AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

NAGPRA(先住アメリカ人墳墓保護・返還法) 3題

 昨夜遅く、ブログのアクセス元の検索を見たら、NAGPRA関連で3件の興味深い事項があったので、取り上げておく。

 一つ目は、前の「帰還」訳(http://don-xuixote.hatenablog.com/entry/2014/04/22/002358)に関連することである。掲載情報が普通の一般人なら取り上げることはしないが、日本で最も影響力のある大学の一つの先生のサイトのようなので、外務省仮訳の起源かどうかは知らないが、その訳語を広めて戴きたくないという思いで取り上げる。

 ここでは、NAGPRAが「アメリカ原住民墓地保護及び帰還法」と訳されている(http://up.t.u-tokyo.ac.jp/summerschool/ss89eia.is.html)。
 先の記事では省略したが、NAGPRAとその運用を解説する政府サイトには、同法で用いられている用語が逐一、定義されている。例えば、次のように。

Repatriation: In NAGPRA (25 USC 3005), the term repatriation means the transfer of physical custody of and legal interest in Native American cultural items to lineal descendants, culturally affiliated Indian tribes, and Native Hawaiian organizations.

 「移す(transfer)」という行為をどのように訳すべきかということについては前の記事に書いたので、そちらを参照して戴きたい。
 いずれにしても、遺骨たちが帰りたいからとNAGPRAを制定したのならともかく、アメリカ政府が作った法律で「帰還」とするのは、国連の「権利宣言」訳以上におかしいことは明白である。

 二つ目は、在東京のアメリカ大使館のフェイスブックのページに、次のようなプログラムの案内があった。

1990年、米国政府は「アメリカ先住民墓地保護・返還法」(NAGPRA*)を定め、アメリカ先住民の墓地を守り、遺骨や埋葬品などの売買を禁じました。またこの法律により、スミソニアン博物館をはじめとする連邦資金の援助を受けている全米の博物館は、所蔵している先住民の埋葬品や文化財の目録を作成し、当該部族や遺族に返還するよう義務づけられました。今回の講演は1997年から2年間スミソニアンの国立アメリカ・インディアン博物館に勤務した文化担当官ケビン・オルブリッシュが、博物館在職中に担当したアメリカ先住民文化財返還プロジェクトを中心に、アメリカ先住民墓地保護・返還法(NAGPRA)がアメリカ先住民の文化保護に与えた影響についてお話しする予定です。
(略)
https://ja-jp.facebook.com/events/75487854843/

 アメリカ大使館も「返還」と訳しているではないか。

 ところで、ちょっと話題が逸れるが、過日、アメリカの現政権のケリー国務長官に関して、このような公開された情報を見つけていたので、「骨」のお話のついでに紹介しておこう。
f:id:Don_Xuixote:20140510223024j:plain
 ジョン ケリー国務長官は、日本のメディアでもおなじみであるが、ウィキペディアの記事(http://en.wikipedia.org/wiki/John_Kerry)によれば、彼はイェール大学で政治学を専攻して1966年に卒業しているが、在学中、「スカル アンド ボーンズ(Skull and Bones)」の学生秘密結社に所属していたそうである。Skull and Bonesというのは、イェール大学にある大学4年生の秘密結社である。結社は非公式には"Bones(骨)"として知られており、そのメンバーは"Bonesmen(骨男)"として知られているということである。http://en.wikipedia.org/wiki/Skull_and_Bones

 "Skul and Bones"については、過去に書いたこともあるので、こちらを参照されたい。⇒http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20100801/1280594538 http://d.hatena.ne.jp/Don_Xuixote/20110506/1304613722

 三つ目は、日本の「骨男」と「骨女」たちについてである。前にこちら(http://don-xuixote.hatenablog.com/entry/20101025/1287938558)で登場したこともある瀬口典子さんが、下のようなことを書かれている。

・・・アメリカではNAGPRA により先住民の遺骨はつぎつぎと返還され、新しい技術を応用して研究する機会は残念ながら失われつつあります。
 この問題はアメリカだけの話ではありません。日本でも過去に倫理的に問題のある遺骨収集が行われてきました。現在、先住民族アイヌの遺骨返還が求められており、人類学者は返還要求に対して、またアイヌ民族に対しても、真摯な対応を迫られています。もし返還だけでなく、研究が許されるのならば、アイヌ民族により貢献できる研究を考えていかなければならない重要な時を迎えています。例えば、生物文化的・進化的アプローチで人骨を科学的に研究することによって、疾病と環境との関係、過去の健康状態を探ることから過去の社会的な不平等、民衆の生活の歴史を明らかすることはアイヌ民族の苦難の歴史を立証するためにも重要ではないかと思われます。また逆に、アイヌ民族の食生活は和人の食生活とは違ったために健康状態がよかった可能性もあるかもしれません。人骨資料がむやみに返還されてしまうと、人類学研究がその民族だけでなく、人類全体に貢献をする機会を失ってしまう可能性があります。アメリカ自然人類学会の失敗を繰り返さないためにも日本の人類学は日本先住民族少数民族と対話を続けて、遺骨に関わる様々な問題を解決していかなければならないでしょう。

