AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

北海道新聞社説:「先住民族の遺骨 返還の機運を高めたい」(w/ P.S. X 8)

 読者からお知らせ戴いたけれど、いま他のことに集中しているのでコメント一言、質問一つだけにしておく。
 昨年来、北海道新聞の担当者も調査に関わってきている感じだから、そりゃそうでしょう。
 第30回作業部会の「議事概要」で、どなたかが面白いことを言っていた。政府の官僚がドイツからの別の遺骨の返還に消極的なことを言っていたのに対して、遺骨の返還を求めるのに、なぜ奪われた側のアイヌに挙証責任を押し付けられるのかと。ドイツの1体、オーストラリアの3体と言わず、どんどんと返還の機運を高めるとよいだろう。オーストラリアからアボリジニの遺骨に関する関心が伝えられてきた。また当然、琉球人遺骨の返還の機運も高めねばなるまい。しかし、なぜ「政府や関係する研究機関」だけに「徹底した調査と返還をめぐる関係国との真摯(しんし)な協議が求められる」としているのだ? この編集委員は、先住民族の権利宣言をちゃんと読んで書いているのだろうか。

 「一言」を超えてしまったか。上にも疑問形で書いてしまったが、質問というのはこれである。「先住民族の遺骨研究には、人類学上の観点の半面、人種差別的な収集という負の側面がつきまとってきた」という一文。「人類学上の観点の半面」というのが、私には意味不明である。この編集委員も、研究の内容には興奮を覚えるというのだろうか。「人種差別的」というのは、「収集」だけのことか。

先住民族の遺骨 返還の機運を高めたい 06/17 08:50

 ドイツの民間学術団体が、保管しているアイヌ民族の遺骨の1体が墓からの盗掘だったと判断し、近く日本政府を通じて返還する。

 オーストラリア政府も、自国内の2博物館に保管されているアイヌ民族の遺骨3体を返す意向を日本側に伝えた。

 昨年夏以降、海外に渡ったアイヌ民族の遺骨の存在が次々と分かり、返還の動きが続いている。

 アイヌ民族の遺骨を巡っては、国内の大学などで保管状況などの調査が進められている。

 一方、国外流出の遺骨は8カ国に及ぶとの指摘もあるものの、全容はよく分かっていない。

 政府はまず、海外に渡った遺骨の把握を急ぐ必要がある。

 その上で、持ち出された経緯を詳細に調べ、出身地域や子孫などが特定できるなら、元の場所に戻す努力をするべきだ。

 先住民族の遺骨研究には、人類学上の観点の半面、人種差別的な収集という負の側面がつきまとってきた。

 しかし、2007年に採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」に「遺骨の返還」を求める権利が明記され、その前後から流れが大きく変わった。

 例えば、欧州に流出したオーストラリアの先住民族アボリジニの遺骨である。

 英国は約10年前、エディンバラ大学が保管していた約2千体のうち700体をオーストラリアに返還。ドイツも13~14年に大学主体で約50体を返した。

 気になるのは、国外から入手した遺骨に関する、両国と対照的な日本の動きの鈍さだ。

 北大では1995年、サハリンのウイルタ民族などの遺骨6体が段ボール詰めで長年放置されていたことが分かり、4体がロシアの民族側などに返還された。

 だが、後が続いていない。

 オーストラリア政府から返還されるアイヌ民族の遺骨3体については、アボリジニの遺骨との交換であり、3体が東大に送られた記録が同国側に残されている。

 なのに、東大側はノーコメントを通している。閉鎖的な対応は世界の潮流に逆行するのでないか。

 このままでは、他国にアイヌ民族の遺骨返還を求めても、勝手な言い分ととられかねない。

 実は、国内で保管されている外国由来の遺骨は、その実情すら分かっていない。

 政府や関係する研究機関には、徹底した調査と返還をめぐる関係国との真摯(しんし)な協議が求められる。

P.S.:削除。

P.S. #2:削除。

P.S. #3:新聞の社説というのは出典を明記しなくてよいからいいよな。例えば、オーストラリアのアボリジニ遺骨の返還がどのように行われて来たか、今度特集でも組んで、時系列的に2007年の「前後から流れが大きく変わった」のかどうかを検証してみると良いだろう。北海道新聞にとっては、そのくらいのことは容易いことだろう。

