AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

海外のアイヌ遺骨返還をめぐるポリティクス(w/ P.S. X 4)

 今夜は、昨夜の投稿にコメントを追加しようと考えて、9件を下書きしておいたのであるが、その中から3つを取り出して少し敷衍することにした。

 1つは、前にも「動き出したアイヌ政策」とかいうような見出しがあったなと思ったのであるが、それは、2016-12-05「アイヌ政策過程におけるマスメディア(新聞)⑤」で取り上げた朝日新聞による「国のアイヌ政策が動き始めた」という記事であった。

 国のアイヌ政策が動き始めた。2020年に白老町で「民族共生象徴空間」が開館し、生活や教育の格差解消などを視野に「アイヌ新法」制定への検討も進む。今後の政策への期待と課題を聞いた。

 昨年11月初旬の記事であったが、「動き出した」直後にエンジントラブルに見舞われた感じだった。

 実は、「動き出した」というのは、NHKが前にも使っていた。このブログの前のオリジナルのAINU POLICY WATCHの2014年8月7日の投稿で、その前年の9月27日(金)に放送されたという「動き出した“国立アイヌ博物館”」』という番組の録画を見たということで、この動画この動画を紹介していた。

 昨夜の投稿動画へのコメントの2つ目は、司会進行役のアナウンサーが、「なぜ今この時期にドイツではなく、急にオーストラリアからの返還が浮上してきたのでしょうか。それが国内のアイヌ遺骨の返還との関連でどういう意味合いをもつのでしょうか」と、加藤教授に問うてみれば良かったのにというものであった。
 その時点で読んでなかったのだが、今日、そのドイツからの遺骨の返還に関する報道を読んだ。まず、ドイツにあるアイヌ遺骨のことを報じ続けている毎日新聞である。私が興味をもった箇所に下線を施し、一部には青字でコメントを挿入する。

「アイヌ遺骨 31日返還式 政府、独の団体と合意」毎日新聞(2017年7月20日)

 【ベルリン中西啓介】北海道で盗掘されたアイヌ民族の遺骨がドイツで保管されている問題で、日本政府は遺骨を所有する民間学術団体「ベルリン人類学民族学先史学協会」(BGAEU)と返還について合意し、31日にベルリンの在独日本大使館で遺骨の返還式を行うことを決めた。複数の関係者が明らかにした。19世紀後半以降、アイヌ民族の遺骨が人類学などの研究対象として海外に持ち出されたが、外交ルートを通じた返還が実現するのは初めて
 また、日本は2007年に国連で採択された「先住民族の権利に関する宣言」に賛成しているが、今回の返還は宣言に盛り込まれた「先住民族の遺骨返還への努力」を政府が履行した最初の例になる。

 返還されるのは、1879(明治12)年にドイツ人旅行者ゲオルク・シュレージンガーが札幌のアイヌ墓地から収集した頭骨1体。シュレージンガーは19世紀の民族学誌で「夜の闇に紛れて入手した」と盗掘による収集だったと認めている。遺骨はBGAEU設立を主導したベルリン大教授のルドルフ・ウィルヒョウに研究資料として提供されていた。

 BGAEUは昨年12月の毎日新聞の取材で、遺骨が「不当な手段」で収集された可能性があることを把握。測定や資料照合の結果、今年1月、「倫理的に許されない手段で収集された」と認め、日本政府と返還協議を行う意向を表明した。内閣官房アイヌ総合政策室が在独日本大使館を通じ返還協議を進めていた

