AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

オーストラリアからのアイヌ遺骨返還(続)(w/ P.S. X 6)

 直前の投稿に追記(P.S. #4)しようと思ったが、長くなったので新規で続きとする。

 オーストラリアの博物館と東大がそれぞれの国の先住民族の遺骨を交換した可能性が表面化したのは、私が知る限りにおいては、昨年の9月の報道によってであった(Cf. 2016-09-22 「アイヌ民族とアボリジニの遺骨」)。それは、北海道アイヌ協会の加藤理事長が世界考古学会議で「遺骨返還に国際的後押しを」北海道新聞)と訴えたことと連関していた。この時、加藤理事長は、「国の責任の下で」の「日本の取り組みに国際的な後押しをしてほしい」と言ったらしかった。(しかし、この報じられた言葉については、2016-12-30「北海道アイヌ協会、加藤理事長の世界考古学会議での講演原稿」のP.S. #2で検討を加えておいた。)
 非常に興味深いというか面白いと思うのは、それから9カ月の間、北海道アイヌ協会は国際返還に向けて何もしてきてなかったのではないかということである。9日の北海道新聞は、このように報じている。

コート大使は協会の阿部一司副理事長と面会し、遺骨の状況や返還意向を記した報告書を手渡した。コート大使や関係者によると、大使は協会側に「オーストラリアの博物館としては返還に同意しており、協会からの正式な申請を待っている」として、申請があれば返還することを明言したという。

 また、同日の毎日新聞も次のように報じている。

・・・協会は今後、関係機関と調整し、正式に返還を申し入れる方針。

 (略)大使は協会側に「オーストラリアの博物館としては返還に同意しており、協会からの正式な申請を待っている」として、申請があれば返還することを明言したという。

 直前の記事に引用したミャンマーの新聞(共同通信配信)は、こう書いている。

The Japanese government will confirm the wishes of the association before beginning talks with Canberra, according to diplomatic sources.

つまり、アイヌ協会の願望(遺骨を返して欲しいのかどうか)を確認してからオーストラリア政府との交渉を始めるのだと。政府も、まだ何もせずにサボっていたということなのだろうか?

 国内の他紙も大体同じような内容であるが、地元のNHKニュースが最も詳しく報じている感じである。「なぜ今か」も解説されているが、深い真相は不明である。それに、ここでも東大にあるはずのアボリジニの遺骨には一言の言及もなかった。⇒北海道 NEWS WEB「豪博物館がアイヌ民族遺骨返還へ」(06月08日 19時18分)
 ニュースの中で北大の加藤教授は「単独で先住民族の団体や個人が請求して得られるものではありません」と断言しているが、例えば、2016-10-31「諸外国へ持ち出されたアイヌの『祖先』の帰還先」こちらの映像を参照されたい。

 最後に、2014-09-23「『先住民族に関する世界会議』採択文書における遺骨・儀式用具の返還」からもう一度、関連項目を引用しておく。そう言えば、NHKニュースに出ていた副理事長は、この国連の世界会議に日本政府代表の一員として参加していたではないか! もうすっかり忘れそうだった。あれからもう2年半。北海道アイヌ協会は、何をやっていたのですか。

27. We affirm and recognize the importance of indigenous peoples' religious and cultural sites and of providing access to and repatriation of their ceremonial objects and human remains in accordance with the ends of the United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples. We commit ourselves to developing, in conjunction with the indigenous peoples concerned, fair, transparent and effective mechanisms for access to and repatriation of ceremonial objects and human remains at the national and international levels.


27. 私たち[国連総会]は、先住民族の宗教的および文化的な場所の重要性と、先住民族の権利に関する国際連合宣言の目的に従って先住民族の儀式用具と遺骨/遺骸へのアクセスを提供しかつ返還を行うことの重要性を確認しかつ認識する。私たちは、当該先住民族と協同で、国内および国際的レベルで儀式用具と遺骨/遺骸へのアクセスと返還のための公正で、透明かつ効果的な仕組みを作成することを誓約する。(D. X.仮訳)

新しい読者へ:本文中の薄い青字の部分は、上をクリックするとリンク先が開かれます。(ビュー数だけが増えて正確な訪問者が分からなくなるので、あまりリンクを多く張りたくないのだが仕方ない。)
 古い読者へ:独り言のような、単純な質問は、ご自分でお調べ下さい。

P.S.:昨夜、在日オーストラリア大使館のリチャード コート大使への手紙の下書きをした。しかし、ドン キホーテが書いても仕方ないな。同国の遺骨返還政策に対する篠田氏の攻撃的な発言に対して、大使なり同国政府がどのように考えるか聞いてみたいということも一つある。

 先ほど、大使館のサイトを見たら、「最新ニュース」は今のところ6月2日までの感じで、北海道アイヌ協会訪問に関する記事はないようだった。某国の亡国大統領のように、ツイートを連発することもないのだろう。因みに、その大統領のツイートは大統領の公式発言であるとして文書にまとめるサイトができ、瞬時に大勢の登録者が出たそうである。まだ知らない読者のために、お知らせしておく。ここである。

