経て行った政策提言に含まれていたもの。その意味で「アイヌの多数の人々」の意向と受け止められていたはずである。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai11/gijigaiyou.pdf

 これは、間違いないことなのであろう。だが、上述の内容からも分かるように、また北海道アイヌ協会とは別に、わざわざ関東ウタリ会会長をメンバーに迎えていることからも分かるように、北海道アイヌ協会は最大の、そしてその意味では多数かもしれないアイヌの人々を代表する「団体」であるかもしれないが、唯一の代表組織でもない。そもそも、北海道アイヌ協会自体が「団体」であるにもかかわらず、「団体に返還して果たしてよいのか。これはよくないと思っている」と述べている。この発言が協会幹部によるものではないとしても、問題は同じことである。「団体」に「返還」してよくないと言うのであれば、その「団体」が最大であろうが最小であろうが、理屈は同じであろう。その一団体が、自らが「地域の代表としてその地域を包含して」代表しているかどうか確信していない団体が、どうしてすべての遺骨を「慰霊施設」に早く集約してしまうようにと言えるのであろうか。

 「人権問題」としての先住民族の遺骨返還の運動は、少なくとも3層から成る人権侵害を認識している。一つは、過去において先住民族自身の(慣習)法制度や伝統を無視して、自由で事前の情報に基づく同意を得ないままに遺骨を奪取したという人権侵害である。この過去の人権侵害とつながって、現在の2重の人権侵害がある。一つは、先住民族の(慣習)法や伝統に反して、および/または、自由で事前の情報に基づく同意を得ないままに遺骨や副葬品、その他の文化遺品を継続的に保有し続けていることであり、もう一つは、同じくそのような法や伝統に反したり、同意なしに、遺骨や副葬品等を展示・研究・収益追求に用いていることによる侵害である。
 現在のまま各大学等に保有されても、そのまま「慰霊/集約施設」に移転されても、3層から成る人権侵害は解決されることにはならないのではないですか、Kさん、Aさん。


P.S.:
2000年7月にオーストラリアとイギリスの首相が発表した「首相間合意(Joint Prime Ministerial Agreement)」では、イギリスの博物館に存在する海外からの人間の物質の多くが、個人や共同体の情報に基づく事前の同意なしに、その人の死後に元の場所から移動させられたということに言及し、祖先の遺骨を取得する前に先住民族共同体から自由で事前の情報に基づく同意を得なかったことで、英国は人権侵害を犯したということを認めている。

国連の「権利宣言」は、先住民族社会と協議することで救済策を見出すべきであると明記している。

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/07/16/020155

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