AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

札幌医科大学との「覚書」の報道についての覚書(+P.S. X 5)

 2つ前の札幌医科大学でのアイヌ遺骨のDNA研究に関する新聞記事にいくつもの疑問が湧いてきて気が散って仕方がないので、覚書として書き留めておく。

 ブログに貼り込んだのは産経新聞の記事で、その時点でこれが一番詳しいということのようなのでそれを使用した。その後、現在までにそれ以上の記事を目にしていない。発信元は共同通信(2/26)と聞いていたが、同社の記事は僅かに2段落、そしてそれを利用したものと思われる西日本新聞京都新聞も同じ内容であった。

 しかし、3カ所ほどを巡り巡って手元に届いた掲載紙が今のところ不明の記事は、北海道アイヌ協会の解説を含めると6段落で、インターネット上に出回っている記事よりも量が多い。産経新聞の記事でも、後半の2段落が抜けている。この2段落には、札幌医科大学長と覚書を交わした加藤理事長の名前が出ていて、佐藤氏のコメントも出ている。また、山梨大教授のコメントも出ているが、名前(安達登氏であろう)は伏せられている。上の方の段落には「国立科学博物館の研究者」も出ているが、これが篠田氏(であろう)ということも伏せられている。妙に政治的な仕掛けの臭いがする。

 遺骨のDNA研究によって「アイデンティティーを調べる」という佐藤氏は、まったく見当違いをしている。彼がそう信じているのか、信じ込まされているのかは分からないが、どちらにせよ問題である。そして、「研究開始当時、地域ごとの同意は必要とされなかった」と「山梨大大学院の教授」は述べているが、研究は2010年から行ったようであり、この発言も批判的に検証される必要がある。「『嫌がっているものを無理にしてはいけないと思っている』とし、アイヌの意向を尊重する考え」ということは、今後は行わないということなのか。これまでに取得した遺伝情報は、どうするつもりなのだろうか。

P.S.(03.02, 14:50):解説を含めて6段落の記事は、沖縄タイムスに出ていたとのことである。「本土」あるいは「内地」の新聞は、全文を出さなかったということか!?

P.S. #2(03.03, 2:10;rev. 03.03, 21:40):なぜ「本土」/「内地」のメディアが全段落を、さらにはもっと掘り下げた記事を載せられなかったのか。それは、一つには現在のアイヌ遺骨をめぐる攻防への意味合いを考慮しているということがあるだろうし*1、また、かつて東村氏がアイヌ遺骨の扱いに関して「研究者も新聞社も共犯関係である」と表現したように、アイヌの遺骨や血液からDNAを採取して「日本人の起源」を研究する研究者と、その研究成果を無批判に「社会に還元」してきたマスメディアが「共犯関係」にあることに気付いているからではないだろうか。各紙それぞれが、そのような研究をこれまでどのように広めてきたのかを検証してみるとよいだろう。

 ヘッセを読んだ後、下手な文章を書く気になれなくなっていたので、もっと世俗的な読み物に戻ろうと思い、現在、ボブ ウッドワードの『権力の失墜〈1〉―大統領の危機管理』 (日経ビジネス人文庫、2004年)を読んでいる。「覚書」の記事が出た時には、カーター政権誕生直後のワシントン ポスト紙との駆け引きの部分を読んでいた。まあ、読み物としては、こっちの方が面白い!

P.S. #3(03.04):

最高に有効なスパイ活動とは密告のことである。問題はただかかる活動を絶対に隠しおおし、頑として活動の有無を否定しつづけることである。それは何もりっぱな道徳とか哲学上の争点とかではないのだ。


