AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

サハリン アイヌの遺骨返還/国境で分断された北米先住民族への遺骨・文化遺品の返還

 今月上旬、北海道アイヌ協会がドイツの博物館からアイヌの遺骨の返還を求めるという毎日新聞の報道があった。その返還交渉、特にロシアのサハリンで収集されたというアイヌの遺骨の返還交渉がどのように進められるのか、とても興味深い。

 毎日新聞の記事が、北海道アイヌ協会アイヌ総合政策室がまったく知らないところでポンと出て来たのか――非常に考えにくいが――あるいは既に何らかの感触を得ていて出て来たのか、正直言って、私にはまったく分からない。後者であれば、意外と早く「帰還」となるかもしれないが、白紙状態から始めるのであれば、長い年月がかかりそうである。「返還を求める方針だ」と断定的に書かれているから、それは佐藤氏の一存ではなく、AAHが既に方針を決めているということであろう。それであれば、何か声明でも出さないのだろうか。

 集約ではなく元の場所への返還(原状回復)を求めるということに誰も反対しないであろうが、これがどのように交渉されるのか、アイヌ民族の外交にとっていろいろと意義深い可能性が存在している。それだけに、これまでのアイヌ政策関連会議での発言のように、ただ政府に外交交渉をお願いしますとお任せにしないで欲しい。(政策関連会議には外務省から誰も出席していないから、今後出て来てもらわなければなるまい。)AAHは、どのような戦略を描いているのだろうか。

 他国の事例を見ても、相手の研究機関との交渉に自国政府の支援があるに越したことはないが、オーストラリア政府でさえ、返還にあたって大した資金的援助は行っていない*1。政府にしてみれば、アイヌ民族に協力的であるというイメージをアイヌ民族と他の国民に植え付ける絶好の機会であるだろうし、国内の研究者より海外の研究者に国民の目を向けて、そのナショナリズムに訴えながらアイヌ民族を包含していくことも考えるであろう。AAHとしても、政府との協調路線に対する同胞の支持を取り付けるのに格好のPR材料でもあろう――殊に、アイヌ遺骨返還訴訟の和解と再埋葬が大きくメディアに取り上げられた後の注目度の回復に一役買うに違いない。

 今のAAHにそれだけの人的・財政的資源があるのかという課題もあるが、サハリンのアイヌや他の先住民族との連携を取るつもりだろうか。ドイツにある遺骨が本当にアイヌのものなのか、"Aino"と書かれていても、もしかしたら他の民族のものかもしれず、競合する主張が出て来るかもしれない。その場合、どのような対応を取るのだろうか。北海道とサハリンの現住のアイヌの何人かがDNA鑑定を受けて、遺伝的にどちらが近縁にあるのかをどこぞの人類学者に調べてもらうのだろうか。あるいは、競合する主張が存在するにもかかわらず、ここぞとばかりに、「アイヌの人々による尊厳ある慰霊の実現及びアイヌの人々による受け入れ体制が整うまでの間」(「『民族共生象徴空間』基本構想(改定版)」、10ページ)、白老の異例の施設に集約しようとするのだろうか――それこそ、「将来に向けて禍根を残す」(「第19回『政策推進作業部会』議事概要」、13ページ*2)ことになるだろう。*3

 サハリンのアイヌはロシア政府に働きかけるかもしれないが、ロシア政府が動くかどうか、動くとしたらどう動くのか、不明である。もしサハリンのアイヌが孤立した時に、AAHが遺骨の返還を得て、それをサハリンへ返すということも考えられないことではない。このやり方は、北米のカナダとアメリカの国境に分断された先住民族の同胞の間で実際に行なわれた事例が報告されている。それを今回は、チョクトー人であり、アメリカのスミソニアン国立自然史博物館の遺骨返還担当係官でもある人の、先述のシンポジウムにおける話から紹介しておこう。

 2国間の国境線としては世界一長いカナダとアメリカの国境線は、いかにも人工的な直線が大部分を成していて、多くの先住民族領とコミュニティを分断している。アメリカにはNAGPRAという先住民族への遺骨返還のための法律があるが、カナダにはない。(ここからP.S.)これまでにも何度か言及してきたNAGPRAは、先住民族の遺骨/遺骸、副葬品、神聖な用具、文化的財産などを直系子孫やそれらが文化的に属するインディアン トライブおよびハワイイ先住民族組織に返還する過程を規定する米国法である。カナダにはそれに類似する法律がない代わりに、それらの遺骨や文化的遺品の返還は、研究機関や博物館と先住諸民族との間の調整や協働によって行われている。当然ながら、NAGPRAはカナダ国内の先住民族には適用されないし、また国内でも連邦政府に承認されていないトライブや先住民族の集団には適用されない。従って、どちらの場合も同法によるいわゆる正規の手続きによる返還は得られないけれども、連邦政府承認のトライブの助力によって返還を実現するということが可能である。

 一例として挙げられているのが、カナダのトライブから奪われていた神聖な遺品がアメリカのトライブに文化的に帰属すると分かったことで、スミソニアン自然史博物館がそれらの遺品をそのトライブに返還し、直後にそのトライブがその遺品をカナダの同胞に譲渡したという事例である。

P.S.(08.26):そろそろFacebookも始めてみるかな。↓シェア1と記されているけれど、どこでどんな風に扱われているのか分からない。逆に、これらのSNSとの連携機能をオフにする手もあるが・・・。

P.S. #2(08.27, 0:45):やはり思ったとおり、「先住民族ジャーナル」だった。FBは記事タイトル変更前にシェアするとそのままになって、自動的に変わらないのだな。そのうち何か悪戯でも考えるとするか。オバマ大統領の記事は、シェアしてもらえないようだ。理由は、想像できる。

*1:

*2:8、9ページにも同様の発言。

*3:仮に「集約」され、サハリンの当事者から返還要求が出された場合、政府あるいはその時の所轄機関は、「祭祀承継者」であることを示せと要求するのだろうか。