AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

上の写真:ジュネーヴのサン-ピエール大聖堂からレマン湖を望む。

ドイツからのアイヌ遺骨はアイヌ民族に返還されてはいない! 先住民族の権利宣言の履行でもない!

 この「毎日ウィークリー」(8月12日号)の英文記事は、非常に興味深い。簡潔かつ正直である。

"Germans return Ainu skull stolen from Japan"

  
BERLIN - The skull of an Ainu person that was stolen by a German from a Hokkaido grave in 1879 was officially returned to the Japanese government during a ceremony here on July 31.

 強いて指摘すれば、「日本から盗まれた」とか、「北海道の墓」とするよりもアイヌの墓と具体的に明記して欲しかったが、下線部は「日本政府に公式に返された」となっている。
 その通り、外交的にやり取りした"property"(財)を政府が北大の納骨堂に収蔵してしまっており、アイヌへの返還は今のところ幻なのである。(これも煙幕の中か。)
 毎日新聞は――その他のメディアもだが――、政府のPRばかりしていないで、なぜ「合意文書」を報じないのか。

Yes, that's right. This article is very honest in saying that the Ainu skull "was officially returned to the Jananese government," which then stored it in the former "Specimen Storage," currently called "Charnel House," of the University of Hokkaido. It has yet to be returned to the Ainu people.

It was reported that the three parties -- the German academic society that kept the skull for 138 years, the Japanese government, and the Ainu Association of Hokkaido -- signed an agreement that made the repatriation possible. Strangely enough, however, as of today, no Japanese media seems to have exposed what is written in the agreement. The Japanese government, perhaps as well as the other two parties concerned, seem to have thrown up a smoke screen!

I wonder if there has been any German media coverage of the three-party agreement. Was any German press present at the ceremony?

Para. 27 of the Outcome Document of the World Conference on Indigenous Peoples held in 2014 addresses the issue of the international repatriation of indigenous peoples' ancestral remains. The repatriation must be "in accordance with the ends of the Declaration" on the Rights of Indigenous Peoples. I'd like to call the readers' attention particularly to the latter sentence in which the States commit themselves "to developing, in conjunction with the indigenous peoples concerned, fair, transparent and effective mechanisms for access to and repatriation of ceremonial objects and human remains at the national and international levels" (emphasis added).

Most importantly, as is seen above, the process of repatriating the Ainu skull from Germany to Japan is not transparent at all! Moreover, the three-party agreement is reportedly expected to be THE model for future cases of the repatriation of Ainu ancestral remains from abroad.

27. We affirm and recognize the importance of indigenous peoples’ religious and cultural sites and of providing access to and repatriation of their ceremonial objects and human remains in accordance with the ends of the Declaration. We commit ourselves to developing, in conjunction with the indigenous peoples concerned, fair, transparent and effective mechanisms for access to and repatriation of ceremonial objects and human remains at the national and international levels.


 ところで、毎日新聞は、別件でこのような質問を受けているようである。


P.S.(08.12):

 北海道アイヌ協会と日本人類学会、日本考古学協会の3組織は7月、先住民族遺骨の国際返還に関するガイドラインの検討を始めた。海外の博物館などが保管するアイヌ遺骨について日本が返還を求める場合▽日本国内の大学などが保管する先住民族遺骨について海外の先住民族団体などから返還を求められた場合--の2通りの状況について、日本の基本姿勢や返還手続きの流れを示すものになる。今後、オーストラリアとの国際返還の際に適用されることが見込まれている。【三股智子】


「ドイツのアイヌ遺骨問題 外交通じ初の返還 植民地政策、収集促す」毎日新聞(東京)、2017年8月11日朝刊)

 ドイツの場合、政府がガイドラインを作成中だからそれを待ってからと、どこぞの大学が言っているらしいことは言わなかったのだな。
 海外から返還を求められた場合のガイドライン作成に北海道アイヌ協会が関わる!? ドイツからの返還に関する「合意文書」の内容公開が、ますます重要である。
 琉球抜きでやるのか!? この3組織は、文科省の下請け作業団体になってしまったようだ。

P.S. #2(08.13, 01:10):上でリンクした毎日新聞の記事は、今回の「歴史的出来事」に至る経緯をかなり詳しく報じている。

 「ドイツにアイヌの遺骨もあるようだ」。独研究機関が返還を進めるヘレロ人の遺骨問題を取材していた記者に昨年春、情報が寄せられた。当時、日本政府は国内の大学にある遺骨の状況確認を進めていたが、ドイツにアイヌ遺骨があるという情報は把握していなかった。