 返還式には、北海道アイヌ協会の加藤忠理事長がアイヌ民族を代表して出席。BGAEUのアレクサンダー・パショス代表、日本政府の代表者と共に、遺骨の返還に関する合意文書に署名する予定だ。ドイツ以外の外国にも複数のアイヌ遺骨が散逸しており、今後返還が実現する場合、今回の政府主催による返還式がひな型になる見通しという。
<ここまで読んで、読者は既にお気づきだろうと思うが、そしてこれまでにも書いてきたことでもあるが、ドイツの団体との交渉過程にアイヌ民族が関与しているようすが見えない。仮に関与しているとしても、どのように関与しているのかが見えない。「合意文書」に関して北海道アイヌ協会の中で、そして他のアイヌ民族団体を含めて検討されたのかも分からない――恐らくされていないのではないかと思う。しかも、それが今後の返還の「ひな型になる」などと、とんでもない話だと私は思う。それこそ、日韓の慰安婦に関する「合意文書」の二の舞になるのではないかとさえ思ってしまう。
 さらには、先住民族の権利に関する国連宣言の履行という点でもズレがある。
 「初めて」とか「最初の例」とかばかりが、まるでそれを誇るかのように記されている。>

さらなる「帰国」へ
 【ベルリン中西啓介】北海道から盗み出されドイツへ渡ったアイヌ民族の遺骨が138年の歳月を経て、「帰国」する。海外からの返還「第1号」となる遺骨を巡っては、日本政府と独収蔵団体の間で数カ月にわたる協議が行われた。政府は早期返還実現のための閣議決定を行い、ドイツ側の説得にも努めた。返還協議で進められた取り組みは今後、国内外におけるアイヌの地位向上に大きな役割を果たしそうだ。

 毎日新聞の報道で盗掘により持ち出された遺骨がドイツにあることが判明した昨年8月、内閣官房アイヌ総合政策室は返還を視野に外務省に情報収集を依頼した。遺骨を所有する独民間学術団体「ベルリン人類学民族学先史学協会」(BGAEU)が今年1月、返還の意向を表明すると、在独日本大使館の公使が担当者となり、返還協議に着手した。

 だが、BGAEUが「日本国内のアイヌ民族の同意をどう得るか」や、返還後の遺骨の公平な取り扱いについて政府の対応を求めたこともあり、協議は難航。日本政府は、北海道内に2020年度までに完成予定のアイヌ文化振興施設」<こんな名称でドイツ側に説明したのか?>に関する基本方針に、明確な基準を持って遺骨問題に当たる考えを明記することにした。6月の閣議決定では、この基本方針に遺族への遺骨返還を優先し「直ちに返還できない遺骨については施設に集約」することも記載。さらに人権に配慮し、施設で管理する遺骨を研究対象にしないことも記した。<これが本当なら驚きだな。あの「閣議決定の一部変更」は、海外からの遺骨返還のためであったと!?>

 また政府は国際問題としてアイヌ遺骨返還に取り組む姿勢を明確化するため、返還式の実施も早期に決めた。返還式は先住民の名誉を回復し、過去の傷を癒やす象徴的な意味合いもあるとされる。前例のない返還式を行うため、先住民問題の「先進国」である豪州政府が実施してきた返還式を参考にし、日本政府、北海道アイヌ協会、BGAEUの代表が返還合意文書に署名することにした。

 アイヌの遺骨は欧米や豪州などにも散逸している。豪州政府は6月、国内にある3体のアイヌ遺骨を返還する意向を表明。今後、日本政府は返還実現に向け、情報収集を進める方針だ。ドイツからの遺骨返還で生まれた担当省庁間の連携や、返還式などの枠組みが海外からのさらなる遺骨返還に貢献することが期待されている。<これらの経緯をどれだけのアイヌ民族の当事者が知っているのだろう。この記者は、何を勝手に「期待」しているのだろう。>

 もう1つは、北海道新聞の記事である。

「アイヌ遺骨31日返還 独団体、札幌へ1体」北海道新聞、2017年7月20日

 ドイツの民間学術団体が明治期に道内から同国に持ち出されたアイヌ民族の遺骨1体を盗掘と認定して返還を決めた問題で、この遺骨の返還式が、31日に首都ベルリンの在ドイツ日本大使館で行われることが分かった。明治期以降に研究目的で海外に持ち出されたアイヌ民族の遺骨が、公式に返還されるのは初めて
 返還するのはベルリン人類学民族学先史学協会(BGAEU)。1879年(明治12年)に札幌市内の墓地から遺骨を持ち出したドイツ人旅行者の記録などの審査で盗掘と認定し、日本政府側と返還に向けた協議を進めていた。

