AINU POLICY WATCH

――In Light of the U.N. Declaration on the Rights of Indigenous Peoples――

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アイヌの血液を使い回した研究2例(rev. w/ P.S. X 3)

 1964年のケンブリッジ調査隊によるアイヌ血液採取から生まれたハーヴェイとブロスウェルの論文は、終盤でアイヌの混血度と統合度を論じる際にバチェラーやマンロー、高倉、知里らの著作にも言及しながら、その題が示す通り、アイヌの髭や頭髪がアイヌの共同体で持っていた社会的な意味を積極的に評価している点で、それなりに面白いところもある(pp. 121-123)が、ここでの関心――アイヌの血液採取と二次利用――から逸れるので、ここでは深入りしないでおく。
 地図や図表で分かり易かったため、ハーヴェイとブロスウェルの論文を取り上げておいたのであるが、実は、彼らが「生物学的側面」(p. 120)で言及しているように、ケンブリッジ調査隊が採取したサンプルを利用したもう一つの論文がある。今日の一つ目は、このアーサー G. スタインバーグ(Arthur G. Steinberg)による"Gm and Inv Studies of a Hokkaido Population: Evidence for a Gm2 Allele in the Ainu"(「北海道の一集団のGm とInv因子の研究:アイヌ人におけるGm2対立遺伝子の証拠(エヴィデンス)」=拙仮訳),American Journal of Human Genetics, Vol. 18, No. 5 (Sep, 1966)である。スタインバーグは、医学や生化学の研究と教育で全米で高い評価を受けているウェスタリザーブ大学(現在のケース ウェスタリザーブ大学)の生物学科に属していた。
 下の引用は、同論文の冒頭の2段落(「序」と「試料と方法」の一部)である(p. 459)。まず2段落目のマーカー部分に注目して戴きたい。前出のケンブリッジ調査隊で採取された日高地方の187人のアイヌの血液(ここでは「血清」(serum)となっている)が、これも先に言及した「アーサー ムーラント博士の厚意によって」この研究の実験のために提供されたことが述べられている。
 「序」から分かるように、当時の遺伝学者の関心は、「人種」間または「人種」内集団間の生物・医学的相違を明らかにすることであった。そして極め付きは、「北海道からの人種的に謎めいた/得体の知れない(enigmatic)アイヌ人からの血清サンプルを試験する機会が提示された時、我々は即座に受け入れた」という一文である。そして、ここでも児玉を含むシモンズらの論文を参照するようにと挙げられている。*1
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 血清サンプル(試料/標本)が「北部日本へのケンブリッジ調査隊」によって北海道という島の日高地方の人々から集められ、187件がアーサー ムーラント博士の厚意によってGmとInv因子の試験のために利用可能にされた。サンプルのうち50は地元の情報提供者たちが純粋な家系のアイヌであると断言する個人から集められ、73が混合家系ではあるが多くのアイヌの特徴を有する個人から、59が明らかに日本人とアイヌの混合家系の個人から、そして5つが混合家系ではあるが圧倒的に日本人の特徴を有する個人からのものであった。

 スタインバーグがシモンズらの研究のアイヌアイヌ系日本人の下位区分は「恐らく生物学的に意味がないであろう」(p. 461)としている点*2や、児玉が1953年時点の日本政府による推定アイヌ人口15,000人うち3%以下が「純血の」アイヌと分類されるとしていたのに対して、日本人の混合は恐らく10%以下であろうと推定している(p. 465)ことも興味深い。

 こちらは、平取町アイヌ施策推進課の調整で同町のアイヌ民族の代表者たち(the representatives of the Ainu people)に、過去の分子人類学的研究とこの研究を説明したそうであるが・・・。被験者への説明とは書かれていないし、同意が地域の代表者たちおよび各被験者から得られたのかも書かれていない。
 琉球人については琉球大学の研究グループによって2004年から2008年に集められたDNAサンプルが使用されたらしいが、こちらは、説明についても、同意の取得についても何も述べられていないな。
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 上の埋め込みの1段落目(黄色のマーカーが入った段落)である。

アイヌ民族の血液サンプル(試料/標本)*3が北海道の日高地方、平取町で、1980年代初期に東京大学からの一団によってDNAの分析のために収集され、以来そこのアーカイブに保管されてきた。これらのサンプルを使用する研究*4は、東京大学の研究倫理委員会(拙仮訳)によって認められた。これらのアイヌのDNAサンプルは、[注に挙げられている4件の]ミトコンドリアDNAに関する先行諸研究、[3件の]Y染色体に関する研究、そして[4件の]ヒト白血球抗原型に関する研究で用いられたものと同じであった。私たちの2人(斎藤成也とティモシー ジナム)が平取町を最近訪れて、この研究だけでなく過去のこれらの分子人類学的諸研究をその地域に居住しているアイヌ民族の代表たちに説明した*5沖縄本島出身の琉球人のDNAサンプル*6は、2004年から2008年までに琉球大学の一団によって集められた。これらのサンプルを使用する研究が、琉球大学の倫理委員会によって認められた*7

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 "for"?

