AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

強制移住と土地・資源(9)――ILO 169号条約の「土地」権条項(w/ P.S.)

 ILOの条約改定過程や国連の「権利宣言」起草過程で、「オレたちは、こういうことをみんな(全部)されてきた」と、アイヌの参加者たちが過去形で話されるのを何度も耳にした。しかし、完全な過去のことであろうか。過去に奪われた「土地」はどうなるのか。少なくとも、ILO国連の「土地」に関する権利規定には、今の問題として書かれている。
 原状回復を含む「土地」収奪に対する賠償や「権利宣言」の権利の対象となる「土地」の条文での表現に関しては、ILOの条約改定過程でも、国連の「権利宣言」起草過程でも、大いに議論されたことである。先住民族としては当然、過去に所有/占有/使用していながら奪われた「土地」も含めて権利を主張するが、各国政府は、対象の「土地」を狭く限定しようとする。そこで、所有/占有/使用している「土地」に対する権利という文言を使おうとした。
 先に言及したILO 169号条約に日本政府は署名していないが、北海道アイヌ協会は、近年に見解を変えていなければ、政府に対してILO 169号条約への加盟と批准を求めてきたと思う。そこで今回は、同条約の土地権の扱いについて少し見ておきたい。(政府や「有識者」は、日本が同条約を批准していないからアイヌ民族には当てはまらないと言うだろうが、勝手に言わせておけば良い。)

 ILO 169号条約は、第13条から第19条を「第2部(Part II)土地」という項目の中に収めている。そこでは、「土地」については現在形(時制)を用いている。例えば、第14条は、下線を引いている部分の通りである。(太字部分は、後で取り上げる。)日本語訳は、ILO駐日事務所の「1989年の原住民及び種族民条約(第169号)」を使用するが、前にも書いたことがある通り、この条約名の訳はどうにかならないものかと思う。それに、タイトルで「原住民及び種族民」としておきながら、本文は、下のように、「人民」と言及している。この点に入ると長くなるので、読者は、そこのところを考慮しながら訳文を読んで戴きたい。

1. The rights of ownership and possession of the peoples concerned over the lands which they traditionally occupy shall be recognised. In addition, measures shall be taken in appropriate cases to safeguard the right of the peoples concerned to use lands not exclusively occupied by them, but to which they have traditionally had access for their subsistence and traditional activities. Particular attention shall be paid to the situation of nomadic peoples and shifting cultivators in this respect.
2. Governments shall take steps as necessary to identify the lands which the peoples concerned traditionally occupy, and to guarantee effective protection of their rights of ownership and possession.
3. Adequate procedures shall be established within the national legal system to resolve land claims by the peoples concerned.
1 関係人民が伝統的に占有する土地の所有権及び占有権を認める。更に、適切な場合には、排他的に占有していない土地で、関係人民の生存及び伝統的な活動のために伝統的に出入りしてきた土地を利用するこれらの人民の権利を保証するための措置をとる。このため、遊牧民及び移動農耕者の状況について特別な注意を払う。
2 政府は、必要な場合には、関係人民が伝統的に占有する土地を確認し並びにその所有権及び占有権の効果的な保護を保証するための措置をとる。
3 関係人民による土地の請求を解決するために国の法制度内において適切な手続を確立する。

 読者には、読んでいただけばお分かりの通り、「土地」は現在占有されているものだけを指すのではない。ILO本部事務局が同条約の推進のために作成・発行した同条約の『マニュアル(A Manual)』(2003年改訂版)には、「関係人民が伝統的に占有する土地」の意味が次のように解説されている。

These are lands where indigenous and tribal peoples have lived over time, and which they have used and managed according to their traditional practices. These are the lands of their ancestors, and which they hope to pass on to future generations. It might in some cases include lands which have been recently lost.(p. 31)

