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AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

「2度おいしい」特製ランチ(加藤理事長の名言――その?)/地名の脱植民地化/米国50州の名称の起源

「北海道150年」 マスメディア 北海道アイヌ協会 文化搾取・濫用 脱植民地化 先住民族の権利に関する国連宣言 北米先住民族

センチュリーロイヤルホテル 「北海道命名150年」 アイヌ料理を提供/北海道
毎日新聞2016年10月13日 地方版


 センチュリーロイヤルホテル(札幌市中央区)は、2018年の「北海道命名150年」の記念事業に向け、「北海道」の名付け親で幕末の探検家、松浦武四郎と交流を深めたアイヌ民族の料理を中心にアレンジしたランチ「大地の味」を来月提供する。

 松浦武四郎アイヌ民族の協力を得て蝦夷地の地図を製作したことから、北海道の形をした昆布を乗せた茶わん蒸しのほか、「チポロイモ」と呼ばれるジャガイモにイクラを乗せたアイヌ料理などが盛り込まれたセットで、税込み3780円。来月30日まで同ホテルの日本料理レストラン「北乃路」で提供し、期間中、ホテル2階ロビーで松浦武四郎の功績を紹介するパネル展を開く。

 販売を前に試食した北海道アイヌ協会の加藤忠理事長(77)は「全ての料理がおいしかった。アイヌの食文化や松浦武四郎の功績を学べる2度おいしい企画」と評価した。【高野玲央奈

 強調は追加。

北海道150年事業 応援特製ランチ 札幌
どうしんウェブ 10/13 07:00)


 札幌市中央区センチュリーロイヤルホテルは11月1~30日、道が2018年に予定する北海道150年事業を応援する特製ランチを提供する。12日にはホテル内で試食会を開いた。

 北海道の名付け親、松浦武四郎アイヌ民族の人々の交流がテーマ。武四郎が歩いた道内各地の食材を使い、刺し身やサラダをアイヌ文様風に飾り付けるなど趣向を凝らした。1人前3780円。

 どうしん記事には料理と試食会の様子の写真があるが、コピーできないようになっている。是非、リンクからご覧あれ。

 相変わらず、毎日新聞北海道新聞のコラボレーションみたいだ。毎日の記事を最初に見た時、今では日常茶飯事になった報道機関による(単なるホテルの)宣伝じゃないかと思ったのだが、最後の「オチがサイアク」だ(←P.S.まだあまり多くの人には意味をなさないであろう)。どんな人たちが、3,780円のランチを食べるのだろうな。そして、ホテルは何を「応援」するのやら。

 確かに、「蝦夷地」が「北海道」に改称されたのは1869年であり、武四郎が「『道名の義につき意見書』を明治政府に提出」したのも同年であるが、彼は「6つの道名候補をあげ」たにすぎない。誰(どの機関)が、どういうプロセスを経て命名の最終決定を行ったのか。それは、アイヌ民族先住民族の権利との関係でどのような意味合いを含んでいるのか。松浦武四郎「蝦夷地調査から150年以上経った今」、ワインの1杯でも注文すれば4,000円を超えるであろう特製ランチは、そういう思いをすべて忘れさせてくれる、ウトウトするような至福の時を提供してくれることであろう。

P.S.(10.17-18):
 今夜あらためてこちらの文書(「北海道アイヌ協会の人権啓発等の取組みについて」)を読んだ。この中で、同協会は、アイヌ民族に関する「国民理解が進まない一因」として、種々の学界がその研究成果を社会に適切に還元してこなかったこと、および公教育の内容にあると論じている。私は、ここにマスメディアの役割が付け加えられるべきであると考える。

 さて、

あるものが何と称されるかを決定する権力を有する人々が、現実を決定する権力を有している。
―― バティーストゥ & ヘンダーソン

 ここでは「あるもの」を地名として、「地名の脱植民地化」について少し書き記しておこうと思ったのだが、遅くなったので、今夜はこの言葉と先住民族の権利に関する国連宣言の第13条1項の条文だけにしておく。

Article 13
1. Indigenous peoples have the right to revitalize, use, develop and transmit to future generations their histories, languages, oral traditions, philosophies, writing systems and literatures, and to designate and retain their own names for communities, places and persons.

1 先住民族は、自らの歴史、言語、口承伝統、哲学、表記[体系、]文学を再活性化し、使用し、発展させ、そして未来の世代に伝達する権利[、および]独自の共同体名、地名、そして人名を選定しかつ保持する権利を有する。
(市民外交センター仮訳を基に[ ]の部分を改変した。)

P.S. #2(10.18-19):
 1週間くらい前にアメリカの「人種」関係理論を整理した1990年代末の論文を読んだのだが、その中で著者がW. E. B. Du Bois(デュボイス)を再評価していたのが興味深かった。
 すると今日、ロンドン大学LSEが発行しているThe British Journal of Sociologyからのメールが入っていて、BJSに登録していたかな?と不思議に思いながら見ると、 今年の年次公開講義の知らせだった。「W.E.デュボイスの社会学:デュボイスがアメリカの科学的社会学の始祖である理由」と題された、やはりデュボイスの、イギリスにおける、再評価の講演である。後日、ビデオで視聴できるかもしれない。

☆局所地名の脱植民地化

 「権利宣言」の第13条には「言語」だけでなく、具体的に「地名」への言及がある。地名は言語の一部であり、それゆえに、地名は世界観の形成に影響を及ぼしている。それゆえにまた、地名は世界の現実的認識に影響を及ぼすために用いられ得る。特に公的な文脈における地名の使用は、しばしば政治的目的とつながっている。

