AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

アイヌ政策関係省庁連絡会議の誤策(試論)

 まずは、こちらの説明から。

○ 北海道外アイヌにおける施策の対象者の認定については、政策推進作業部会において、誤ってアイヌ以外の者を施策対象とするなど制度の信頼性を損なうことのないよう、施策対象者となるアイヌの方々を平成26年度から認定するために必要な手続等について検討を行うこととされ、第5回アイヌ政策推進会議に報告されたところ。その後検討を重ねて、実施方針をアイヌ政策関係省庁連絡会議の申し合わせで決定したので、その内容について報告する。
 まず、認定業務を実施する機関については国土交通省が選定するが、第11回政策推進作業部会でも確認されたとおり、選定にあたってはアイヌ民族に対する理解があること、民族の構成員を民族みずからが決定すること、民族政策に係る事務処理の経験があるといった事項に留意することとした。選定後は、選定された実施機関と国土交通省は業務を実施するに当たっての合意書を交わし、実施機関は、この合意書に基づき、国土交通省が定める実施規則の準則に従って実施規則を作成する。
 また、実施機関は、これまでの部会での議論を踏まえ、有識者からなる第三者委員会を設置し、対象者認定の適切性についての審査を行うこととした。
(「第14回『政策推進作業部会』議事概要」、6ページ。)

日本学生支援機構の無利子奨学金については、昨年の部会で貸与基準の緩和について御意見をいただいたところであり、北海道外に居住するアイヌ子弟に対する特別措置として、無利子奨学金の貸与をしやすくするため、基準の緩和をこれまで検討してきたところ。
 その結果、特例推薦として、無利子奨学金の学力特例の対象として、通常の学力基準よりも推薦が受けやすくするように制度を改正したところ。
 また、この制度の円滑な実施のため、誤ってアイヌ以外の者を対象とすると制度の信頼性を損なうことになるため、対象者の認定については、内閣官房で検討してきたところであり、対象者を認定するための業務を実施する機関については、国土交通省北海道局が選定することになり、公益社団法人北海道アイヌ協会がその機関として選定され対象者には認定証を交付されることとなった。
 機構の奨学金貸与を希望する場合には、一般の学生と同様に在学する学校を通じて申請することとなっており、通常貸与を受ける申請書類に加え、公益社団法人北海道アイヌ協会から交付された認定書の写しを提出していただくことになる。こうして、平成26年度から北海道外に居住するアイヌの子弟に対する奨学金の貸与について可能となったところ。
(略)
○ 以前も申し上げたが、今回の制度は抜本的な問題の解決にはならないと思う。アイヌの子弟に対する教育支援が、成績が多少悪くても支援の対象とするというようないわゆる福祉施策から抜け切れていないまま続いていいのか。現時点でこれしかないのであれば仕方ないが、教育に対する保障や大学進学に道を開くための対策を、このようなことだけで措置済みと考えられては困る
(「第16回『政策推進作業部会』議事概要」、6-7ページ。)

○ 繰り返し発言があったが、この問題に限らず他の省庁においても、まず、既存の制度の枠内でできることから考えるというのは当然かもしれないが、それを超えてあるべき先住民族政策という観点から新しい道を開くということもぜひ検討していただきたい。また、それを考えるのが政策推進作業部会の役割であるとも思う。
(同上、10ページ。)

 「[4月18日の第16回作業部会の]時点で北海道アイヌ協会へ対象者の認定の申請はまだない状況」ということであったが、その後、4月下旬の締め切りまでの1週間ほどの間に申請は出たのであろうか。

 「誤ってアイヌ以外の者を施策対象とするなど制度の信頼性を損なう」ことが懸念されているが、残念ながら、この仕組みでは対象となり得る有資格者を外してしまいそうである。それは考慮されなかったのか。優秀なエリートたちが考案したことであるから、そんなことはないだろうと思うのである。そうすると、何らかの政治的意図が働いているということが考えられる。遺骨返還問題の「窓口」問題、政府会議への「アイヌ代表」の選定の問題とも共通する問題が存在している。