 1980年代に平取で採取された血液は、ずっと東大で保存されているのだね。2012年にはこんな記事も書いていたが、状況は改善したのだろうか。
 内容的には、安達・篠田らの研究と対比して読むと面白いが、両派(?)が一堂に会して議論するともっと面白いのかもしれない。

P.S.(2018.05.12, 1:30):今日は、今ようやくブログを開くことができた。昨夜、どうやらメモ帳から転記する際に1段落落してしまっていたようだ。目も疲れているので、その補足だけにする。以下の段落は、冒頭の1段落の後に入るものとして読まれたい。

 ハーヴェイとブロスウェルの113ページには、次のような調査方法の説明がある。
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 アイヌ人およびアイヌと日本人の混血は、写真用の器材が備わった遮蔽された部屋かブースの中で、座った状態で、ウエストまで裸にされて観察された。大人の男だけが、この研究に含まれた。年齢が各検査の前に口頭で得られ、アイヌアイヌ/日本人、圧倒的に日本人への大まかな分類が全身外観もしくは質問によって評価され、そして可能な場合、東京大学人類学科によって提供された、最近の日本の調査からの家系データによって確かめられた。

P.S. #2(2018.05.13, 0:33):標題の「2例」の意味が分かり難いという指摘を戴いたので――多分、書きながら他の「読者集団」を意識していたことも影響しているかもしれない――、本文の関連2か所を翻訳して青字で入れることにした。1つ目は、論文を読む限りにおいて、ムーラントからスタインバーグへ提供された血液サンプル。ケンブリッジ大学に冷凍保存されているのかな?
 もう1つは、点線より下に埋め込んでいる日本人類遺伝学会の2012年のJournal of Human Geneticsに掲載された多数の共同研究者が名を連ねている論文である。東大だけでも相当数のアイヌの血液やDNAのサンプルがありそうだ。私は、ここの注1この記事で言及した本田優子氏が書いている「ある国立の研究機関で遺伝子を研究している先生」も、この研究や先行研究で利用された血液の収集に関係していたのではないかと疑っている。

P.S. #3(2018.05.13):これまでに何度も引用してきた「アイヌ政策有識者懇談会」の第5回会合での篠田謙一氏による発言である。ちょっと弄らせてもらう。

資料1に主なアイヌ人骨血液がどのように集められたかということを表にしました。古くは明治時代から集められた人骨もあります。大正時代あるいは昭和の初期、あるいは戦後に随分沢山の人骨血液が集められています。このような先達が集めた人骨血液の研究によって、私たちはアイヌの成立あるいはアイヌの集団の地域差といったものを見ることができたわけですが、決定的に本土と集め方が違っていたのは、本土の日本ではそこの人々自体に収集の目的、ないしはその意義を説明して人骨血液を集めましたが、残念ながらアイヌ人骨血液の中にはそのような手順を経ずに集めた人骨血液がかなり混ざっています。これは人類学者としても率直に反省しなければいけない点だというふうに思っていますが、このような人骨血液の研究、特にDNAの研究などは、今後更に研究が進めば、より多くのデータを得る可能性があります。ですから、このような人骨血液も合わせて、慰霊(??)とそれから研究というものの両方ができるような設備が整って、今後アイヌ研究あるいは日本人全体の成り立ちの研究といったものが更に進むといったことを私どもは願っております。(p.5)

 実際の報告には「私たちの研究室には5,000体位の人骨があります」とも明かされていたが、いったいどれだけのアイヌ血液標本が日本国内だけでなく海外の大学や研究室で「休眠」しているのであろうか。小山参事官! 調査しなくてよいのですか?

*1:スタインバーグの研究は、「遺骨・DNA研究と先住民族――人類学研究と人体組織試料」で簡略に言及されていた。

*2:ハーヴェイとブロスウェルもシモンズらの研究を参照しており、そこでこのことを取り上げながらも、彼らの研究には暫定的な下位区分が役に立つとして利用している(p. 120)。

*3:次段落にあるように、36人分。

*4:"This study"あるいは"The present study"ではなく"A study"となっているのは、この研究とはべつの「ある(一つの)研究」なのか、それとも「(サンプルを利用する)どの研究でも」なのだろうか。

*5:既に指摘したこととは別に、1980年代から2012年の間にこの地域から他所へ移転した被験者もいるのではないだろうか?

*6:次段落にあるように、38人分。

*7:”A study"については上述と同じである。上記の東大の件と同じく、まさに「キツネがニワトリ小屋を守ることに少し似ている」のではないかな。各倫理委員会の構成員を知りたいものである。

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