瀬口典子「私の研究分野、生物人類学」, Crossover, No. 33(March 2013), pp. 2-3(引用は3ページより。誤植はそのまま)。http://goo.gl/3Aqdwj

 本題はここからである。続きを読む。

 ここからは、ちょっと手抜き。
 モンタナ大学も協力してのNAGPRAの解説。モンタナ州ミズーラ市にて撮影。(最初に出てきたのがこれとは、誰かがPCの裏で操作しているのかな。)
"A Grave Situation - NAGPRA and You.m4v" posted by GrizCulturalHeritage
http://youtu.be/pkxGXUv1_m4

"Return Our Ancestors" posted by OVOCVideos @ http://youtu.be/Rbvio5sG_5w

Sponsor: The Indigenous Student Association at Binghamton University. ISA is a GSO-chartered organization.

Cosponsors of the event include the Graduate School, the Sociocultural and Multicultural Assembly of the GSO, the Anthropology Graduate Organization, the Binghamton Political Initiative, the Latin American and Caribbean Studies Program (LACAS), the Graduate History Societ, the Computer Science Graduate Student Organization, and the Middle Eastern Cultural Association.

カリフォルニア大学ディヴィス校にて。
"Uneasy Remains (Long Form)" posted by uneasyremains @ http://youtu.be/X8YBONzm6fs

"What is NAGPRA? A concise introduction to NAGPRA." posted by Antonio Kuilan at http://youtu.be/Uq5F58tlhpU

ミシガン大学の遺骨返還。
"University of Michigan return Native American human remains" posted by Chuck Butzin at http://youtu.be/eWZw8AhqWGE

 昨年の5月に紹介した(http://don-xuixote.hatenablog.com/entry/2013/05/20/015810国連PFII会期中の「国際的返還」プログラムのビデオ。3本目以降は順不同。All posted by IndianAffairsMedia
"United Nations Permanent Forum on International Repatriation on May 23, 2013 (Part 1)"
http://youtu.be/xRMat3jw5Uo

"UN Panel on Indigenous Repatriation, Honorable Kim Beazley, Australia (Part 2)"
http://youtu.be/iqIXpcYUev8

"Nancy Kenet Vickery, International Repatriation Specialist, UN Panel International Repatriation"
http://youtu.be/3NTephVvZkM

"Kirk Perry, Chickasaw Nation, UN Permanent Forum Panel on International Repatriation"
http://youtu.be/3nCLGEGbR7c

"Neil Carter, International Repatriation, Australia, UN Permanent Forum on Indigenous Issues"
http://youtu.be/MiZZttWXxDY

"Terry Snowball, Repatriation Coordinator, UN International Repatriation Panel"
http://youtu.be/lcmidFmJhVI

"Phil Gordon, Advisory Committee for Indigenous Repatriation, Department of Regional Australia"
http://youtu.be/sBoiAPvX2FM

"UN Jacke Swift Panel June 6"(←日付けは間違いと思われる。)
http://youtu.be/JaSYfhpzfBk



P.S.(2014.05.11, 4:00):

 瀬口氏の師、C. Loring Braceは、なかなか面白そうな人類学者である。

 瀬口氏を共著者とするBraceに関する論文:"Professor C. Loring Brace: Bringing Physical Anthropology (“Kicking and Screaming”) Into the 21st Century!"
http://quod.lib.umich.edu/cgi/p/pod/dod-idx/professor-c-loring-brace-bringing-physical-anthropology.pdf?c=mdia;idno=0522508.0016.108

 Braceの共著論文:Ainuが2ヶ所で登場。
"Gradual Change in Human Tooth Size in the Late Pleistocene and Post- Pleistocene"
Authors: C. Loring Brace, Karen R. Rosenberg, Kevin D. Hunt
http://www.indiana.edu/~semliki/PDFs/BraceRosenbergHunt87.pdf

 Braceによる書評:"Debunking Biological Theories of Race"
The Emperor's New Clothes: Biological Theories of Race at the Millennium. Joseph L. Graves, Jr. xiv + 252 pp. Rutgers University Press, 2001. $28.
http://www.americanscientist.org/bookshelf/pub/debunking-biological-theories-of-race

 Braceに関するウィキペディア記事:http://en.wikipedia.org/wiki/C._Loring_Brace

 生物学的人種の虚構を唱える点で瀬口氏はBraceと同じ考えなのだろうが、アイヌの遺骨返還に反対しているところを見ると、歴史や社会科学にまったく疎いということか。

 News誌5月号の記事を書き上げるつもりだったのに、今日の成果は0!


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2014/05/10/223902