 このような認識に基づいて、カイサ R. ハレンダーは、2015年の論文で、地名の利用がどのようにしてしばしば政治的目的とつながっていて、地名がどのように表象を構築するのに用いられているのか、特に、局所名に関する沈黙化と服従化の両方が誤った表象を強化してきた強力な戦略として用いられてきたことを、サーミの地名使用の分析を通して論じた。
 ハレンダーは、結論で次のように述べている。
「バティーストゥによれば、ポストコロニアルな社会は存在しない。むしろ、植民地的メンタリティーと構造が、すべての社会と国々に今なお存在していて、現代世界における脱植民地化に抵抗する新植民地主義的な傾向が[存在している]。この論文で例証したように、先住民族の地名の公的使用が今もなおそれでもって統制されかつ抵抗されている権力構造と実施手段を社会が保持していることから、新植民地主義はまた、局所名に関する新植民地主義も含んでいる。局所地名の新植民地主義の特徴は、まさに、長く保持されてきた諸表象の保持と維持である。局所地名の脱植民地化過程を推進するためのより強固な方法を見出すために、局所地名の植民地主義と新植民地主義の方法と結果をさらに研究する必要がある。」

 ハレンダーは、また別の論文で次のようにも述べている。
「道路標識は、公共の標識として定義され、その使用と言語の選択は、法律と政治的決定に影響されている。道路標識は、サーミ地域における言語的風景の主要部分であり、かくして道路標識の名前の使用と言語の選択は、サーミ諸言語の可視性と言語権にとって大きな意義をもっている。
 サーミ共同体は、いくつかの小さな都市中心部とともに、伝統的な地方社会であるが、都市地域の外の言語的風景における局所名でさえ、特に主要道路上では、マイノリティ言語の推進と可視化において大事な機能を持っている。
 言語的風景の一部としてのサーミの地名の使用は、書き言葉としての受容が、特に公的な使用において、短い歴史しかない言語を推進する際に極めて重要である。従って、言語的風景におけるサーミの地名は、公的な領域におけるその言語の地位を強化し、これによって沈黙化の歴史を断ち切ることになる。地名の使用は、また、言語の視覚による学習も助け、よってサーミ諸言語の標準化を推進する。公共空間におけるサーミの局所地名の使用はまた、言語が危機に晒されて重大な局面にある地域における再活性化過程において意義深い貢献要素でもある。サーミ諸言語の可視性は、マイノリティ諸言語の地位に明確な効果をもち、多言語・多文化社会という考え方を推進する。サーミ地名の承認は、先住民族の権利に関する国際連合宣言第13条の通りに、サーミ民族の言語権の大切な部分を成す。」

 札幌には、このような問題に詳しい地理学の大御所がおられるので、この課題はこの辺にしておこう。

 アイヌ政策関連会議でも道路標識が話題になっていた(実際、このブログでも取り上げたことがあり、「標識等における・・・表記促進」という項目で予算配分が行われている)、その後どの程度進んでいるのだろう。少なくとも、アイヌ民族の言語権や伝統的知識に対する権利をはじめとする文化的権利や脱植民地化と関連付けて問題提起されてはいなかった。*1

 他国の例も含めて過去の記事を列挙しようかと思ったけれど、それは読者の検索に委ねることにする。2つだけ、部分的に引用しておく。

 その前に、アイヌ民族の国土である北海道のことについて、ちょっと地名の上から申し上げておきたいと思います。
 今から百三十年ほど音に三重県三雲町出身の松浦武四郎という方が北海道へ行っております。前後十回ほど行ってアイヌからいろいろと地名を聞きまして、それを書き残してあるのが八千カ所から九千カ所あるというふうに北見市の秋葉稔さんという方がまとめたものがあります。
 それで、その地名を私の生まれて育った二風谷アイヌの村へ持ってきてみますと、武四郎が書き残したと言われる地名がわずか十四カ所、大正十五年生まれの私が二風谷の地名を調査してみますと七十二カ所ありました。ですから、単純な計算で言っても九千カ所の五倍、四万から五万カ所あるということになります。これは推定の部分もありますけれども、現在北海道で使われている地名の九〇%以上はアイヌ語であるということをまず皆さんに知ってもらいたいと存じます。
「萱野茂さんの国会(参議院)内閣委員会での質問(全文)」

例えば、地名をアイヌ語に変更するとか、いつか話題に上がっていたアイヌ民族の日の制定とか、市議会ではどうなったのであろうか。有識者も含め、これほど多くの議員たちがアイヌ民族の存在を認めていながら、なぜ、そういう小さなこと一つ決まらないのだろうか。
「札幌市議会の動向を見ながら思う」

P.S. #3(10.19):
アメリカ合衆国50州の名前の由来

 この追記を最初にもってこようとしていたのだが、最後になってしまった。北海道のアイヌ語地名が膨大な数に上るというのは上に引用したように萱野さんが国会で語っているし、何冊も詳しい本が出版されてもいる。また、日本全土のアイヌ語地名をコツコツと研究されている方もいる。

 先に取り上げたDAPLが問題となっているノースダコタ州もそうであるが、アメリカ合衆国の50州の半数が先住民族の言語から州名を付けている。List of state name etymologies of the United Statesによれば、24州がアメリカ先住民族諸言語、1州(ハワイ)がハワイイ語、22州がヨーロッパ諸語(ラテン語を含む)から命名している。州名の源がはっきりしていないものもあれば、元は先住民族名だったものが、なまったりして変化したものもある。

 上のWikipedia記事に加えて、詳しくは、How All 50 States Got Their NamesOrigin of State Namesを参照されたし。

<了>

*1:P.S. #4アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会の『報告書』での地名に関する提言には、「地名のアイヌ語表記やアイヌ語地名由来の説明表記を充実するなどアイヌ語等のアイヌ文化に学び触れる機会を更に充実させていくべきである」と書かれているだけである。(36ページ)