AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

題なし/台無し

 何日か前、某古本屋の105円の棚で常本照樹氏らの共著になる『基本的人権の事件簿』という本を見た。今、Amazonでは中古本の最安値が692円になっているから、買って売ったら僅かな利益を得られるかもしれない。

 この執筆陣は、いわゆる「55年組」と言われるつながりの研究者仲間なのだろうと思う。執筆者の担当章を記しているページとカバーの折り込み部分に各執筆者の一言がある。常本教授の箇所には、こう書いてあった:「英国の諺に曰く、戦と訴訟と恋愛には楽しみあれど悩みも多し」。まさに、今の心境でもあろうか? でも、楽しんでもいるのだろう。

 そこで、また英語の勉強も兼ねて、少しばかり言葉遊びをしてみよう。

「LITIGATION, n. 【訴訟】あなたが豚の形で入ってゆくと、ソーセージの形で出てくるはめになる機械の一種」だそうである。
 では、「訴訟関係者」とは?
「LITIGANT, n. 自分の骨を残すことを願い、皮を捨てようとする人間」のことであるらしい。
(A. ビアス悪魔の辞典』、角川書店、1975年、222ページ。)角川書店は、出版年に西暦を使わない方針を貫き続けているようだが、自分の蔵書リストに記入する際にいちいち換算せねばならず、非常に不便を感じている。

 ちなみに、Lで始まる語のいくつかを見ていくと、非常におもしろい。

LAW, n.【法律】
かつて「法律」が判事席についていた
 そして「慈悲」はひざまずいて泣いていた
「立ち去れ!」と彼は叫んだ 「取り乱した娘よ!
 私の前に はってやって来るな
おまえがひざまずいて姿を見せても
おまえの立つ場所がここにないのは明らかである」

その時 「正義」がやって来た 判事は叫んだ
 「おまえの地位は?――なんてことだ!」
「法廷の友よ(ルビ=アミカ・キュリアエ)」と彼女は答えた――
 「どうかお願いです 法廷の友よ」
「去るのだ!」と彼は叫んだ ――「出口はむこうだ
私はおまえの顔を一度も見たことがない!」


LAWFUL, adj. 【合法的な】 司法権を有する裁判官の意志とこちらが巧く合致する。


LAWYER, n. 【法律家】 法律の抜け穴に長じた者。
(以上、217ページ。)

 一番笑えるのは、これかな。

LEARNING, n. 【博識】 学問に励む者に特有な一種の無知。


LECTURER, n. 【講演者】 片手を君のポケットに突っこみ、舌を君の耳に突っこみ、信念を君の忍耐強さに突っこむ者。

(以上、218ページ。)

 ついでに、「裁判」の項目を見ると、この辞典には珍しく、長文の解説が付されている。途中までの引用に止める。

TRIAL, n. 【裁判】 裁判官、弁護士、陪審員たちの一点汚れない性格を証明し、記録に載せるようにもくろまれた公式の審理。この目的を達成するには民事被告人、刑事被告人あるいは容疑者と呼ばれる人間に反対の性格を与えることが必要である。この対照が十分明らかにされると、その人間はりっぱな人たちが、自分たちの価値にかてて加えて、自分たちはそんなことは免除されているのだといった安心感を与えるような、苦しみを味わわされるのである。現代では被告はふつう、人間、あるいは社会主義者であるが、中世においては、動物、魚、爬虫類、昆虫までもが裁判に付されたのであった。人間の命を奪ったとか魔法をかけたとかした動物は、たちどころに逮捕され、裁判にかけられ、もし有罪となれば執行役人によって死刑に処せられた。(まだまだ長いので、以下略。)(387-388ページ)

 こういうのも載っている。

IMPUNITY, n. 【刑罰を受けないですむこと】 富。(183ページ)


REFLECTION, n. 【反省】 われわれが、昨日の出来事と自分との関連性について、いっそうはっきりとした意見をもち、二度とふたたび出会うことはない危険を避けることを可能にする精神的行為。(312ページ)

 さて、今日の本題――にもかかわらず、短くせざるを得ないが――は、まだここからなのである。
 アイヌ遺骨返還請求訴訟の第3準備書面に1823年のアメリカ最高裁Johnson v. M'Intosh(ジョンソン対マッキントッシュ)判決が登場している。この「法的フィクション(legal fiction)」と呼ばれる判決は、ウォルター エコ-ホーク(Walter Echo-Hawk)氏の近著によれば、インディアンにとってアメリカ史上最悪の10件のインディアン法判例の一つであり、無効とされるべき判決である。
 Echo-Hawk氏は、かつてVine Deloria, Jr.氏が、「アメリカにおける最高のインディアン法弁護士」と称したこともある、ポーニー インディアンの法律家であり、活動家でもある。
『征服者の法廷で:これまでに判決された10の最悪のインディアン法事件』