 第16回作業部会で厳しい批判発言も出ていたが、長い時間をかけて出てきた施策が(民族共生のテーマパークを除いては)この程度のものとは。仮に4月の残り期間に応募があったとしても、僅かな数ではないだろうか。「認定証」の申請に関するコストとベネフィットを考えれば、この仕組みはほとんど無意味ではないだろうか。ないよりもましと言いたいところだが、この仕組みのアイヌ民族全体に対するコストを考えた場合、単純にそうとも言えまい。

 まず、この奨学金貸与の仕組みに関する広報を本ブログで取り上げた際に何人かから来た反応は、「いつの間に?」であった。その辺の無関心の国民ではない。普段アイヌ政策の動向に関心をもって見ている人たちからの反応がそれなのである。作業部会の会議室と代表者たちの地元との間で、どれだけ情報が行き来して、制度「改正」が周知徹底されていたのか、疑問である。

 ある人が大学に進学するかしないかで経済的に迷っている場合の一番の心配は、入学金その他の、入学直後に必要な資金ではないだろうか。学生支援機構の奨学金は高校在学中に申請できるようであるが、受給が確定するのは「進学後」であり、進学の決断を促すには弱すぎる。

 入学後に学生が経済的に貧窮状態にあれば、アイヌの「認定証」がなくても(つまり、「アイヌ」であることを出さずとも)奨学金申請は可能である。「通常の学力基準よりも推薦が受けやすくするように制度を改正した」とのことであるが、なんとかして大学を卒業できるだけの勉学意欲と学力がなければ中退ともなりかねず、その場合は借金を背負い込むだけになるのではないか。

 他方、昨今の大学は、トップクラスの大学を除けば、奨学金を出してもよいから学生に来てくださいという状況である。定員割れを起こして補助金カットになるよりは、「奨学金」を配ってでも学生に来て欲しいというところがいくらでもある。学生のリクルートに苦心している大学は、学生の就職先(出口)でも苦心している。大学にとって、就職先の確保は定員確保に直結してもいる。進学希望の高校生が、大学のレベルを一ランク下げて入った大学で成績優秀となれば、一人の学生に複数奨学金が集中するということも起こっている。(これは、つい先日、ある大学の教授から聞いた話でもある。)

 そういう状況で、さらに、自らがアイヌであることを隠しながら、あるいは自分は表明したくても周囲の親戚縁者などに反対されながら抑えているような状況にあれば、わざわざ戸籍謄本や除籍謄本を取って北海道アイヌ協会に提出し、さらに大学に「認定証」を提出してまで奨学金申請を行うであろうか。ましてや、アイヌであることを出して申請したところで特別の利益があるとも思えない仕組みの下で、仮に北海道アイヌ協会に対する何らかの否定的な感情によって入会していない家族や本人の場合、わざわざ同協会が発行する「認定証」を申請してまで奨学金を申請する労を取るであろうか。

 そして、もっと広い意味での問題もある。「北海道の区域外に居住するアイヌの人々を対象とする施策の対象となる者を認定する業務に係る規則」の第2条に「対象者」が明記されているが、これはアイヌ協会の会員規定のままのようである。申請は本人が行うのであろうが――20歳未満の場合は親権者?――、「当該者と婚姻により同一の生計を営んでいる者」には、例えば、婚姻の相手が非アイヌで子どもが非アイヌの連れ子である場合にも当てはまりそうであるが、どうなのだろうか。
 いずれにしても、従来の道内のアイヌへの施策に対しても北海道アイヌ協会の会員規定に基づいて行われてきたのであろうが、今度はそれが「アイヌ政策関係省庁連絡会議の申し合わせで決定」し、国土交通省が重要な役割を担いながら、学生支援機構が絡んでいる。言うなれば、国策のための「アイヌの認定」基準が運用され始めたということでもある。

