AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

遺骨・副葬品の返還にかかる費用について

 4月5日に「大学が保管する特定遺骨等の返還に関する手続の詳細について(意見のまとめ)」(「特定遺骨等返還手続」と略す)なる文書を取り上げた。これについては、同検討会の構成や情報開示方法など、いくつか述べたいことがあるのだが、ここでは、遺骨と副葬品の返還費用に絞って一つ指摘しておきたいことがある。

 3月25日にアイヌ遺骨返還請求訴訟のうちの1件で和解が成立したが、原告団主催の記者会見で北大開示文書研究会の共同代表で、新たに設立された「コタンの会」の代表でもある清水裕二氏資金欠如の問題を訴えて、支援を求めている。

 和解条項の第3項と第6項には、遺骨・副葬品の北大から「引渡場所までの搬送に要する費用」および「埋葬場所についての墓地の使用料及び埋葬に要する費用」は北大が負担することとある。しかし、埋葬そのものに関する費用の負担については記載がないことから、和解条項にいう「利害関係人」が負担することとなっているのであろう。

 そこで、冒頭で言及した「特定遺骨等返還手続」が、このような費用についてどのように取り扱っているのかを見てみたい。

 まず、「各大学と祭祀承継者との遺骨返還に関する合意」の契約書面に「費用負担を必ず定めるものとする」(p. 4)となっている。その上で、次のように、「返還に伴って生じる費用の大学が負担する範囲」を明記している(太字の強調は追加)。

○ 費用負担に関し、各大学は、各大学への申請や特定遺骨等の返還に必須となる費用を負担する。具体的には、ⅰ)特定遺骨等と本人の関係を示すのに必要な公的書類(本人証明の書類あるいは戸籍謄本や除籍謄本等)取得のための諸費用、ⅱ)申請手続に係る問い合わせに係る電話連絡や申請書類の送付に係る費用、ⅲ)返還に係る申請者と大学の間の文書の作成にあたっての費用(旅費、公正証書作成費用)、ⅳ)大学による遺骨の搬送費用などが想定される。存否確認のプロセスにおいて、申請に先立って、上記の費用が生じた場合も同様とする。
○ そのほか、大学は、申請や返還に必須ではないが、場合によっては必要となる費用を負担することが考えられる。例えば、DNA鑑定が必要な場合における鑑定費用や祭祀承継者が遺骨の受入れ等を検討するために遺骨の現認が必要な場合の費用についても、負担することが考えられる。このほかにも費用が必要となることも考えられるが、これらについては、個別のケースに即して大学と申請者の間で費用負担の在り方を協議することが適当である。
○ 他方、申請者側の事情により必要となる費用については、申請者側において負担を求めるものとする。具体的には、祭祀承継者の決定に係る費用(競合申請時における遺族等内の協議を行うための旅費、家庭裁判所への申立に係る費用等)が想定される。
○ なお、仮に、返還申請者が祭祀承継者と認められなかった場合において、上記に係る諸費用の負担を返還申請者に求めることは、返還申請を萎縮させ、返還促進を目指す本手続の趣旨に合致しないことから、これらについても、上記と同様の取扱いとすることが適当である。存否確認の結果、特定遺骨等との関連性が否定された場合においても、同様の取扱いとする。
(pp. 4-5)

 この検討会にも加わっていて、研究材料として「人骨」を欲しがっている人(篠田氏)が「現状のみに目を奪われて将来について考えないことが問題である」と批判していたアメリカの場合においても、遺骨・副葬品の返還を受ける側への資金援助に関しては確かに不十分である。
 2010年7月にアメリカ政府のGAOが、NAGPRA制定20周年を前にして、返還に関係する政府諸機関がまだ完全に同法を遵守していないことを批判した議会向けの報告書では、返還が妨げられたり、遅れたりしている理由の一つに資金不足を挙げている。再埋葬のための場所の用意、遺骨・副葬品の搬送、アクセスのための道路、墓標および保安対策、遺骨の準備、再埋葬に携わるトライブの担当者の旅費を含めて、返還にはさまざまな費用が必要となることが指摘されている。NAGPRAには助成金があるが、競合するトライブがその助成金を獲得することは容易ではない。これまでに返還に関わったトライブは、もっと資金が必要であると指摘している。財布の紐を握る連邦議会が、もっと資金を提供するべきだと助言するトライブもある。NAGPRAの返還プログラムでは、インディアン トライブとハワイ先住民族組織への返還助成金として、毎年平均53,893ドルを交付してきた。平均して約6つのトライブ・組織が、博物館からの返還に関連する諸費用の補足にこれらの助成金を獲得している。しかし、連邦政府諸機関からの返還にはこれらの助成金は利用できないとのことである。また、主要な連邦政府諸機関の間で返還と再埋葬の費用に関する施策が異なってもいる。(pp. 50-52)

 アイヌ遺骨返還に関する海外からの問い合わせで言及した政府の会議関係者が海外視察に訪れて手本にしたのではないかと推察するスミソニアン協会も助成金を支給している。
 同協会のサイトによれば、まず、博物館への返還協議のための訪問の費用が申請できる。1トライブにつき2人までの代表が最長4日間、ワシントンD.C.に滞在する費用が含まれる。遺骨返還に際しては、2人の2日間の滞在費と遺骨と副葬品の輸送費が返還事務局によって支払われる。再埋葬費については述べられていない――政府と北大関係者は、これを手本にしたのだろうか。

 「特定遺骨等返還手続」には、「今般の返還手続の整備を契機に、遺骨等の返還に限らず、広く我が国の先住民族政策におけるアイヌ、国、大学、その他関係者間の協力体制がさらに強固なものとなることを強く望むものである」(p. 1)と書いてある。ここでの「アイヌ」が「北海道アイヌ協会」だけを意味しているのでなければ、遺骨1体分の返還につき「象徴空間」の「慰霊施設」の調査、建設、維持・管理などの全費用の少なくとも1,600(体)分の1を予算措置をすると明言せよと言いたくもなるのだが、果たして、「個別のケースに即して大学と申請者の間で費用負担の在り方を協議することが適当」であろうか。