AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

アイヌの「認定」と「知識の蓄積」

 有識者懇談会で敷かれたレールの上を「迷わず行けよ、行けばわかるさ」と乗っている以上、「現時点で実現可能な施策」――これについては何度も批判してきたから繰り返すのはやめる――しか出てくるまい。実際のところは、その「現時点で実現可能な施策」すら進まず、「象徴空間」造りだけが浮き上がっている。そのレールに乗っている以上、アイヌの集団の「認定」はまったく議論の対象とはならず――遺骨の返還をめぐって僅かに話題にはのぼってきたが――、個人の「認定」ばかりが取り沙汰されるのである。例えば、アメリカの事例を例に取るならば、インディアン トライブやネーションという集団を「認定」し――私は"recognition"を「承認」としたいのだが、話を合わせるためにここでは「認定」で通す――、「認定」された集団が教育や保健衛生、住宅などのさまざまな連邦政府施策を受ける。それを各集団内でいかに配分するかは、集団の政治組織の権限となっている。アイヌ子弟に対する奨学金の対象者の問題でも語られているが、アイヌの「認定」問題がこのまま進められるのかと思うとやりきれない気持ちになる。(だが現実は、後述するように、「知識の蓄積」を行っただけで、事は進んでいないようである。)

 アイヌ政策有識者懇談会の報告を受けて、「認定」の問題が語られるようになったのは、アイヌ政策推進会議の「北海道外アイヌの生活実態調査作業部会」においてであり、表舞台での具体的かつ実質的な意見交換は2010(平成22)年12月3日の第6回会合以降である。この会合の議題の1つが「政策の対象者を認定する場合に必要な手続き等についてのヒアリング」であり、以下の4氏が意見発表を行った。

・北海道環境生活部アイヌ政策推進室 主査 渡辺 明 氏
白老町企画振興部企画政策課アイヌ施策推進室 主任 森 誠一 氏
・札幌市市民まちづくり局市民生活部アイヌ施策課 課長 小松祐司 氏
札幌大学 文化学部 教授 本田優子 氏
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/jittaichousa/dai6/gijigaiyou.pdf

 年が明けて、2011(平成23)年1月28日の同部会の第7回会合でも同題目の「ヒアリング」が行われ、北海道アイヌ協会の当時の事務局長である佐藤幸雄氏と、北海道大学アイヌ・先住民研究センターの博士研究員、水谷裕佳氏が意見を述べた(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/jittaichousa/dai7/gijisidai.html)。2011(平成23)年4月22日の第8回会合では、前2回のヒアリングを踏まえて「政策の対象者を認定する場合に必要な手続き等について」意見が交換された(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/jittaichousa/dai8/gijigaiyou.pdf)が、同年6月に公表された同部会の『報告書』には上記3回の議事を掲載しただけで、「認定」については結局、何も触れられていない。課題は、政策推進作業部会へと持ち越された。
 この一連の手続きの中で私の関心を最も引いたのが、水谷氏の陳述である。他の聴聞対象者は皆、これまでの「アイヌ対策」で「アイヌ」をどのようにみなしてきたかという立場から話をしているのに対し、水谷氏は唯一、集団の「認定」を専門に研究している研究者だからである。(昨年10月頃まで、私は同氏のことを男性だと思っていたが、「ゆか」と読むことを知って、多分女性なのだろうと思う。だが、ややくどく響くかもしれないが、間違わないためにも「彼/彼女」の代名詞の使用は避けて書くことにする。)他の陳述者の報告に関心のある読者は、それぞれのURLから訪問して読まれるとよい。

 この第7回会合が行われた頃、私は、今の遺骨返還請求訴訟でも争点の一つとなっているアイヌ民族の集団としての「認定」が話題に上るものと期待していたのだが、期待は、無残にも砕かれた。水谷氏の「ヒアリング概要」は、以下の通りである。

