AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

「国民のアイヌに対する理解度についての意識調査」の結果概要(+P.S.)

 内閣官房アイヌ総合政策室「『国民のアイヌに対する理解度についての意識調査』の概要」(2016年2月)は、恐らく昨日の政策推進作業部会の議題(2)の「その他」で取り上げられ、そして今日アップロードされたのだろう。もしかしたら今日の地元新聞などでは既に取り上げられているのかもしれないが、まだ見ていない。

 調査対象は「全国20歳以上のアイヌの人々 1,000人」で、「有効回収数 705人(回収率 70.5%)」というのは、まあまあの数字と言えるのではないかな。先の「国民」を対象とした調査よりも、差別の深刻さが現れている。

 しかし、である。この調査が今頃出てくるのが、何とも面白い。アイヌ政策有識者懇談会の「有識者」たちや、これまでのアイヌ政策推進会議での議論は何だったのかと思わせる結果がいくつもある。

 先ほどの投稿後に「概要」をざっと概観しての感想にすぎないが、例えば、アイヌ側から見た「エ 差別や偏見の原因・背景」で1位を占めているのが「アイヌの歴史に関する理解の不十分さ 78.0%」であり、3位の「アイヌ文化に対する理解の不十分さ 66.1%」をリードしている。さらに、その結果から当然導かれることとして、「オ 差別や偏見を無くすために必要なこと」には、「アイヌの歴史・文化の知識を深めるための学校教育 80.7%」という回答が1位であり、「有識者懇談会」が強調していた「アイヌへの理解を深めるための啓発・広報活動 53.1%」は3位である。さらに、この質問に対しては、4位が「アイヌへの職業訓練の充実や雇用の確保 52.8%」、そして5位が「アイヌへの差別に対応する専門の相談機関・施設の充実 45.7%」である。いずれも、今「アイヌ総合政策室」が「推進」している(あるいは、しようという気になっている?)「対策」である。

 「2.国民理解の促進について」の「(1)国民理解の促進に向けて効果的な取組方法」に対する回答結果も興味深い。「講演会・シンポジウム・フォーラム・文化交流イベントの開催 53.9%」と「テレビ番組や新聞を利用した情報提供 53.8%」がほぼ同率で、1位、2位を占める。しかし、複数回答でそれぞれが約半数、圧倒的な賛同とはなっていない。
 ここで最も目を引くのが、「広報紙・パンフレットの配布、ポスターの掲示 27.8%」(5位)と「キャラクターやロゴマークを活用した親しみやすさを感じる広報活動 25.1%」(6位)である。現「アイヌ政策」の中の「国民理解の促進」の目玉、イランカラプテ キャンペーンの空港のフラッグ(アイヌ政策推進会議サイトのトップの写真にまだ掲げられている)やバナー、各種キャラクターやロゴマークといった、子どもだましのような「対策」、「強制移住と土地・資源」シリーズで私が「政策のトリビア化」と称した「対策」が、当事者たちにどのように受け止められているのかが窺われる。今すぐに、どの会議でだったかを引き出すことはできないが、「国民理解の促進」について、「専門家」だか「権威」だかを招いて報告してもらい、意見交換をした揚句、しょうもない提案が出ていたが、あれは何だったの?と尋ねたくもなる。(多分、どこかで批判記事を書いていたと思う。)

 さて、最後に2点指摘しておきたい。
(1)「差別や偏見の原因・背景」として「アイヌの歴史に関する理解の不十分さ」が、そして「差別や偏見を無くすために必要なこと」として「アイヌの歴史・文化の知識を深めるための学校教育」が、それぞれ1位を占めている現実を前に、歴史教科書における「アイヌ民族の記述」の「欠陥は解消」と閣議決定した政府(北海道新聞、2015年5月30日)は、これからどう動くのであろうか。
 Cf. 日本の国は「アイヌ民族に土地をあたえた」か―有識者懇談会報告(2009年)を吟味する

(2)今回の調査の「概要」には、「アイヌの人々を対象とした全国調査は今回が初」と記されているが、質問項目では男女の区別は問わなかったのであろうか。少なくとも「概要」を見る限り、それはなさそうである。何年も前から国連女性差別撤廃委員会から指摘されていながら、そして先週にはそこで審査を受けることが分かっていながら、なぜ「複合差別」の実態(があるのかないのか)を調査しようとしなかったのか。政策室の役人にも、「有識者」たちにも、その視点はなかったのか。それとも別に何か、その質問項目を入れてはまずい理由でもあったのか。

P.S.:因みに、国民全体を対象とした調査も参考資料として挙げられている。時間のある方は、比較分析をどうぞ。

P.S. #2(02.27, 2:00):
 時事通信社が配信していた。アイヌ72%「差別感じる」=国民全体2割弱、ギャップ鮮明―政府調査 時事通信 2月26日(金)19時52分配信
 配信時刻を見ると(cf. この記事のURL)、私の記事の方が先だったようだ。内容的に注目している部分も、まったくと言ってよいほど違う。

 菅官房長官は、本当に調査結果に目を通したのだろうか。

 菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「国民全体でアイヌへの理解が不十分なことが原因ではないか」と指摘。その上で「政府として普及啓発などにしっかり取り組む必要がある」と強調した。

 そりゃあ、普及啓発も必要だろうが、上で指摘したように、政府首脳から歴史を勉強しなおさないといけないし、教育内容の改善を行わないといけないのだろうに。結局、調査結果は、まだまだイランカラプテ キャンペーンを押し進めなければならないという口実に利用されるということのようだな。

P.S. #3:こちらは、北海道新聞の記事である。最初の配信は、時事とは逆に10分くらい早く、私が書いている間に行われたようである。無料で読める部分は、時事通信社の配信と大差ないが、菅官房長官の言葉の引用部分が異なっている。

菅義偉官房長官は記者会見で「国民全体ではアイヌ民族に対する理解が不十分だ」と指摘。2020年に胆振管内白老町に開設するアイヌ文化復興の拠点「民族共生の象徴となる空間」(象徴空間)の整備や普及啓発に取り組む考えを強調した。

 既定路線の正当化、何の変化もなしということ。分かりきったことではあるが。

P.S. #4(02.27, 15:00):なぜ、この時期の公表なのだろうかと訝る声を戴きましたが、アイヌ総合政策室内閣官房)の国会対策(予算)かもしれませんね。

P.S. #5(02.28, 23:20):

国民理解を促進するための活動については、北海道の玄関口である新千歳空港を活用するなど、アイヌ文化を核にした地方創生・観光振興・国際親善を一体的に推進する方策を検討する必要があるとしています。

(「政策推進作業部会」常本部会長による「政策推進作業部会」での検討状況の報告:第7回アイヌ政策推進会議「議事概要」)