 彼の最新作も非常に興味深いものであり、これにはジム アナヤ氏が序文を書いている。
『正義の観点から:ネイティヴ アメリカにおける人権の興隆と先住民族の権利に関する国連宣言』

 因みに、Echo-Hawk氏には、引用されることの多い「返還、再埋葬、そして宗教の権利」という論文もある。Echo-Hawk氏のサイトである:http://www.walterechohawk.com/

 さて、偶然なのか、何か計画されていたのか、8月3日に北大のアイヌ・先住民研究センターに招かれて講演したリンゼイ ロバートソン(Lindsay Robertson)教授の著書は、その「ジョンソン判決」の背景を分析する歴史書であり、前に書いたように高い評価を受けている(http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/07/02/234851 のP.S.とP.S. #2)。
『法による征服――アメリカの発見がいかにして先住民族から土地を剥奪したか』

Kindle版は44% offになっている!)

 Amazonの紹介欄にも出ているが、上のEcho-Hawk氏は「最初に[この]本を読まずして、いかなる法律家も裁判官もジョンソン判決を引用するべきではない」という賛辞を提供している。(Amazonの"site"は、"cite"の誤植であろう。)
 また、Vine Deloria, Jr.氏は、「何世代もの弁護士と裁判官によって利用されかつ悪用されてきた最高裁判所判決、ジョンソン対マッキントッシュを巡る状況の包括的考察」として推薦の辞を献じている。同書の一部は、グーグル書籍で読むことができる⇒http://p.tl/g_Xp

 Robertson教授がどのような内容の講演をしたのかを知りたくてアイヌ・先住民研究センターのサイトを訪問したのだが、高い予算を獲得して使用している割には、講演の内容はまったくアイヌ民族だけでなく、国民全般にも還元していないとは何ということだろう。講師が話している様子とセンター研究員との写真2枚に加え、参加者数が分からないような写し方をした会場の様子の写真を1枚掲載しているだけである(http://p.tl/I_WI)。当日聴きに行った方でどなたかブログか何かで内容報告をしておられる方がいれば、お知らせ下さい。

 Robertson教授の招聘がいつ、どのように決まったのかは知る由もないが、恐らく常本教授の学問的関心と立場に近いところがあるのだろうと推測する。しかし、アイヌ遺骨返還請求訴訟の原告側弁護団の主張に連邦インディアン法が用いられていることは提訴前から知られていることであり(http://pub.ne.jp/ORORON/?entry_id=4438578)、なんとも気になる偶然(?)である。

 以下は、下衆の勘ぐりというか、「リーガル フィクション」ならぬ私の「ポリティカル フィクション」である。
 その日の懇親会の席上、遺骨問題に触れたくなかった北大関係者は、それでも裁判の原告側主張をどう切り崩して行くかという示唆を何とか聞き出したくて、ロバートソン氏に尋ねた。
 「ところで教授、遺骨返還裁判の原告側がジョンソン判決を持ち出しているのですが、どう思われますか。何か良い対策はございますでしょうか。・・・・」
 すると、ロバートソン教授は答えた。(裁判に影響するといけないから、省く。)

 ありそうもないことだろうな。

IMPROBABILITY, n. 【ありそうもないこと】
 彼は自分の話をした まじめくさった顔をし
 やさしい もの悲しげな品のある態度で
 じっくり考えて見れば疑いもなく
 それは眉唾物であった
 だが聞き惚れた群衆は
 すっかり驚きいって
みんな異口同音に断言したのだ
これまで聞いたうちでもっとも驚くべきことだと――
ただ一人だけ例外で一言もいわず
 じっと坐っていた
(長いから略す)
「これは これは!」一人が叫んだ
「あんたはわれわれの仲間の話に驚かんのですか?」
すると彼は落ち着きはらって
目を上げたかと思うと
 ごく自然に相手を見つめ
 言ったもんだ
炉だなの上に脚を組んで
「まさかね!――ちっとも だってあたし自身嘘つきだからね」
(『悪魔の辞典』、182-183ページ)


P.S.(2013.09.06):
 やはり、この記事はわかりづらいというコメントが2件も来た。一人は大学の先生だから、一般の人にはまったく意味不明かもしれない。まあ、それはそれで良い。始めの方で書いたように、一種の遊びだから。時機を見計らって補足解説をしましょう。いや、やっぱりその前に、埋め込んだ「装置」を見つけて欲しいなとも思う。

 冒頭の本、最安値の出品が売れたのだろう。値段が上がっている。


P.S. #2(2013.09.09):
 2つのコメントをまとめて書いたのだが、お一人は、「わかりづらい」ではなく、「わかりません」とのこと。訂正します。

 これぞ「意図せざる結果」というものだろうか。「常本ファン」が買っているのか――もしそうなら、「紹介料」を回して欲しいものだ――、冒頭で紹介している本の最低価格(「ロープライス」)が、今日も100円あまり上がっている。これも偶然か?


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2013/09/06/010000