・アメリカ政府から認定を受けたトライブ (部族)が、自らの構成員の認定を行うことができる。
・個人としての所属先と文化的帰属意識は区別されている(AトライブとBトライブとの婚姻により生まれた子が、認定基準の上ではAトライブに属するが、Bトライブの親戚の下で育てられたためBトライブへの帰属意識の方が強いということも考えられる)。
・認定基準は各トライブが独自に定める。血統の割合は唯一の基準要素ではない。血は引いていないが、養子や婚姻により保留地に居住する者及び民族への貢献が高い者を認定する例等もある。自らの意思で個人認定を受けない人々もおり、そのような意思も尊重される。
・血統の割合による認定には分かりやすいという利点があるが、例えば運営するカジノ等による収益の1 人あたりの配分をより多くするため、血統の割合を極めて高く設定し、人数を制限するケースもある(政治的な理由で阻害される人々が出てくる)こと等が問題となる。
・トライブの認定のほかに、内務省インディアン局から血統の割合証明書が発行されている。トライブの構成員でなくても、祖先が先住民であれば申請でき、血統の割合が何%でも発行可能。トライブによって認定されない人々の救済措置となっているのではないか(一部の先住民関連非営利団体は、政府からの証明書の提示のみでサービスを提供)。
・政府や非営利団体が都市先住民の活動拠点となる施設や病院を建設し提供するサービスを受ける際には、トライブへの所属等を示す書類は不要。病院は非先住民も受診でき、地域住民に利益となっている。施設や病院では先住民文化、社会に配慮した活動がなされている。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/jittaichousa/dai7/gijigaiyou.pdf

 2、3点、言葉足らずと思われる箇所があるが、実際の報告ではきっともっと詳しく話しているのだろうと思うし、後で紹介するように、専門研究書も著されているから、ここでは触れないことにする。他の会合でも同じであるが、報告者の配布資料が公開されていないのが残念である。

 佐藤氏の報告に対しては多くの「意見等」が記録されているが、水谷氏の部分には、「アメリカにおけるトライブと政府による二重の認定制度は、なぜこのようなことをアイヌがしなければならないのか、ということについての示唆を与えてくれるものである」という、わずか1件のみである。他に何も出なかったとしたら、報告者は寂しい思いをしたことであろう。しかも、「議事概要」に記されているこの意見は、読む角度によって如何様にも取れる、率直に言って、何を言いたいのかわからないという意見である。(それをそのまま、あるいは編集して、「議事概要」に載せた責任者にも問題があろう。)ついでに言えば、佐藤氏の部分で出されている意見にしても、発言者の意図が判断し難いものがいくつかある。いずれにしても、まったく次元の違う話なので、今日ここで取り上げることはしない。ましてや、一地方私立大学が誰に奨学金を出すのかという問題など、その大学の教授会や評議会で議論し、文部科学省に報告しておけば良い程度の話である。

 水谷氏のヒアリングの後、その日の「論点等の整理」として、わずか1カ国の概要報告にすぎないにもかかわらず、「海外の事例」として、「血統による認定を基本としつつも、それ以外の基準もあること、また、血統による認定には分かりやすさの一方で難点もあることについて説明があった」ということで、「知識の蓄積を行った」(第8回「議事概要」)ことの正当化としてアイヌ政策推進会議に報告された。以後、アイヌ政策推進会議における集団の「認定」に関する議論は目にした記憶がない。(上述のように、同部会の『報告書』には、実質的な記述はない。)

 2011(平成23)年6月24日の、1時間にも満たなかった第3回アイヌ政策推進会議で配布された「政策の対象者を認定する場合に必要な手続き等について」(資料3-4、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai3/siryou3_4.pdf)は僅か1ページの文書であり、文字通り、わかりきった内容の「知識の蓄積」に終わっている。すなわち、

・政策の対象者であるということの確認にあたって、何を基準に判断するか
※ 海外の事例では、血統による認定、アイデンティティなど血統以外の基準もあること等について、外部有識者から説明があった。

同会合の「議事概要」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai3/gijigaiyou.pdf)にも「認定」は出てこない。以後2回の推進会議でも出てきていない。「認定」の「ヒアリング」は、以下の通り、作業部会メンバーの単なる知的エクササイズであったかのようである。

 政策の対象者を認定する場合に必要な手続き等については、本来政策の必要性等とともに検討されるべきであり、政策の実施に当たって、政策の対象となるアイヌの人々を個々に認定する手続等が必要となる場合に、透明性及び客観性のある手法等を慎重に検討するべきものであるが、当部会において知識の蓄積を行い、今後のアイヌ政策推進会議での議論に資することとした。[上記「資料3-4」]

 また新たな常套句を発見した思いである。有識者懇談会の後を受けた政策推進会議の下で具体的な政策の実施を打ち出す作業部会が、「知識の蓄積」で終わる。つまり、問題がややこしく、複雑に絡み合っているから、ただ話を聴いただけで終わったということのようである。そもそも、「知識の蓄積」を行政府に「認定」された権威ある方々が「有識者懇談会」を形成していたのではなかったのか?

<以下、省略。>

転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2014/02/04/225557