AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

強制移住と土地・資源(7)――第26条・第27条

 早くキリをつけないと自分のプロジェクトが疎かになっているのだが、書き上げてから計画的に投稿しているわけではないので、自分でも何回要るのか分かっていないのである。

 さて、第26条から続ける。

第26条
1. Indigenous peoples have the right to the lands, territories and resources which they have traditionally owned, occupied or otherwise used or acquired.
2. Indigenous peoples have the right to own, use, develop and control the lands, territories and resources that they possess by reason of traditional ownership or other traditional occupation or use, as well as those which they have otherwise acquired.
3. States shall give legal recognition and protection to these lands, territories and resources. Such recognition shall be conducted with due respect to the customs, traditions and land tenure systems of the indigenous peoples concerned.

1.先住民族は、自己が伝統的に所有し、占有し、又は他の方法で使用し、若しくは取得してきた土地、領域及び資源についての権利を有する。
2.先住民族は、自己が伝統的に所有し、他の方法で伝統的に占有し、若しくは使用することにより保有しており、又は他の方法で取得した土地、領域及び資源を所有し、使用し、開発し、及び管理する権利を有する。
3.国は、1及び2に掲げる土地、領域及び資源について、法的に認め、及び保護する。この場合において、関係する先住民族の慣習、伝統及び土地に係る権利についての制度を十分に尊重して認めるものとする。

 第26条1項も第28条と同じ言い回しであるが、最後に、取得して現在保有する「土地」が含まれている。「伝統的に所有」というのは。例えば、先住民族の文化と権利の結合で言及したように、近代法の所有形態とは異なる所有を含むが、それでも「所有」に異論があったり、明確でない場合に、それとは別の形態でその「土地」に居住したり、利用していた/きた「土地」に言及している。2項は、そのような理由で現在保有している「土地」に関して述べているが、1項も2項も、想定可能な限りの「土地」に対する権利を表現しようとしている。そのような「土地」に対して、3項は、国家の責務として、「法的承認と保護」を行わなければならないのである。しかし、それは支配的国家・社会のではなく、先住民族の慣習や土地保有体系尊重して行わなければならない。
 「法的に認め、及び保護」と、コンマが入るのは誤解を生じさせる。ここは「法的承認および保護」であって、「法的」は「保護」も修飾していると読むべきである。
 強制移住も含め、加藤氏が「居ながらにして他者に奪われた」という「土地」に関して、そうしたことが現在「推進」されているアイヌ政策の枠組みを作った有識者懇談会で、実行を念頭に論じられた形跡は、公開されている資料では「一定の配慮」以外にまったく見受けられない。それゆえ、既に書いたように、『報告書』の土地権に関してはゼロ回答なのである。

 第27条は、次の通りであるが、この条項の政府訳については少しケチをつけておきたい。

第27条
States shall establish and implement, in conjunction with indigenous peoples concerned, a fair, independent, impartial, open and transparent process, giving due recognition to indigenous peoples' laws, traditions, customs and land tenure systems, to recognize and adjudicate the rights of indigenous peoples pertaining to their lands, territories and resources, including those which were traditionally owned or otherwise occupied or used. Indigenous peoples shall have the right to participate in this process.

国は、関係する先住民族と連携して、先住民族の土地、領域及び資源(伝統的に所有し、又は他の方法で占有し、若しくは使用してきたものを含む。)についての当該先住民族の権利を認め、及び決定するために、先住民族の法、伝統、慣習及び土地に係る権利についての制度に十分に留意しつつ、公正な、独立の、公平な、公開の、かつ、透明性のある手続を定め、及び実施する先住民族は、この手続に参加する権利を有する。