P.S. #4:参考までに記しておく。
 エジンバラ王立外科医師会が500体の遺骨を返還したのは2000年のこと。「約10年前」とは、これに言及しているのだろうか? 私には、もう20年近く前に思えるが。エジンバラ博物館からの返還は2003年。この年、アイルランドのダブリン王立外科医師会が、自国に遺骨を帰還させるためにアイルランドまで訪ねたアボリジニの代表に60体の返還を行っている。翌2004年には、スウェーデンストックホルム民族学博物館が20体のアボリジニ遺骨を返還。これは、ヨーロッパの主要博物館からの初の自発的返還であった。
 先住民族の権利に関する国連宣言採択後の2008年にはスコットランド国立博物館が6人のアボリジニの頭蓋骨を返還しているが、この年にエジンバラ大学は、収蔵しているアボリジニの最後の遺骨を返還し終わっている。もちろんその後も、アボリジニへの遺骨の返還は、世界の各地から続いている。
 残念ながら、10年前の2,000体のうちの700体という情報を私は持ち合わせていない。インターネット上で探せば見つかるかもしれないが、それは私の仕事ではない。
 仕事と言えば、先日ブログを非公開にした際に、「生活の糧の仕事でない限り、気が乗らない事はしない方が個人の人生として健全だ」という的確な助言を戴いていた。記して感謝します。

P.S. #5:「政府や関係する研究機関」が保有している国内・国外の先住民族の遺骨/遺骸に加え、先住民族文化遺産の返還のための「徹底した調査」を課す法律制定の「機運を高めたい」ものである。しかし、北海道新聞社はまず、「人類学上の観点の半面」に自社がこれまでどう関与してきたかの検証を行なわねばならないだろう。

 次の社説は、「『アイヌ新法』制定の機運を高めたい」だろうか。

P.S. #6(22:40):いくつか感想を付け加える。
 恐らく多くの読者は、上の社説を好意的に受け止めているのではないかと思う。しかし、私にはいくつかの疑問が残る。
 第一に、これまで長い間、北海道アイヌ/ウタリ協会の代表が国連の会議などに行く時に、海外に保管されている文化財に関しては独自に調査をしたり、博物館などの機関を訪ねたりしていたようである。然るに、こと遺骨に関しては、独自で動こうとしていないように見える(あるいは動いていてもそれがまったく見えてこない)のはなぜなのか。

 社説は、「3体が東大に送られた記録が同国側に残されている」と書いている。先日、駐日オーストラリア大使が阿部副理事長と会談した際に渡したと報じられていた報告書にその記録が収められているのだろうか。北海道新聞は、その記録についてアイヌ協会やオーストラリア大使館に取材して報道しているのだろうか。もし報じられていたら、どなたか道新を購読している方が教えて下さるとありがたい。
 そういう記録があるのであれば、オーストラリア政府は同国のアボリジニのコミュニティや団体に周知徹底するか、既にしているはずであろうし、いずれ、東大の博物館にも照会や訪問があることであろう。(もしかしたら、同博物館ではどこにあるのか分からずに右往左往しているのかもしれない――勝手な推測であるが。)

 また、「東大側はノーコメントを通している。閉鎖的な対応は世界の潮流に逆行するのでないか」とも書かれているが、道新の「水曜討論」にも出ていた篠田氏らは、「世界の潮流」が間違っているという考えなのだから、それに「逆行する」と言ったところで、彼らにとっては「屁の河童」ではないのか。だから、上述のように、「人類学上の観点の半面」という意味を明瞭にする必要があるし、単純に2007年前後に「世界の潮流」が「大きく変わった」という議論ではダメだと思うのである。各国の先住民族の不断/普段の努力があってのことなのだ。だから、そこでまた話が3段落上のアイヌ協会の不活発に戻るのである。

P.S. #7(06.20):26日の講演者の組み合わせが非常に面白い! 篠田氏の話には新しいことはなさそうだし、私としては、阿部副理事長の話により強い関心がある。

P.S. #8(22:50):今、「日本人類学会の研究倫理基本指針とアイヌ「人骨」研究」を読み直した。初出は約6年前。

現在、大学等に保管されているアイヌ民族の遺骨の研究は、日本人類学会の研究者が「集団として倫理的責任を負う選択を提出」していると言えるであろう。日本人類学会および「人骨」研究者が、アイヌ民族に対する「第一位の倫理的責務」に従って、遺骨研究の自主的モラトリアムを宣言することを期待したい。

 当時、理事だった篠田氏は現在、会長となっている。モラトリアムを宣言するどころか、この頃も盛んにアイヌ遺骨のDNA分析を行っていたようである。