 話を戻すと、オーストラリア大使館ホームページには出ていないが、大使館のフェイスブックには投稿があった。

アイヌ民族の遺骨返還」Return of indigenous Ainu remains

先住民の遺骨・遺品返還への機運が国際的に高まる中、オーストラリア国立博物館とミュージアム・ビクトリアに保管されていたアイヌ民族の遺骨3体が、日本に返還される可能性が出てきました。

遺骨返還の手続きにおいて、当事者となるのは両博物館であり、オーストラリア政府はこれに公式な役割を担うものではありません。コート大使は昨日、札幌で北海道アイヌ協会の阿部一司副理事長にお会いし、こうした可能性についての報告を行いました。

Thanks to the efforts of Japanese and Australian researchers, three sets of Ainu remains currently held in Australia by the National Museum of Australia and Museums Victoria have been discovered and are available for return to Japan.
While the Australian Government does not play a formal role in the repatriation of remains (the process of which is managed by the museums themselves), Ambassador Court was delighted to meet the Deputy Executive Director of the Ainu Association, Mr Katsushi Abe, yesterday in Sapporo to convey the news.

 まず、日本語文面には出ていないが、英文ではアイヌ遺骨3体が見つかって返還することができるようになったのは、両国のresearchers(研究者たち)のおかげだと書かれている。大体、想像がつくであろう。
 そして重要なことは、同国政府が「公式な役割(a formal role)」を担わないとして距離をおき、返還手続きは関係博物館との交渉となるとしていることである(このことは報じられていた)。さあどうするか――阿部副理事長をはじめ、北海道アイヌ協会はどこを向いてどう動くのだろうか。


 さて、話題を変える。いま私が注目しているのは、「世界の片隅」で入植者との接触以前から自生する野草が広がる地で、その地を管理する政府機関と考古学者と先住民族との「協働」でその地の考古学調査をこの夏に行なおうとする計画が持ち上がり、地域の生態系保護団体や先住民族が反対の声を上げている状況である。
 先住民族の考古遺物の発掘調査と自然の生態系保護――どこかの国と同じですって? そうかもしれません。

 また、しょーもないことを書き始めてしまった・・・。

P.S. #2(22:15):この事例は、考えれば考えるほどおもしろくなる。関係者は実際のところを知っているのだろうが、表には出さないのだろう。この前、もう我慢ならないから全部ばらしてやるとかツイートしていた人がいたが、ちゃんと何かに書いて欲しいものである。

 もしもだが、北海道アイヌ協会がオーストラリア政府にかけ合ったのではなく、それどころか返還要求の計画を立てて動いてさえいなかったのだとしたら、副理事長さんは「俺は知らなかった」とか言いながら、きっと戸惑っていることだろう。オーストラリア大使は「研究者たち」と書いていたが、それに1つ2つの新聞社も加わっていたのではないのだろうか。いずれにせよ、これは世界的にも歴史的にも極めて特異な事例になるかもしれない。

 もしNAGPRAのような仕組みが国際的にあれば、東大の博物館はきちんと収蔵している遺骨のインベントリーを作って、アボリジニの当該コミュニティに知らせなければならないのだ。既に存在しているが、このような仕組みを作るための国際的な運動を大きくする必要がある。

P.S. #3(06.14, 22:45):「学問の」というより、「学者の」暴力に照準が絞られてきたかのようである。
LOCKON DOGFIGHT posted by beterhans

P.S. #4(23:40):こちらの第29回~第31回も記録が残っていないということにならなければよいが。
Cf. 前川氏が新証言「安倍首相肝いり『明治日本の産業革命遺産』でもゴリ押し“人事介入”」〈週刊朝日〉

P.S. #5読売が「恥の上塗り」前川会見での珍質問より。

「私が職場で常に強調していったのは、自分が現に関わっている身内的問題について、言論の自由を行使できない人間が、社会ないし国家の重大問題について、主張すべきことをしっかり主張できるか、ということであった」(本田靖春著『我、拗ね者として生涯を閉ず』講談社)

 北大の「流し台のタンク」とか某協会にも言えるのではないかな。こういう問題に触れると、いつも"Workplace Democracy"という言葉を思い出す。
Cf. “The Soviet Union I left behind was a dictatorship but the workplace was a democracy; America may be free but the workplace is a dictatorship” said Len Erlikh...."("Democracy is a great thing, except in the workplace"

P.S. #6(06.15):設定はしていないのだけど、各記事のタイトルをクリックして一つだけ表示して読むと、下方に「関連記事」が自動的に表示されるようになっている。いつからなのか自分でも分からないし、どの程度「関連」している記事が挙がってくるのかも分からない。

P.S. #7(06.18):上のP.S.で書いた考古学調査は、この夏には行われなくなったという報道が約1日前に出ていた。