 この記事の続きは、ここで読むことができる。

 返還式は日本政府関係者と北海道アイヌ協会の加藤忠理事長らが出席し、BGAEUの幹部とともに遺骨の返還に関する合意文書に署名する。返還後は千体以上のアイヌ民族の遺骨を保管する北大構内の「アイヌ納骨堂」に暫定的に納められ、8月4日に同納骨堂で予定している毎年恒例の慰霊祭「イチャルパ」でともに供養される予定だ。<これに関しては、北海道アイヌ協会他の関係者から「再埋葬の場所が決まらない中で返還の議論を進めるのはおかしい」、「時期尚早」との声は上がらないのだろうか。>

 返還式は当初、6月中旬に行う方向で調整していたが、延期していた<なぜか? 毎日新聞が報じているような経緯に加えて、オーストラリア大使の訪問があったからか。それとも同大使の訪問は、ドイツとの協議が「難航」していたことへの対応としてアレンジされたのだろうか。>

 アイヌ民族の遺骨をめぐっては昨夏以降、ドイツのほか米国、英国の研究機関でも保管していることが判明。オーストラリア政府は6月上旬、遺骨3体を返還する意向を北海道アイヌ協会に伝えている。

 昨夜の投稿動画への3つ目のコメントである。ドイツやオーストラリアからの遺骨返還が扱われ、後者に関わっていたという加藤教授が登場し、そして映像にはオーストラリアの博物館関係者や交渉団体とされるアボリジニーの団体が紹介されていた。しかし、極めて奇妙なことに、北海道アイヌ協会への取材は行われなかったのか、同協会の見解については一言もなかったのはなぜなのか。
 海外からアイヌ遺骨が還ってくることは大歓迎である。しかし私には、それが政府やメディアの「初めて」争いも含めて、国内にあるアイヌ遺骨の返還問題との関係で政治的な道具にされている気がしてならない。

 遅くなったので、ここまでにして投稿する。

P.S.(07.22):第31回作業部会の議事概要が公表されないのは、この件に関するやり取りが収められているからなのだろうか。当該遺骨の遺族の子孫を式典に出席させるかどうかとか、その遺族の子孫への返還が先に申請されたらどうするのかとか、2020年には北大の納骨堂から白老の施設への移転なのか――閣議決定の意義はそこにあるのだとか、それは「拉致」状態の場所が変わるだけではないのか、等々。

P.S. #2(07.22):通常というか、一般的に理解されているジャーナリズムというのは、今回のような政府が関係する「合意文書」の存在を嗅ぎ付け、それを何らかの方法で入手すると、それこそ「第一」を争ってスクープ記事にするであろう。しかし、ことドイツのアイヌ遺骨に関する限り、その文書の内容の秘密を守る取り決めでもあるかのようである。見返りは何であろうか。返還式の独占取材などというものではあるまいな――こうして報じられた以上、他のメディアも動き出しているはずだからそれは難しいか。
 BDAEUとの協議が難航した理由に、「日本国内のアイヌ民族の同意をどう得るか」ということがあったそうであるが、これについてアイヌ総合政策室や北海道アイヌ協会などはどう対処したのだろうか。ここで先方が言及した「日本国内のアイヌ民族」とは、北海道アイヌ協会であろうか。だとすると、その協議の中に同協会は入っていなかったということになりはしないか。あるいは、同協会をも含めた協議の過程で出た質問であれば、それは既に対外的にも明白になっている可能性が強い遺骨問題をめぐっての北海道アイヌ協会と他のアイヌ諸団体との対立を念頭に、他の諸団体からの「同意をどう得るか」という質問であったと考えられる。そのような協議が行われたとは考えにくいのであるが、私が知らないだけかもしれない。しかし、果たしてこの質問に、どういう回答が提示されたのであろうか。

P.S. #3(07.23):#2の「回答を教えて」って、すぐ上の#2のこと? 私が教えて欲しいです。
P.S. #4(07.23):私は遠くから"watch"しているだけ。近くの「市民」は、どう"examine"しているのかな。
 さて、台風の心配でもしながら、暫く静かにしていよう。