「理念は常にウソが裏切る」上掲書、127ページ。

P.S. #4(03.04, 13:40):新規投稿が上にあるから埋もれるかもしれないが、話を戻して、ここにいくつか付け加えておく。

北海道ウタリ協会札幌医科大学との「覚書」自体は、榎森進氏の『アイヌ民族の歴史』に載っている。

②私は、この報道について(記事そのものを見る前)知った時、記事中で言及されている2人の研究者と北海道アイヌ協会が別に「覚書」を交わしていて、それが出て来たのかと思った。だとすれば、スクープ記事だなと。
③記事の価値は、ある読者が「ミソ」と書いてきたが、「関係者への取材で分かった」とされている部分であろう。(+タイミングもあるが、それは、ある効果を狙ってのことであろう。)また、その記事を北海道新聞が取り上げていないということから見えてくるさまざまな、恐らく「予期されざる結果」を見せてくれていることであろう。
④かくなる上は、フォローアップ記事で、その「研究成果」がどの論文・著作となったのかも出して欲しい――もうそれは分かっていて、既に検証している人たちがいるみたいだということが、私は使っていないが読者に教えられるツイッターの投稿でチラッ、チラッと見えてくる。

 最近、興味深く読んだ記事に琉球新報「京大に琉球人骨26体 昭和初期から未返還 学者収集」(2017年2月16日 06:30)と、「百按司墓『県文化財に』 今帰仁教委要望 琉球人骨、県と協議も」(2017年2月17日 11:46)がある。
 数年前、ブログで先住民族の遺骨返還運動を取り上げ始めた頃、旧知の琉球人の研究者にお尋ねしたことがあった。その方は超多忙の方なので、「注視しておきましょう」ということだった。
 琉球では「先住民族」(の視点からの取り組み)に関する理解がまだ広がっていないところもあり、またそれに対する拒否感もあるようである。だが、上の2本の記事を読んで、遺骨を掘り返した「研究者」を見れば、それは決して無関係ではないし、また台湾からの返還に関しても、「国際的返還」と無関係ではないだろう。
 もう少し、後で追記したいことがあるが、一旦ここまでにする。

P.S. #5(06.10, 1:04):こちらの6月5日付の投稿で、3月18日の平取の集会における市川弁護士の話が公開されている。関係部分を引用させて戴く。

 でも(象徴空間施設が完成するとされる)2020年まで、研究はまだまだ先のことだろうと思っていたら、ついこの間、共同通信がスクープしました。札幌医科大学で(保管しているうち)100体前後のアイヌ遺骨から遺伝子が抽出──ようするに遺伝子研究に提供されていた、ということです。

 道内ではマスコミがあまり大きく取りあげなかったので目にしていない人も多いと思いますが、本州なんかでは大きく取りあげられて。『沖縄タイムス』は外交面で、トランプ米大統領の記事と、キム・ジョンナム殺害事件の記事の真ん中にその記事が掲載されていて、非常に目立っていました。

 札医大の遺伝子研究は、将来の(収集アイヌ遺骨を利用した研究の)布石になっているんですね。基本的には歯を粉砕して、中の髄(ずい)から遺伝子を採るのですが、今回は(保管中の頭骨から抜き取った)歯を上下半分に切ってその下半分を使ったらしいです。上部を元に戻して外見上分からないようにした、とそこまで言ってるんですよ。

 どこに言っているかというと、この札医大の研究については、篠田謙一さんという筑波の……国立科学博物館の人がわざわざ研究計画書を作って、この計画書に基づいてやっています。(計画書では)札医大の89体の遺骨からサンプルを採る、となっていますが、実際はもう少し採っていたのではないか、というのが共同通信の記事に出ていました。

 上に書いた通り、本州で「大きく取りあげられ」たということは、私は確認できないままだった。さらに、最も詳しく報じたのではないかと思っている沖縄タイムスの記事からは、下線を引いた部分は確認できない。「共同通信の記事に出ている」というその記事を、読者でお持ちの方は共有して戴けないでしょうか。沖縄タイムスの記事には「100体」ではなく、「骨約100個でDNAサンプルを採取した」としか書かれていない。
 こうしたことから推測すると、市川弁護士はこの時点で「研究計画書」を入手していたのではないだろうか。なにしろ、報道内容よりも彼の話の方が詳しいのだから。

*1:現時点で北海道新聞は、この件に関して沈黙しているようである。