 さすがにジャーナリストとしての倫理規定があるから情報源は明かしていないけれど、私は誰だか知っています。結局のところ、何も知らなかったという政府に上手いこと絡め取られたという印象が拭えないのだが、今回の返還の顛末は、その情報を寄せた人物が願った通りだったのだろうか。この記事のP.S. #3「返す気があれば早い」で書いたような、先方から直接、札幌のアイヌ協会への返還申し出があって、直々運んで来て返還するというような可能性だってあったのではないか。しかも、ここで引用した北海道新聞の記事では、返還された遺骨の発掘場所が判明したと報じられていた。

 昨年8月の報道でドイツの遺骨の存在を把握した日本政府は当初、2020年度までに北海道内に慰霊施設を備えたアイヌ文化振興施設が建設されることを念頭に、海外からの返還については「慰霊施設の建設までをめどに進めたい」としていた。
 だが、今年1月、BGAEUが毎日新聞に対し、「RV33は倫理的に許されない手法で収集された。日本政府と返還協議をしたい」と表明したことで、事態は急展開した。内閣官房アイヌ総合政策室は即座に在独日本大使館に協議着手を要請。駐独公使が担当者となり、BGAEU側と半年にわたる協議を実施。独側の懸念を払拭(ふっしょく)するため、遺骨の保管基準に関する閣議決定を行うなどし、返還で合意した。

 事態の「急展開」の背後には、もっとドロドロとしたものがあると思われてしょうがない。それに、「閣議決定」の一部変更に、一時的な保管場所に北大納骨堂を使用することも、本当に盛り込まれていたのだろうか。

 さらに、この記事では、先に「遺骨の返還に関する合意文書」と書かれていたものが「返還を証明する書類」となっている。単に「返還を証明する書類」を交換する「返還式」が将来の海外からの遺骨の返還の「ひな型になる」というのだろうか。

 43年に当時東大解剖学講座の助教授だった男性が発表した論文には「東大解剖学教室に保存の六個の豪州人男女性頭骨」の記述があるが、小金井氏の資料を管理する東大はこれまでのところ、アボリジニ遺骨の所在について明らかにしていない。

 現在の情報提供者でもないだろうし、しかも公刊されている論文なのだろうに、なぜ下線部の研究者の名前が伏せられているのだろうか。男性か女性かの方が、より重要な情報なのか。

北海道大アイヌ・先住民研究センターの加藤博文教授(考古学)は「日本はアイヌ遺骨に対してどのような対応を取るかが問われるし、それはそのまま日本国内で確認される海外の先住民遺骨の返還への対処に影響する」と指摘する。

 そうですね。もっと早くから発言して下さっていれば――職場周辺ではされていたのかもしれませんが、例えば、「日本の場合は、返還要求される物が多すぎて、対外的な返還要求は、パンドラの箱のようなものか」とか、「サハリンの遺骨は、今後、国際的遺骨返還の対象としても大いに関心と注目を集めることになるだろう」とか、書かずにすんだのにな。

P.S. #3(08.13):毎日新聞には1日の東京版朝刊に「アイヌ遺骨 歴史的出来事 大規模返還に課題も」という記事が載っていた。その後半に、このようにある。

 日本政府との返還協議は今年1月、毎日新聞の取材に対し、収蔵団体の「ベルリン人類学民族学先史学協会」(BGAEU)が頭骨1体について盗掘と認定、返還意向を表明したことで本格化した。

 BGAEUは返還へのアイヌの同意取り付けを求めたほか、遺骨の取り扱いで人権的配慮を要望。政府は閣議決定で2020年度完成予定の「アイヌ文化振興施設」の基本方針に、返還と一時保管に関する基準を明記。保管遺骨の研究利用も禁じる対応をした。

 北海道大アイヌ・先住民研究センターの加藤博文教授(考古学)は「最初の国際返還事例で、政府がアイヌ民族の利益代弁者として責任を持って関与したことは大きい」と評価する。一方で、BGAEUにはアイヌ遺骨5体が、独政府系機関ベルリン博物館連合(SMB)にも最大11体が残る。豪州の先住民アボリジニの遺骨の事例では、英国との首脳レベルの合意で、英国内法の枠組みを超えた大規模な遺骨返還が実現している。日本政府が残された遺骨にどう向き合うのか、加藤教授は「政府の政治的努力について、今後の試金石になる」と指摘する。