 この条項は、通常、権利規定の項と国家の責務の項から成っている「権利宣言」の中では例外的な条項で、私の記憶に間違いがなければ――確認に手間をかけるのが面倒で申し訳ない――1993/94年草案には含まれていなかった。
 アイヌ民族の土地権を法的に決定する機関が存在せず、また検討もされていないこの国の文脈で言えば、この第27条は特に、政府と有識者懇談会の怠慢(「不決定」=Nondecision-Makingあるいは「バイアスの動員」=Mobilization of Bias)を明らかに示していると言えるだろう。「公正な、独立の、公平な、公開の、かつ、透明性のある手続を定め、及び実施する」ことが、完全に無視され、争点から除外されている。
 政府訳について、いくつか指摘しておく。第1に、カッコ内の下線部の「してきた」に当たる英語正文は"were"と過去形であり、「してきた」と今日に至るまでの継続的な意味に取られるように訳すのは明確に間違いであり、過去に伝統的に所有または他の方法で占有または使用され(てい)た「土地」を含むのである。
 第2に、「認め、及び決定する」の訳は、間違いとは言えないが、本条が想定している「過程(process)」の意味合いが、この日本語訳だけを読む人々の多くには正確かつ十分には伝わらないのではないかと思われる*1
 ここで使われている"adjudicate"という言葉は、明らかに司法的な意味を持っており、例えば、私の手元にある尾崎哲夫『法律英語用語辞典』(自由国民社、2003年)では「処断する」という難しい訳語が載っており(「処断」をさらに国語辞典で調べると、[名](スル)さばいて、はっきり結論を出すこと。きっぱりと決定し処理すること。と定義されている)、その名詞の"adjudication"は、「①裁定②裁判」と訳されている(p. 10)。この英語辞書では、明瞭簡潔に、"transitive verb: to settle judicially; intransitive verb: to act as judge"(他動詞:司法的に解決すること;自動詞:判定者として行動する)と定義されている。さらに、こちらの子供のための定義では、"to decide, award, or sentence judicially "と説明されている*2
 要するに、先住民族の権利(主張)に関する争議に取り組む制度・過程を確立(この場合は「設立」でも可)することを国家の政府に課しているのである。しかし、「土地」に関する権利を「承認する」ための過程の確立を扱おうとしていた条文に"adjudicate"が加えられたのではないかと推測するが、これについては再確認しないといけない。この条文が政府間の過程で新たに追加として出てきて、"adjudicate"が加えられた際に先住民族の代表たちの懸念を"process"の前に置かれている5つの形容詞が物語っているように読める。この"adjudicate"の「過程」あるいは政策機関の一つの例として、アメリカの「インディアン土地請求裁判所」などが思い出されるであろうが、その問題点を教訓として、先住民族の参加の一文が明記されていると思われる。

 因みに、この条項の北大訳も見ておきたい。

第27条
国は、関係する先住民族と協力して、伝統的に所有し、又はその他の方法で占有し、若しくは使用してきたものを含む、先住民族の土地、領域及び資源に対する当該民族の権利を承認し及び決定するための、公正で、独立し、公平で、公開で、かつ透明性のある手続を、先住民族の法、伝統、慣習及び土地保有制度に十分に留意しつつ、確立し、及び実施しなければならない。先住民族は、この手続に参加する権利を有する。

 ついでだから、SGC訳も出しておこう。

第27条 【土地や資源、領域に関する権利の承認】
国家は、関係する先住民族と連携して、伝統的に所有もしくは他の方法で占有または使用されたものを含む先住民族の土地と領域、資源に関する権利を承認し裁定するために、公平、独立、中立で公開された透明性のある手続きを、先住民族の法律や慣習、および土地保有制度を十分に尊重しつつ設立し、かつ実施する。先住民族はこの手続きに参加する権利を有する。

「された」、「裁定」としているところは良いが、"process"は「設立」よりは「確立」の方が良いな。

<ここまでは、結局のところ昨夜99%書き上げていたものである。まだまだ続けないといけないから、今回はここまでを投稿しておく。この(7)に関しても、後で少し補足するかもしれない。>

*1:それと関連して、「手続」という言葉も行政官僚的視点からの訳語のような感じがして、「権利宣言」利用者にどう受け止められるのか気になるところではあるが、SGCの法学者(?)も用いていることだから、そのままにしておこう私は、「手続き」からは、"process"というより、"procedures"を想起するのである。検索で上位に挙がってくるのはビジネス関係ばかりであるが、参考にはなるであろう⇒ What's the Difference Between Processes and Procedures?Process and Procedure.

*2:もっと詳しい説明を読みたい人は、こちらを参照されると良いだろう。V.tr. 1. To make a decision (in a legal case or proceeding), as where a judge or arbitrator rules on some disputed issue or claim between the parties. 2. To study and settle (a dispute or conflict): The principal adjudicated the students' quarrel. 3. To act as a judge of (a contest or an aspect of a contest); v.intr. 1. To make a decision in a legal case or proceeding: a judge adjudicating on land claims. 2. To study and settle a dispute or conflict. 3. To act as a judge of a contest.