すなわち、そのような「土地」は、先住民族が過去から居住してきて、自分たちの伝統的な慣行に従って利用しかつ管理してきた土地を指している。そして、それは、先住民族の「祖先」の土地であり、未来の世代に引き渡すことを願っている土地である。これは、「権利宣言」第25条にも述べられていたことを想起されたい。そして、解説は最後の文で、そのような土地が、「場合によっては、最近失われた土地を含むこともある」と述べている。
 第14条1項を読むと、有識者懇談会『報告書』の30ページ以下、「具体的政策」に挙げられているアイヌ民族による「土地・資源の利活用」に対する「配慮」が、かろうじて、そこの太字部分に関係していると気づくかもしれない。しかし、『報告書』の「利活用」に対する「配慮」は、「これらの人民の権利を保証するため」ではない。
 さらに、第2項が政府に課している義務は、上の解説と合わせて解釈すれば、近年に失われた土地に対しても当てはまることになる。そして、第3項は--ここでの「手続」に対する言葉は"procedures"である--、有識者懇談会で顧みられなかったと思われる「権利宣言」第27条の、先住民族の「土地」権の承認と裁定のための「公正な、独立の、公平な、公開の、かつ、透明性のある」過程の確立と実行の前身として理解され得る。


 ついでなので、ILO 169号条約の他の「土地」権条項で、「権利宣言」について述べたことと関連する条文も見ておくことにしよう。まず、第13条である。

1. In applying the provisions of this Part of the Convention governments shall respect the special importance for the cultures and spiritual values of the peoples concerned of their relationship with the lands or territories, or both as applicable, which they occupy or otherwise use, and in particular the collective aspects of this relationship.
2. The use of the term lands in Articles 15 and 16 shall include the concept of territories, which covers the total environment of the areas which the peoples concerned occupy or otherwise use.

1 この部の規定を適用するに当たり、政府は、関係人民が占有し若しくは使用している土地若しくは地域又は、可能な場合には、その双方とこれらの人民との関係が有するその文化的及び精神的価値についての特別な重要性並びに、特に、その関係の集団的側面を尊重する。
2 第十五条及び第十六条の「土地」という用語の使用には、関係人民が占有し又は使用している地域全体的環境を包括する地域の概念を含む。

 これは、「権利宣言」第25条に繋がる条項と言える(本連載の(6)を参照されたい)。前回参照した『マニュアル』には、先住民族には「土地」との「特別な関係」があること、先住民族の伝統的知識や口承史が土地と結び付いていること、そしてそれらが神聖であったり、精神的な意味を持っていることが特筆され、本条の重要性が解説されている。
 第2項の最後の行に「地域」が2つあるが、本文を見ればお分かりの通り、後者は「権利宣言」で「領域」と訳されている言葉(territories)である。そして、これについても『マニュアル』は、先住民族が言うところの「土地」は、通常、森林、河川、山、海、それらの地上および地下(水面および水中)を含む、彼・彼女たちが使用する「全領域」を包含すると説明している。そして、「土地」が先住民族の「文化と生活」にとって不可欠であり、その経済的生存、精神的な幸福、そして文化的アイデンティティの基盤としての重要性を指摘しながら、先祖伝来の土地の喪失が、共同体として、また一民族としての先住民族の生存そのものを脅かすことを、コーボゥ報告書を引用しながら指摘している。
 上で見たように、第14条と合わせて、169号条約は、単なる「利活用」への「配慮」に止まらず、上述の「土地」との特別な関係の尊重、「土地」の集団および個人による伝統的な所有と保有の権利の承認、先住民族に帰属する「土地」の特定と保護を含めて、先住民族の土地権の保護のための特別措置を求めている。

P.S.(02.01):以下、ILO 169号条約の「土地」権の残りの条項(第15条~第19条)を掲示しておくことにする。第16条が、現代の土地からの立退き/移転(removal/relocation)に関する条項である。

第15条
1. The rights of the peoples concerned to the natural resources pertaining to their lands shall be specially safeguarded. These rights include the right of these peoples to participate in the use, management and conservation of these resources.
2. In cases in which the State retains the ownership of mineral or sub-surface resources or rights to other resources pertaining to lands, governments shall establish or maintain procedures through which they shall consult these peoples, with a view to ascertaining whether and to what degree their interests would be prejudiced, before undertaking or permitting any programmes for the exploration or exploitation of such resources pertaining to their lands. The peoples concerned shall wherever possible participate in the benefits of such activities, and shall receive fair compensation for any damages which they may sustain as a result of such activities.