 下線部①:「アイヌ」(ここでは北海道アイヌ協会とされている)から返還のイニシアティヴが出されていない証拠である。あるいは、返還要求が出されていても、BGAEUの条件との間に相違があったのか。政府は、北海道アイヌ協会にどのような方法と条件で同意を取り付けたのか。
 下線部②:アイヌ政策関連会議でしばしば、北海道アイヌ協会の代表は「国の責任で」と、政府に下駄を預けるような発言を行っているようではあるが、政府が「利益代弁者」として任されたのなら――そのような「取り決め」は存在するのだろうか――、先方の主張に対する同意の「取り付け」(=自分の方に引き寄せて獲得する)――相手も傲慢であるが――に大慌てするというのも、なんとも奇妙ではないか。
 いずれにせよ、加藤教授は、「政府がアイヌ民族の利益代弁者として・・・関与した」と解しているわけだ。

Cf. UNDRIP, Article 19:
States shall consult and cooperate in good faith with the indigenous peoples concerned through their own representative institutions in order to obtain their free, prior and informed consent before adopting and implementing legislative or administrative measures that may affect them.

 因みに、今回の返還に関して、毎日新聞や他のメディアは、UNDRIPの履行だと書きたてているが、その第12条2項には次のように明記されていることを確認しておこう。
2. States shall seek to enable the access and/or repatriation of ceremonial objects and human remains in their possession through fair, transparent and effective mechanisms developed in conjunction with indigenous peoples concerned.
 下線部の"their"は"States"(国家/国連加盟国)を指す。つまり、ここでは国家が保有している遺骨が取り扱われているのである。BGAEUは「独政府系機関」とは異なる民間団体のように書かれているが・・・。
 同条1項に遺骨の返還に対する先住民族の権利――中西記者が前に書いていたような、ただ「求める権利」でもなく、また国家の権利でもない――が明記されていることはこのブログ読者には繰り返す必要はないであろうが、UNDRIPの履行と言えるのは、現在政府系機関(北海道大学)に保有されてしまった返還遺骨を次の国立機関(異例の施設)に保有させずに先住民族に返還してからのことであろう。

P.S. #4(08.13):記事の通りに、ドイツからの頭骨1つの返還を実現する――その象徴的意味合いの――ために政府がアイヌ政策関連会議をすっ飛ばして、頭越しに「保管遺骨の研究利用も禁じる対応をした」のなら、拍手喝采、大笑いでもある。まさにアイヌ頭骨の「外圧」さまさまである。

P.S. #5(08.14):「国際返還」のガイドライン作成の件。
北海道アイヌ協会がオーストラリアからの返還申し出に対して、どう要求してよいものか困って両学協会に助けを求めた?
②よほど先進的なものを作らないと、北海道アイヌ協会は、琉球はじめ、海外の先住民族との関係において窮地に立たされることになり兼ねない。
③東大、京大をはじめ、国内の大学・博物館関係諸機関に対して、この3組織はどれほどの権威をもっているのか。

P.S. #6(08.14):

 オーストラリアの2博物館では、アイヌ民族の頭骨計3体が保管されている。豪政府は今年6月、北海道アイヌ協会側に駐日豪大使が面会して返還の意思を伝えた。

 ドイツに留学して解剖学や人類学を学んだ小金井氏は、ベルリン大のルドルフ・ウィルヒョウ教授をはじめ海外の研究者と活発に交流していた。日豪双方で見つかった資料によると、小金井氏は1911年、豪アデレードの人類学者との間でオーストラリアなどの先住民アボリジニアイヌの遺骨各1体を交換。35~36年にはメルボルンの博物館館長との間で、アボリジニアイヌの遺骨各2体を交換した。アデレードに送られた遺骨は、後に移管されたキャンベラの国立博物館で見つかった。

 日本政府は、アボリジニの遺骨3体の情報を持って、その子孫の家族のコミュニティをつきとめて――日本政府だから「祭祀承継者」まで探し出すことでしょうが――、駐豪日本大使を派遣して返還を申し出るのが、外交上の返礼であり、2国間の友好のためにも必要だろう。
 それを考えていると、国内の地域返還のガイドラインも含めて、日本政府が「ガイドライン」作成と言い出すのは、どうも時間稼ぎ、引き延ばし策の一環のようである。

P.S. #7(08.15):海外の先住民族の遺骨を収集したり交換で譲り受けたりした側ではないのに、なぜ北海道アイヌ協会はここに加わって行くのか。こういうことこそ「国の責任で作成しろ」と、なぜ言わないのか。乏しい人的資源をこういう作業に取られずに、「新法」の要求活動に集中させなくて良いのか。政府や国内の大学・博物館の利益を代弁するようなろくでもないガイドラインができた時には、それこそ国内外の先住民族の批判の的となるだけだろうに。

P.S. #8(08.16):浦幌への遺骨返還に合わせてオスプレイが飛来する! アイヌモシリの領空権を侵害して空を舞う! アイヌ民族を「代表する」人たちは、
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 そして私も、これでもう暫くは、