AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

アイヌ民族への仏教布教と「アイヌ語の重要な記録」

 2つ前の記事で書きかけてやめた、北海道新聞(2013年10月7日)の「アイヌ民族への仏教布教を紹介 伊達の善光寺でフォーラム」という記事の感想めいたものである。

 アイヌ政策推進会議の佐々木利和氏が、善光寺の「初期の住職らがアイヌ語に訳したお経や念仏の版木」などの重要文化財について、「有珠のアイヌ語の最も古い記録。信仰に関心を絞ったアイヌ語の重要な記録でもある」と語ったとのことである。

 同氏の講演と視点、そして道新の記事の扱い方の意味合いは、前に取り上げたことのある「松浦武四郎の碑」建立式と同じ性質のものである。

 「信仰に関心を絞ったアイヌ語の重要な記録」というのは、誰にとって、どういう意味で「重要」なのだろうか。きっと、その辺のことも詳しく語られたに違いない。

 もうずい分前のことになるが――既に書いたことがあるかもしれないが、600本も書いていると書いたかどうかも忘れてしまう――ある国際会議の非公式会議の場でカナダ政府(C)の代表とイヌイットの代表(I)が、次のような主旨のやり取りをしたことがある。

C:開発が進めば、カナダからの衛星テレビ放送も受信できるようになります。
I:その方向の放送は要らない。それより、私たちが制作する番組をカナダ全土に流せるようにしてもらいたい。

 いわゆる「文化侵略」批判である。19世紀の和人とアイヌの勢力関係が逆だったら、今ごろは「貴重な日本語の記録」に関心が集まっていたのかもしれない。

 「大規模な和人の移住による北海道開拓」と同化政策によってアイヌの「民族独自の文化が決定的な打撃」を受けたと論じた『報告書』(引用は10-11ページ)をまとめたアイヌ政策有識者懇談会の一員であった佐々木氏のことだから、きっと「アイヌ民族への仏教布教」の負の側面についても語ったことであろう。そうであれば、道新の記事もそれを伝えてもらいたいものである。つい先日、先住民族の権利に関する議論が足りないという社説を掲げていたではないか。記者にもその点を踏まえて記事を書くように周知徹底してはいないのだろうか。

 一方で、有識者懇談会『報告書』には、徳川幕府による布教活動への言及がまったくない。有識者懇談会後の政策関連会議では「精神文化」という言葉が頻出しているが、その根底には何があるのかということを考えれば、和人の宗教活動と背後の政治権力についての叙述がないというのも、こうして見ると奇異である。

 私の親しい人の著作から翻訳しておく。

先住民族とトライブの社会における私の国際的経験において、正義(justice)は、血縁関係を横断し、それによって釣り合いをとる、ブラックフットの「聖なる社会」のような、宗教制度の責任であった。そのような宗教制度は、組織化された精神的・知的な抵抗の中心であったがゆえに、往々にして政府介入の標的であった。[そのような宗教的制度が失われた]トライブ社会は、偏狭な家族的利害によって弱体化される傾向があった。

 余談であるが、上記『報告書』の「近世」の節でわたしが興味をもつのは、名を変えて今日まで残っていそうな、次のようなアイヌ民族支配の仕組みである。

 もともとアイヌの社会の基本単位はコタン(集落、村落)といわれ、初期の形態は血縁の長(コタンコロクル)が治める小規模なもの(5~8戸程度)であったが、場所請負制の下で、和人の強制により数コタンが運上屋や番屋の下にまとめられ、やがて、数十戸ほどの規模となった。そこでは、和人の意向を伝達しやすくするため、コタンコロクル制を実質的に廃止し、乙名(おとな)・小使(こづかい)・土産取(みやげとり)といった役土人(やくどじん)制がとられた。この役土人制によりアイヌは完全に和人の支配下に入り、労働力を搾取される存在となっていく。
[7ページ。強調は追加。ルビは、漢字の後のカッコ内に表記した。]


P.S.

 上の記事とは直接の関係はないが、下書きを書いている最中に関連事項を調べていて、これらのビデオに行き着いた。グリーンランド自治領(当時はデンマークの植民地)のトゥーリー(Thule)付近にあるアメリカ軍の最北の基地である。

"Top Secret US Military Base in Greenland | City Under the Ice: Camp Century | Cold War Documentary": http://youtu.be/NnBG37CPDLI
 大自然のど真ん中、氷の下の「軍事都市」建設。今は懐かしき計算尺を使いながらの「ポータブル原発」の組み立ての様子も含まれている。

"Operation Blue Jay - 1953 United States Military Educational Documentary - WDTVLIVE42": http://youtu.be/5t7ekdKIne8

"Greenland Operations: "Icecap" 1965 US Army The Big Picture": http://youtu.be/E-i0lzZIrRE
 稼動後の「ポータブル原発」の撤去と移設の様子が終わりの方にある。

 同基地のウィキペディア記事⇒http://en.wikipedia.org/wiki/Thule_Air_Base

 「世界で最も奇妙な18の軍事基地」のトップに挙げられてもいる。⇒http://www.popularmechanics.com/technology/engineering/architecture/strangest-military-bases-gallery#slide-1

転載元記事

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