1 関係人民の土地に属する天然資源に関する関係人民の権利は、特別に保護される。これらの権利には、当該資源の使用、管理及び保存に参加するこれらの人民の権利を含む。
2 国家が鉱物若しくは地下資源の所有権又は土地に属する他の資源に対する権利を保有する場合には、政府は、当該資源の探査若しくは開発のための計画を実施し又は許可を与える前に、当該地域の関係人民の利益が害されるか及びどの程度まで害されるかを確認するため、これらの人民と協議する手続を確立し、又は維持する。関係人民は、可能な限り、このような活動の利益を享受し、かつ、当該活動の結果被るおそれのある損害に対しては、公正な補償を受ける。


第16条
1. Subject to the following paragraphs of this Article, the peoples concerned shall not be removed from the lands which they occupy.
2. Where the relocation of these peoples is considered necessary as an exceptional measure, such relocation shall take place only with their free and informed consent. Where their consent cannot be obtained, such relocation shall take place only following appropriate procedures established by national laws and regulations, including public inquiries where appropriate, which provide the opportunity for effective representation of the peoples concerned.
3. Whenever possible, these peoples shall have the right to return to their traditional lands, as soon as the grounds for relocation cease to exist.
4. When such return is not possible, as determined by agreement or, in the absence of such agreement, through appropriate procedures, these peoples shall be provided in all possible cases with lands of quality and legal status at least equal to that of the lands previously occupied by them, suitable to provide for their present needs and future development. Where the peoples concerned express a preference for compensation in money or in kind, they shall be so compensated under appropriate guarantees.
5. Persons thus relocated shall be fully compensated for any resulting loss or injury.


1 2から5までの規定を条件として、関係人民は、自己が占有する土地から移転させられない。
2 例外的な措置としてこれらの人民の移転が必要と考えられる場合においては、その移転は、関係人民の自由な、及び事情を知らされたうえでの同意のあるときにのみ行われる。同意を得ることができない場合には、関係人民の有効な申立ての機会を規定する国内法令により設けられた適切な手続(適切な場合には公的調査を含む。)を経ることのみにより、その移転は行われる。
3 可能な場合においていつでも、関係人民は、移転の理由がなくなったときは、直ちに自己の伝統的な土地に帰還する権利を有する。
4 3の帰還が可能でない場合において、定められた合意又はそのような合意が存在しないときは適当な手続により、関係人民は、可能な限り、自己が以前に占有していた土地と少なくとも同等の質及び法的地位の土地であって、その現在の必要及び将来の発展に備えるためにふさわしいものが供与される。これらの人民は、金銭又は現物による補償のいずれかを希望した場合には、適切な保証に基づいてそうした補償が行われる。
5 1から4までに定めるところにより移転させられた者は、結果として生ずるいかなる損失又は損害に対しても、十分な補償を受ける。


第17条
1. Procedures established by the peoples concerned for the transmission of land rights among members of these peoples shall be respected.
2. The peoples concerned shall be consulted whenever consideration is being given to their capacity to alienate their lands or otherwise transmit their rights outside their own community.
3. Persons not belonging to these peoples shall be prevented from taking advantage of their customs or of lack of understanding of the laws on the part of their members to secure the ownership, possession or use of land belonging to them.


1 関係人民の構成員の間の土地の権利の譲渡に関して、これらの人民により確立された手続は、尊重される。
2 関係人民は、その土地を譲渡し、又は他の方法により自己の共同体の外部に自己の権利を譲渡する資格について検討が行われるときはいつでも、協議を受ける。
3 関係人民の構成員に属する土地の所有、占有又は使用を確保するため、これらの人民に属さない者が、その慣習又は法律に関する当該構成員の知識の欠如を利用することを妨げる。


第18条
Adequate penalties shall be established by law for unauthorised intrusion upon, or use of, the lands of the peoples concerned, and governments shall take measures to prevent such offences.


 関係人民の土地への許可なき侵入又はその土地の使用について、法律により適当な罰則が定められるものとし、政府は、これらの違反を防ぐための措置をとる。


第19条
National agrarian programmes shall secure to the peoples concerned treatment equivalent to that accorded to other sectors of the population with regard to:
(a) the provision of more land for these peoples when they have not the area necessary for providing the essentials of a normal existence, or for any possible increase in their numbers;
(b) the provision of the means required to promote the development of the lands which these peoples already possess.


 国の農地計画は、関係人民に対し、次のことについて、他の部類の住民に与えられる待遇と同様の待遇を確保する。
(a) 関係人民の正常な生活に欠くことのできないものを確保するため又は将来の人口増加のために必要な地域を有していないときは、これらの人民に対し、更に多くの土地を提供すること。
(b) 関係人民がすでに所有している土地の開発を促進するために必要な手段を提供すること。