AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

ヘイトスピーチ対策法成立(w/ P.S.)

 人権や国籍などの差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)の対策法が24日の衆院本会議で、与党と民進党などの賛成多数で可決、成立した。ヘイトスピーチ防止に向けた啓発・教育活動や、被害者向けの相談体制の拡充などが柱で、罰則は設けていない。

 同法の原案は与党が提出し、審議段階で野党の主張を取り入れて一部修正した。ヘイトスピーチの定義について、「外国出身者に対し、危害を加える旨を告知し、著しく侮蔑するなど、地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」としている。

 民進党など野党側は、ヘイトスピーチの禁止も定めるよう求めたが、今回は見送られた。ただ、同法の付則では「差別的言動の実態を勘案し、検討を加える」と明記し、将来の見直しの余地を残した。 

出典:ヘイトスピーチ対策法が成立=啓発・相談を拡充、罰則なし

 「外国出身者」――アイヌモシリを囲い込みによって植民地化された国とみなすならば、アイヌ民族にも適用されるだろうが・・・。
 「啓発・教育活動や、被害者向けの相談体制の拡充などが柱」――アイヌ政策関連会議で議論されていることと似たりよったりだ。

P.S.(2016.05.27, 1:13):
補足1

 「私は、遺骨を取り返すことと合わせて、北大の謝罪がほしいと思っています。謝罪となれば、何について謝るのか、どう謝るのか言及されます。その上で今後どうするのかを双方が考える場が持たれ、未来への展望とつながります。アイヌには培(つちか)ってきた歴史と考え方がある。よその国の価値観で曲げることはできません。それを認めることが差別解消にもつながり、歴史の教科書を書き換えるような話も出てこなくなるでしょう」。


出典:差間正樹さんロングインタビュー

 北海道アイヌ協会は、この法案および可決後の法律についての考え方を表明したのだろうか。先に紹介した北海道アイヌ協会の人権啓発等の取組みについての副題は、「我が国における人種的、民族的差別の解消に向けて」となっているが、同協会はこのような文書でいつ頃から「我が国」という表現を使い始めたのだろうと興味がわいた。

宿帳に
Ainuと書きし
思い出の
ジュネーヴの日々
遠くなりけり
(お粗末)

補足2
 上の定義によれば、常本氏に対する丸山氏の批判は、当たらなくなった。元々、私は、常本氏の論を「ヘイトスピーチ」と称することはしない。(同氏は、恐らく、アイヌをhateではなく、loveしているのだろうし。)先住民族には2つの種類があって、片方は「民族(a people)」の権利を享有し、もう一方はそれを享有しないと言って憚らない詭弁――ILO 169号条約改定時に批判された詭弁であり、『学術の動向』論文でアイヌ民族に都合よく利用している詭弁――を、私はレイシズムの一つの表明とみなす。
 そして、そのことを恐らくご本人も自覚しているのであろう。それが、「アイヌ政策有識者懇談会」での社会科学における理論と現実の関係に関する発言になったのかもしれない。

 今次の「報告書」では、アイヌ民族に対して先住民族の権利を承認しないとは明言していない。アイヌ民族の「政治的、経済的および社会的構造」への言及を避けることで、そこから派生する権利の承認を巧みに避けようとしたのかもしれないが、「報告書」は、「文化、精神的伝統、歴史および哲学」の要素を新政策の根拠としている。しかし、そこに由来する生得の権利には沈黙し、国内事情を口実に、権利の承認には明らかに否定的である。アイヌ民族を「先住民族」と称しながらも、その「先住民族の権利」を承認していないという意味で、有識者懇談会は「2種類の『先住民族』論」に与しており、日本の「先住民族」と「権利宣言」中の「先住民族」を峻別した政府の見解を是認している。
 「2種類の『先住民族』」と同様の政治的方便は、20年前のILO 107号条約改定=169号条約採択の過程でも用いられた。権力者たちは、この種の方便を身に付けるのが何と得意なことか。「先住民族(indigenous peoples)」という概念を条約に用いることは認めたが、大半の国家政府と経営者団体は、条約の「先住民族」には自己決定権を認めず、国際法上2種類の「民族/人民(peoples)」が存在するという奇妙な状態を捻出してしまった。その対応を巡って、先住民族運動の中にその後も続く亀裂が顕在化した。
 皮肉なことに、「国会決議の際に述べられました町村内閣官房長官の談話が、最も充実した形で結実されますことを期待しております」という加藤理事長の願い(第2回会合「議事概要」、12ページ)は、有識者懇談会によって確かに応えられた。その結果、アイヌ民族は今また、20年前に国際的な先住民族運動が直面した状況と似たような状況に置かれている。


「『アイヌ政策有識者懇談会』の政治学入門⑤」『先住民族の10年News』第158号(2009年10月)より。