 北海道ウタリ協会の定款は、もう四半世紀くらい前に戴いたことがある。これを書くために探したのだが、どこかに埋もれてしまっている。インターネット上では挙がってこなかった。現在の「認定」基準にある「養子は一代限りとする」とか「養子を除く」という規定はなかったのではないかと言う人がいるが、定かではない。「そもそも『養子』なんて考え方はなかったのでは」とも、あるアイヌのお年寄りから聞いた。いずれにしても、北海道の「開拓期」に棄てられた和人の子をコタンで育てたという話は、何度も聞いたことがある。その子たちは、分け隔てなくコミュニティの中で育てられたとも聞いた。そして、成長した子がアイヌとしてのアイデンティティをもち、周囲からもそう認められれば、その子はアイヌとなってコミュニティに定着する。そして結婚して子どもをもつ場合、なぜその子が除外されなければならないのだろうか。これが一社団法人の会員規定であるうちは何も言うつもりはなかったが、国策における「アイヌ」の「認定基準」となった今、大きな意味合いをもっていると考える。伝統無視の伝統文化政策であるような気がしてならない。(とは言うものの、私は、アイヌの伝統文化には疎い。)

(対象者)
第2条 対象者は、北海道の区域外に居住していることにより、北海道庁が実施する生活向上関連施策の対象とならない者であって、アイヌの血族(養子は一代限りとする。)又は当該者(養子を除く。)と婚姻により同一の生計を営んでいる者とする。

 仮に「養子は一代限りとする」とか「養子を除く」という規定が、近年の「アイヌの血」が入っていないのにアイヌと言っているというような人種主義者たちからの批判によって入れられたのであれば、北海道アイヌ協会に再考を促したい。組織の存続という観点からも、「血族」主義に陥らない方が賢明であろう。

 最後に、上で書いたように、この奨学金申請の仕組みには遺骨返還と同じ問題が存在している。第14回作業部会の説明にあるように、「アイヌ政策関係省庁連絡会議の申し合わせで決定」されたこの「実施方針」は、「民族の構成員を民族みずからが決定する」としながらも、北海道アイヌ協会だけを相手としており、そこを「選定された実施機関」として、「国土交通省は業務を実施するに当たっての合意書を交わ」すのである。他のアイヌ組織や団体の構成員規定を詳しくは知らないが、すべてが北海道アイヌ協会のそれを同じなのであろうか。仮に同じであるとしても、北海道アイヌ協会だけを窓口として選定することは、政策推進会議と作業部会の合意の下で、他のアイヌ組織に対して北海道アイヌ協会の権威と権限を集中することになる。北海道アイヌ協会は、「報酬」を配分する権力を得ることになっているが、それを独占するのではなく、率先して他のアイヌ組織と共有するべきではないだろうか。一つには、政策推進会議過程に他の組織の代表を招き入れようとする努力を行うべきであろうと思われる。「対象者」規定においても、政策会議過程の参加者においても、キーワードは"inclusive"(包含的)であることである。


 残していた補足も終えたので、30日の遺骨返還訴訟の原告の方々のご健闘を祈りながら、また何日か休みにしよう。


P.S.(2014.06.03, 22:20):

 本業務の実施機関は、「先住民族は、その慣習及び伝統に従って、自己の帰属又は構成員を決定する権利を有する」という「先住民族の権利に関する国際連合宣言(2007 年採択)」の関連条文の趣旨を尊重し、公益社団法人北海道アイヌ協会が選定され、本業務は、同協会において国土交通省との合意に基づいて行われることとなった。今後、認定手続が適切に実施されるよう注視していくことが求められる。
(「「北海道外アイヌの生活実態調査」を踏まえた全国的見地からの施策の進捗状況について」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai6/siryou2_2.pdf

 政府には「権利宣言」の他の条文の趣旨も尊重させよう! アイヌ民族の他団体も、要求しよう!


P.S. #2(2014.06.22):
 現在、北海道アイヌ協会の「定款」は、同協会のホームページからアクセス可能となっている。


転載元:http://ainupolicy.hateblo.jp/entry/2014/05/28/224844